2004年04月02日

秋の色-7(@w荒

15.
ヲレは少女を連れて、川見の寝室を出た。
少女の部屋に向かう。
ヲレと少女はベッドに腰を下ろした。
「お父さんを許せないかい?(@w荒
そう聞くと、少女は強く頷いた。
「苦しいんだろ?(@w荒
少女はまた頷いた。
「君が苦しみから抜け出す方法は、
 たった一つしかない(@w荒
ヲレは少女を見つめた。
少女は不思議そうな顔でヲレを見つめた。
「それって・・・」
「簡単なことさ。君も大人になるんだよ。
 大人として、人生の影を帯びるのさ。
ここに来るとき、高速から都市の輝きを見たろ?
命というのはあれと同じさ。
闇とその中に蠢く(うごめく)光が
その正体なんだよ。
 光も影もなければ、人間の生き方ではないのさ」
 それを聞くと、少女はぽつりと言った。
「どうすれば、大人になれるの?」
「簡単さ。黙ることだ」
「黙るって?」
 少女の瞳が輝きを増してきた。
「こうするのさ」
 ヲレは少女の唇を自分の唇でふさいだ(@w荒

 時間が、ゆっくりと流れていった(@w荒


16.
ベッドのシーツに血がついている。
少女は服を着ながらベッドから立ち上がった。
ヲレは少女の肩を抱いて部屋を出た。
「いたたたた・・・・」
少女はガニ股になってびっこを引きながら歩いている。
「痛かった?」
少女は顔を顰めて頷いた。
「私、大人になったのかな?」
「ああ、多分(@w荒
大嘘だが、まあいいだろう(@w荒
ヲレたちが再び川見の部屋の前を通ったとき、
少女は開け放したドアの向こうのベッドに横たわる
川見を見て、部屋の中に入り、そっと布団を掛けた。
その仕草の優しさに、ヲレは少女の心の中に
再び詩が少しずつ流れ始めたのを感じた(@w荒
ヲレたちは車に乗り、川見の、
そして少女の家を去った(@w荒


17.

あれから1年が過ぎた。
友人と少女の母は、二人で元気に暮らしている。
ヲレは渋谷駅を出て歩きながら、
街頭の巨大ヴィジョンを見つめた。
少女が、画面の中で歌い、踊っている。
となりの画面では、少女のチョコレートのCMが流れている。
少女は父親のもとで生きる決意をした。
歌は、相変わらずそう巧いというわけではないが。
なに、そのうち巧くなるさ(@w荒

歌手は、歌が巧ければ売れるというわけでもない。
人生も、生き方が巧ければ幸福というわけでもない。

ヲレは少女の新曲を口ずさみながら、
センター街へ向かう広大な横断歩道を渡っていった(@w荒


             -完-


posted by 東京kitty at 09:42| 東京 🌁| Comment(1) | 秋の色(@w荒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年04月01日

秋の色(@w荒

     秋の色

         by 東京kitty

1.

友人が結婚するという。
ヲレは、結婚案内の手紙を受け取り、
出席に○を書いた。

相手は友人より3つ年上の離婚歴のある女性だという。
友人も一回離婚しているので、まあお似合いというところか。
よくもまあまた結婚なんてする気になるなあと思いつつも
ヲレは友人を祝福することにした(@w荒
他人にまでヲレの趣味を押し付けるのは愚かなことだ(@w荒

当日、少し早めに出かける。
何か手伝えることがあれば、手伝おうというわけだ。
企業が経営する結婚式場ならば、社員が全て取り仕切ってやるから、このような心配をする必要はない。
今回、友人たちが結婚式を挙げるのは、とある個人の家で、
一日だけ貸切にするという按配である(@w荒

2.
友人は、電力会社に勤めて十数年ほどになる。
大学の友人だが、可もなく不可もなく、まあ平凡な人間だが、
仕事にかまけているうちに、妻に逃げられ、独身生活に入って4年になる。
 子供はいない。
 最初のうちは、独身生活のよさがわかったよ、などとヲレに同調していたものだが、このところは「寂しい」「このままいったら、老後はどうするんだ」
等と軟弱な台詞を吐くようになっていたので、心配はしていたが、遂に捕まってしまったというわけだ(@w荒
 ヲレは彼のマヌケさをせせら笑いながらも、今度はうまくやってほしいものだと思った(@w荒

3.
結婚式場は、東京の港区のとある坂の途中にある、
瀟洒な南欧風の家だった。
ヲレが坂を上がっていると、その門のあたりから
15歳くらいの少女があたりをきょろきょろと見渡し、
こちらの方に下ってきた。

