2004年04月01日

昭和最後の日-10(@w荒

自転車で、川まで走った。
ひろゆきは、自転車を辺りに転がして、
川の土手に体育座りをし、膝に顔を埋めた。
キスしてたよ。
ひろこがキスしてた。
おれ以外の男とひろこがキスしてた。
ひろゆきは文章を心の中で膨らませ、
二人のキスのイメージを何度も反復した。
ひどく自虐的な気分になった。

そのとき。
「にゃーーん」
白い猫がひろゆきの近くにやってきた。
「にゃーん」
近くの浮浪者が飼っている猫だ。
この辺の人にエサを貰うことが多いせいか、
人によく慣れている。
ひろゆきは、猫を持ち上げて、胸に抱いた。
目の前を川が無造作に流れていく。
対岸では、野球をやっている。
ここだけみると、今日は何も無かったかのように見える。
ひろゆきは、乳色の空を見上げた。

ひろゆきは、ビートたけしのファンだった。
あのような飄然とした生き方に憧れていた。
「おいら、どこにも居場所がないよ」
ひろゆきは猫を抱きながら言った。
おいら、
というたけしが用いている江戸っ子風の一人称を使ったのは、
これが初めてである。
 猫は、ひろゆきを見つめている。
「にゃーん?」
「お前はいいよな・・・自由で。
おいらもお前みたいになりたいよ」
 猫は、むずかってひろゆきの胸から飛び出した。
「にゃーん」
 土手を下っていく。
 ひろゆきは両頬に両手をあてて、川の流れに意識を向けた。
 おいら、将来はどうしよう?
 ひろゆきは、自問した。

 ひろゆきは、河原を歩む猫を見た。
 名も知らぬ猫は、さっきまで抱かれていた
ひろゆきのことなどお構いなしに、
いかにも自由そうに伸びを打ち、
叢(くさむら)で戯れ、
身づくろいのために自分の脚の毛を舐めていた。

その姿を見ていると。

ひろゆきの心の中で、突然何かが煥発(かんぱつ)した。

そうだ、どうしようなんて思うこと自体がよくない。
 
 どうにかなるさ。
 今、一番楽しいことをやればいい。
 
 ひろゆきは心に決めた。
 愛にも頼らない。
 カネにも頼らない。
 自分の心の思うままに生きよう。

日が暮れてきたようだ。
「にゃーーん」
猫が、ひろゆきの方を見上げている。
「じゃあな。おいら、帰るよ。元気出た。ありがとう」
 ひろゆきは、自転車に乗って土手を走った。

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昭和最後の日-9(@w荒

そのうち、練習は一旦休憩になった。
ひろこは、タオルで顔を拭きながら部室の方へ向かった。
ひろゆきは、後を追った。
追ってどうするんだ?
と心の中で自問したが、解答などあるはずもない。
部室は、校舎の端のプレハブの中にあった。
ひろゆきが部室の前まで来ると、
ひろこのタオルが無造作に
廊下に置かれた彼女の名前の書かれた
スポーツバッグの上に置かれていた。

ひろゆきは、
ごくりと唾を飲み込み、辺りを見回してから
その黄色いタオルを手に取った。
顔をタオルに埋める。
「くせっ・・・」
思ったよりいい匂いではない。
当たり前だ。汗の匂いなのだから。
彼はタオルをバッグに戻した。
すると、部室の中から声が聞こえてきた。
なんだろう。

ひろゆきは、
部室の窓の隙間からこっそりと中を覗いてみた。
ひろこが、先輩の男子生徒と話している。
そのうち、会話が止まった。

男子生徒が、ゆっくりとひろこの方に近寄っていき、
二人は唇を重ねた。
ひろゆきは目を見開いてこの光景を見ていた。
だが、
足を動かした際に、ひろこのスポーツバッグにぶつかってしまい。

思ったよりも大きな物音が出てしまった。

「誰っ?」
ひろこが言った。
「やべっ!!」
ひろゆきは脱兎のように走り出した。
プレハブの階段を5段抜かし、6段抜かしし、
校舎の中へ走り去り、
裏口から自転車を駐車しているところを目指して
一目散に走っていった。
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昭和最後の日-8

乳色の曇り空の下、テニス部員が練習をしていた。
この学校は、
どちらかというと左翼系の教員が勢力を占めている。
天皇が崩御したくらいで、
クラブ活動をやめたりするなどということは
考えも及ばないことだった。

成田ひろこは、
コートの中で何人かとサーブの練習をしていた。
ひろゆきは、少し離れたところから、彼女を見つめた。
ひろゆきがひろこを気になり始めたのは、
彼女が単に可愛いからではない。
彼の冗談に笑ってくれたからだ。
ある日、
二人は日直になって教室の窓の開け閉めを担当した。
作業が終わって帰るとき、
カバンの中にノートや教科書を詰め込んでいるひろこに、
ひろゆきは
「成田の周りは何にも成田」
等という凍りつくギャグを言ったが、
どういうわけかひろこはくすっと一回笑ったかと思うと、
堰を切るように笑い出し始めた。
「ぷ・・・くくく・・・あははははは」
ひろゆきは、
彼女の笑いこけるありさまを驚きの目で見つめていた。
何か彼女の笑いのツボに嵌ったか、
それとも彼女の生理期間だったのだろう。

ひろこはひろゆきの冗談に笑ってくれた。
ひろゆきの中で、ひろこは大きな存在になっていた。

ひろゆきには、
性体験と呼ばれるものがこのときまで全く無かった。
異性を意識したことはなかったし、
大体姉と共有する部屋にいる以上、
自分だけの空間がないので、自慰もできはしなかった。
それでも、
夜寝るときにひろこの顔が心に浮かび、
胸が締め付けられるような思いをしたこともあった。

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昭和最後の日-7(@w荒

組織の一員として働くのはいやだなあ?
ひろゆきは、その父の姿をみてそういった思いを強くした。
生徒会の仕事もそれ以来はサボリ勝ちだ。
だが、今日の午前はきっちりと参加した。
それは、テニス部で練習をしている
クラスメートの少女を見るためである。
だが、あいにく隣の中学に練習試合に出かけていた。
今ごろには中学に帰ってきて、夕方まで練習しているはずだ。
彼は自転車を中学の近くに停めた。

ひろゆきはクラスの中では浮いていた。
友達はいることはいるが、
ひろゆき自体あまり友達づきあいが好きな方でもないし、
エイジや金田のように
ゲームソフトを持っている者のところに入り浸って
ゲームをするというのがその主な交際の態様だった。
ひろゆきは、集団行動が苦手だった。
皆と同じ行動をするということが苦痛でたまらなかった。
自分の時間を強制的に奪われるのがイヤなのだ。
大体、官舎という
もともと同じ職場の同じような給料を
貰っている人々の家族と暮らし、
そこでは元々すぐに噂が広まって
プライバシーが脅かされているというだけではなく、
部屋自体も姉と共有で、自分の部屋さえももっていないので、
自分の空間や時間というものが極端に少ない。
ひろゆきは、そんな自分の日常が嫌だった。
自分だけの時間と空間。
自分だけの暮らし。
ひろゆきはそれに憧れていた。

小学校のときは、
ひろゆきは常に授業中は誰かと話したり、
また突然教室を歩き出したり、外に出たりした。
それは、学校という制度による
強制的な時間の窃盗行為に対する
ひろゆきの一種の反抗といえた。

だが、
中学に入ってそれは通らなくなった。
一学期の最初の授業のときだった。
ひろゆきは真新しい学生服を着て
周りの小学校時代からの知り合いに話し掛けたとき、
教師がつかつかとやってきて、
ひろゆきの耳を掴んだ。
「いて、いててててててててて」
その姿に、クラスの皆は爆笑した。
このとき彼のクラスでの地位は定まった。
ひろゆきは、本当は極めて論理的で理屈の通った人間だが、
クラスではおどけたひょうきん者の仮面を被ることにした。
笑われているように見えるが、
本当は笑わせてやっているんだ。
ひろゆきは、
常にそう思いながらおどけた振る舞いをしていた。
だが、ひろゆきの冗談はそれほど面白いものではない。

彼の本質である理が優っているため、
予想ほど人は笑ってくれないのだ。
ひろゆきが笑わせようとして何か言ったとき、
大抵はクラスに沈黙が支配した。
だが、
ひろゆきが一旦何か失敗をしたり、
思いもかけないところで
人は大笑いするのだ。
これは彼にとっては痛し痒しなところだった。
それがこれまでの彼と他人との関わり方だった。



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昭和最後の日-6(@w荒

ひろゆきは、小学校のとき父の働いている
税務署に行ったことがある。
父や母の職場の様子を作文にしてくるという
宿題があったからだ。
くすんだ外壁の建物の中で、
大勢の職員に混じって父は働いていた。
ひろゆきは、
待合の長いすの端にちょこんと座りながら、
緊張して父の様子を見ていた。
彼のように飽きっぽい性格の人間でも、
父の仕事の様子は面白かった。
「そこの地上権の残存期間だけど、11年だろ?
 相続税法23条の規定通りに100分の10掛けでいいんだよ。
 いや、特別措置法45条4項は関係ない。
 4項規定の対象は昭和55年から昭和59年までに
 地上権が設定されたものに限定されているから」
こう部下を説得する父の姿は、
ひろゆきにとっては論理と秩序の体現者に見えた。
「昭和55年から59年までですね?」
部下が念を押した。
「そうだ」
父は頷いた。
システム。
ひろゆきの心の中で、
仕組みとか機構に対する志向性が生まれたのは、
父の働く姿によるものだった。

ひろゆきにとって、
最近まで父親は侵しがたい崇拝の対象であった。
ひろゆきは勉強も嫌いだし、飽きっぽい性格だが、
それでも父親に言われれば言うことを
比較的素直に聞いていた。
無論、
父親が一家の大黒柱として
収入の源であったということもあったが、
何よりもひろゆきにとっては
父親が論理と機構を象徴するものであったからだ。

だが、最近その父親の権威が揺らぐ事件が起きた。
ある晩、父親は酔っ払って帰ってきた。
「くそっ!役人なんてやるもんじゃないなあ・・・・」
父はそういってどかっと卓の前に腰を下ろした。
滅多にないことだが、父は仕事の内容について話しはじめた。
酔って口が軽くなっていたためだろう。
とある企業に税務調査に入ったのだが、
その内容に関して、
税務署の先輩で今は税理士をしている人間から
横槍が入ったらしい。
その先輩は父とはあまり反りが合わない人物だったようだ。
だが、意見を通さないわけにはいかない。
連綿と続く人事の秩序があるからだ。

その企業は3階建てになっている。
3階建てというのは、
税務署出身の税理士を
3人顧問税理士として抱えているということだ。
今度、最長老の税理士が引退する。
一つ、枠ができるわけだ。
そういったこともあって、
今回は慎重に、ということが上層部の意思としてあるらしい。
「つまらん・・・本当につまらんよ」
父も、税務署を退職すれば法律上は税理士になることができる。
だから、大きな意味で
この手の利害関係の真っ只中にいるわけだ。

論理と公正の象徴に見えた父。
ふん、結局あんたも理不尽な世間の利害の仕組みの
無力な一部品に過ぎないってわけかよ。
ひろゆきは、その姿を見て、
父への失望と憐れみと同情と怒りが一緒に噴出してきて、
わけのわからない感情に襲われた。

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昭和最後の日-5(@w荒

金田は呆れたようにひろゆきを見つめた。
「じゃあ、お前はお前自身しか必要としてないってことだ」
その言葉に、ひろゆきは頷いた。
「そうかもしれない」
「じゃあ、俺もいらないのかよ?」
金田はひろゆきを見た。
「それは・・・」
ひろゆきは、
プラスチックの箱の中に入っている
沢山のファミコンのゲームカセットを見つめた。
「もういいよ。わかった。帰れ。帰っていいよ」
金田は手を振ってひろゆきを追い出した。

バタン、とドアが閉まった。
「なんだよ、また追い出されたよ」
ひろゆきは、再び冬の街に出て行った。

ひろゆきは自転車で街を走った。
昭和天皇が崩御したせいか、店はどこも閉まっている。
ひろゆきは、再び中学校の方に向かった。
今日、1月7日は冬休みだが、生徒会の幹部の会合があった。
午前中は彼もそれに参加していた。
わざわざ冬休みにやらなくてもいいとは思うが、
休み明けの一日前には集まって
学校内の生徒会が管理する施設の見回りやらの
点検をしなければならなかった。
ひろゆきは生徒会の執行役員の一人だった。
彼のようにどちらかといえば面倒なことを嫌う人間が
この種の役職に就いているのは、
彼自身も不思議だった。
ひろゆき自身は気付いていないが、これは父の影響だった。

この日も父は灰色のコートを着て、家を出た。
ひろゆきは、その姿を見送った。
税務署に勤める父は、権威と秩序の象徴だった。
ひろゆきは、天皇制という、
一種歴史的で文化的な権威には
それほど興味が湧かなかった。
長い年月存在していただけのものだからだ。
だが、法律に基づく論理的システムには羨望を抱いていた。
税制というものは、
国家による最も精緻な法律によって支えられている。

説明がつく言葉によって支えられた権威。
ひろゆきは一種自由で束縛を嫌う放埓な性格の裏腹に、
公理的で論理的なシステムへの憧れをもっていた。
それは説明がつくものだからだ。

彼のコンピュータやファミコンのゲームについての嗜好も、
一種それによって理解ができた。
コンピュータには人生と違って論理と公正と正義と秩序がある。
コンピュータは人生と違って理解することができる。
コンピュータは人生と違って努力すれば報われる。
映画化された「ウォーゲーム」という小説の一節だが、
姉の書棚にあったその本を盗み読んだときに
彼はその一節に深く心を惹かれ、心の中に記銘した(@w荒

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昭和最後の日-4(@w荒

テレビのニュースでは、昭和天皇の崩御を聞いて、
皇居前の広場に集まる老若男女の姿が映し出されていた。
女子高校生が泣きながらインタビューに答える。
「陛下死んじゃった・・・」
ひろゆきはそれを見て首を傾げた。
「なんで赤の他人のじいさんが死んだくらいで泣くんだろう?」
金田は真っ青になった。
「おまえっ!日本人だろうが!!天皇陛下が死んで
どうしてそんなことを言ってられるんだ?」


ひろゆきは金田に向き直った。
「金田さ、お前は韓国人だろ?それに、
もともと日本に強制的に連れて来られた
人の子孫じゃないか。
あの人には恨みがあって当然じゃないのか?」
金田は沈黙し、やがて重く口を開いた。
「アボジやオムニはそう言っている。でも、俺の意見は違う」
「どういう風に?」
「俺は日本で生まれて、日本語を話している。
 小学校も中学校も日本の学校に行っている。
 お前たちとどう違うんだよ?
 朝鮮語、俺読めないよ。俺は国籍はとにかく、
 心の中は日本人だ」
ひろゆきは金田の言いたいことがわかった。
「そうか。昭和天皇の死に、
 他の日本人たちと同じ気分を味わって
日本人になりたいってことか」
ひろゆきのあからさまな言葉に、金田は怒った。
「ひろゆき!お前おかしい。天皇が死んだんだぞ?
 店だってどこも閉まっている!
 みんな悲しんでいるんだ」
「だからっておれまで悲しむ必要ないじゃん」
ひろゆきは言い放った。
「大体、天皇の誕生日を休みにすること自体、
変だよ。そんなことをしていたら、
そのうち一年中休みになってしまうよ」
ひろゆきは冷静に言った。

金田は、覗き込むようにひろゆきを見た。
「ひろゆき・・・お前ひょっとして国とか、
天皇とか、そういったものがキライなのか?」
その質問は、
ひろゆきにとっては今まで考えたことがない問題だった。
ひろゆきは衝撃に打たれたように考え込んだ。
「国とか天皇がキライ?うーむ」
そして、ひとしきり考えた後、
「いや、国とか天皇っていうのは、
好きとか嫌いとかの対象じゃないよ」
「?」
疑問符を心に浮かべるのは、今度は金田の番だった。
「この国に生きているから、
否応なく引き受けるべきものであって、
仕組みというものだよ。
それに好きとか嫌いとか言うべきではないよ。
ただ、おれのいきかたに邪魔をしなければそれでいい。
おれはおれで好きでやりたい」
ひろゆきは、後もこの言葉に支配され、
動かされていくことになる。
昭和天皇が死んだこの日、この時間、
ひろゆきの根本的哲学が確立した。
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昭和最後の日-3(@w荒

ひろゆきは、本当は外に出ることは好きではない。
だが、家にいても、
持っているファミコンのゲームが少ないために、
飽きてしまうのだ。
楽しくないのだ。
おまけに家にはねえちゃんがいる。
姉は、ひろゆきにとっては
物覚えのついたころからの強敵だった。
「ひろゆきは男の子なんだから」
とか、
「私はひろゆきのために我慢しているんだからね」
が口癖だった。
「別に我慢なんてしなくていいよ」
とひろゆきはいつも思っていたが、
とても口には出せなかった。
姉の方がひろゆきよりも背が高く、
ひろゆきはいつも見下ろされていたのである(@w荒


ひろゆきは、立ちながら自転車を漕いだ。
エイジは、高校受験のために今から塾に行っているという。
未来。
自分は、あと10年後何をしているんだろう?
この街から、いや家族から抜け出せるのだろうか?

マンションと団地の立ち並ぶこの街に生まれたひろゆきは、
この街が嫌いでもあり、好きでもあった。

ひろゆきは、公営団地の敷地の中に入り込んだ。
5号棟の3階の端の部屋のドアをノックする。
「お、ひろゆきじゃん。入れよ」
「アンニョンハシムニカ」
ひろゆきはそういって入りこんだ。
金田の家は、もともと在日韓国人の家庭である。
彼の本当の名前も、キムヨンジュという。
だが、公営住宅に堂々と入居している。
聞いたところによると、とある政党の有力支持者として、
口を聞いてもらったという。
ひろゆきは、金田の家に行くのが好きだった。
彼の家には沢山のファミコンのソフトがあるばかりか、
彼の親は外にいることが多く、
夜遅くまで一緒に遊ぶことができたからである。

「ゲームボーイって4月に出るんだってよ」
金田は、
テレビの前でファミコンの雑誌の記事を見ながら
ひろゆきに言った。
「ゲームやろうぜ」
ひろゆきはテレビを2チャンネルに変えようとした。
「あ、ちょっと待って」
金田はひろゆきを止めた。
「どうして?」
「ちょっとだけニュース見ようよ。ちょっとだけ。な?」

posted by 東京kitty at 15:47| 東京 ☀| Comment(0) | 昭和最後の日(@w荒 - 2ちゃんねる最初の日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

昭和最後の日-2(@w荒

ひろゆきは、一旦学校から帰ってきてから、
外に遊びに行ったのだ。
「今日は天皇死んだから、外食は止めだよ」
ひろゆきは、予めそう読んでいた。
「夕方まで遊びにいっても大丈夫だろう」

ひろゆきの家の周りは、マンションが多い。
ひろゆきの家自体も官舎だし、
一戸建ての家は数える程度だ。
小学校のクラスもマンション住まいの
サラリーマンの子供ばかりである。
遊びに行くとしたら、
多くのファミコンのソフトをもっている友達のところが
好まれた。ひろゆきが今遊んでいるエイジも、
やはり沢山のゲームをもっていた(@w荒

エイジは一人っ子だ。
父親は証券会社の営業マンをやっている。
羽振りがいいらしい。
一人っ子のエイジのために、
カネをつぎ込んでいるというわけだ。
「な、ひろゆき」
「ん?」
ひろゆきはファミコンのコントローラを握り締め、
画面に集中しながら言った。
「おれさ、もうじき塾なんだ」
「あ、そう。行ってらっしゃい」
ひろゆきは、Aボタンを押した。

ひろゆきの態度に、エイジはまごついた。
「いや、あのさ・・・だから」
エイジは、ふすまの向こうの母親を気にしていた。
エイジは、とある私立中学に落ちて、
今はひろゆきと同じ中学に通っていた。
だが、高校受験は成功させようと、親は必死になっているようだった。

「あー飽きた。帰る」
ひろゆきは、突然立ち上がり、
コントローラーを投げ捨てた。
「じゃ」

ドアを開けて、外に出る。
ひろゆきが立っている7階からは
倉庫と自動車学校が見える。
ひろゆきは、白い息をハアハアと両手に当て、
階段を降りていく。

「なあ、将来ひろゆきは何になりたいんだよ?」
エイジに聞かれたことがある。
「さあ・・・食べるに困らなければなんでも。
遊んで暮らせれば最高」
ひろゆきはそう答えた覚えがある。
今でもそれは変わらない。

ひろゆきは、マンションの駐車場に停めてあった
自転車に跨った。
「つめてー」
自転車のハンドルの部分がやけに冷たい。
1月の初め、自転車で走ること自体が寒くてたまらない。
歩いた方がまだいいくらいだ。
だが、やたらとだだっ広い彼の街に散らばる
彼の友人たちを訪れるには、
自転車を用いるのが最も効率的だから
仕方がない(@w荒
posted by 東京kitty at 15:45| 東京 ☀| Comment(0) | 昭和最後の日(@w荒 - 2ちゃんねる最初の日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

昭和最後の日-1(@w荒

「ひろゆきっ!」
返事がない。
「ひろゆきっ!!」
返事が、ない。

姉は、官舎の中の、彼女とひろゆきが共有する部屋を見渡した。
「まったく、あいつどこに行ったのかしら・・・」

姉は、イライラしながらひろゆきの机を見つめた。
英語の教科書やら数学の教科書やらプリントが
乱雑に置かれている。
プリントには、だらしない落書きのような字で名前が
書かれている。

名前だけ、書いてある。

その後は真っ白だ。
明日は始業式なのにまだ冬休みの宿題をやっていない。


「陛下が崩御されたというのに」
ひろゆきと姉の家は、公務員だ。
今日、1989年1月7日。遂にXデーは来た。
昭和天皇が、長い在位の後遂に崩御したのだ。
今日、ひろゆきの家は外に何か食べにいく予定だった。
だが、このようなことがあった日に
家族で遊びにいったとわかれば、
官舎の中でつまはじきにされる。
中止ということを伝えようとしたのだが、どこにもいない。

posted by 東京kitty at 15:38| 東京 ☀| Comment(0) | 昭和最後の日(@w荒 - 2ちゃんねる最初の日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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