ヲレは2.0の視力でその少女を確認し、観察した。
「可愛いぢゃん!(@w荒

少女は、黒い髪をポニーテールに結んで、顔は瓜実、
猫のような瞳を光らせていた。
「すみません」
「なんだい?(@w荒
「ここらへんで、コンビニってないですか?」
「コンビニ?うーん、ここらへんはあんま詳しくないけど、
 歩けばあるんぢゃないかな・・・」
 ヲレがそういうと、少女は
「そうですか・・・どうも」
と言って、ペコリと頭を下げて歩を進めようとした。
「ちょおっと待ったっ!(@w荒
ヲレは少女の手を掴んだ。
「はい・・・?」
少女の目に驚きと怯えが浮かんだ。
「もしかして、あの家から出てきたのかい?」
「は・・・い?」
「実はさヲレ今日の結婚式に出るんだけど、君も関係者かい?
 手伝おうかと思って今日は早めに来たんだけど」
そういうと、少女の表情が開いた。
「そう・・・そうなんですか?私、ええと、新婦の娘なんです」
「ほお・・・」
 なるほど、新婦にいてもおかしくない年齢の少女だ。
「ヲレは、新郎の大学時代の友人だよ(@w荒
「そうなんですか・・・今日は、よろしくお願いしますっ」
 少女は、そう言ってぺこんと頭を下げた。
「こちらこそ宜しく・・・・ていうか、何をコンビニで買うんだい?(@w荒
「ええと・・・箸が足りないみたいなんです。で、割り箸を買おうかと」
「そうか。ぢゃあ、ヲレも一緒に探すよ(@w荒


4. 
ヲレは少女と歩き始めた。少女の名前は理沙。
東京三葉女子学園中学の3年だ。ラクロスをやっている。
離婚した父親は、作曲家だったそうだ。
「へえ、ぢゃ、君も音楽の才能があるのかい?(@w荒
「私は・・・ダメです。音痴なの」
「ふーん(@w荒
「でも、歌は好きなんです。最近は歌わないけど」
作曲家の娘だからといって、歌わなければならなかったり、また歌が好きになる義務は、もちろんない。だが、ヲレは少女の言葉の語尾が沈黙に消えていくときの声のトーンの変化曲線の導関数を心の中で計算し、不思議な特異点が存在しているのに気が付いた。
「ふーん、どうして?」
それには答えず、少女は
「あ、セブンイレブン!」
と言って、ヲレの前にふいに歩み出た。


5.
「最近あいつ・・・をっと、君のパパになるヒトだからあいつはまずいかな。ええと、彼とはあんま付き合いがなかったもので、イマイチ事情は把握してないんだけど、どんな馴れ初めなの?(@w荒
ヲレは、箸と紙の皿をありったけ持ちながら言った。
「うちの母、リラクセーションのインストラクタなんです。その・・・足裏の」
「ああ、最近よく都内で見かけるね。そうか、あいつ、いや、彼がそこの客だったわけだね。ということは、お母さん、おっと、新婦は千代田区で働いていたってことか」
「そうです。なんか、毎日行くうちに話しをするようになって、って感じみたい」
 少女はクスリ、と笑った。

 秋なのに咲く花もあるんだな、とヲレは思った(@w荒

6.
少女とレジで会計をしている際、少女がおずおずと言った。
「あの・・・・」
「ああいいよ、ヲレが払っておくから」
「あ、ありがとうございます。ていうか・・・」
「なんだい?」
 ヲレは釣りの543円を受け取りながら言った」
「ええと・・・お、お父さんってどんなヒトですか」
「まだ、違和感があるかい、お父さんって」
「ええ・・・ちょっとは」
「そか」
 ヲレたちはセブンイレブンの外に出た。
「実直な奴だよ。真面目だ。信頼はおける奴なんぢゃないのかな。ただ・・・・」
「ただ?」
「ちょっと退屈かもな(@w荒
 ヲレはうんざりした顔をして言った。
 少女はぷっと吹き出した。
「どうしたんだい?」
「ははははは、なんかその顔おっかしーーーーいかにもつまらなそう」
「そうかい?(@w荒
 
7.
ヲレたちは、荷物を持って結婚式場となる家に近づいた。
ここの持ち主は、ヲレと新郎が共通に知っている人間で、
家具の輸入業を営んでいるのだが、イタリアの建築や調度に興味をもっており、この家もその産物だ。
 地中海風の小洒落た雰囲気だが、どうにも新郎にはそぐわない。

「やあ」
門のところで、椅子を運んでいた友人がヲレを認めた。
「ダメだな、新郎は今日の主役なんだからどてっとそこらに座ってろよ(@w荒
 ヲレは相変わらず野良犬のように痩せた友人を見た。

ヲレが友人と話している間に、少女はぺこっと一礼して、庭の方へてててと走っていった。ヲレはその姿を視界の端で完全に把握しながらも、友人と話を続けた。
「リラクセーション。千代田区の?」
そうヲレが言うと友人は目を大きくした。
「聞いたの?」
「当然(@w荒
「そうなんだよ。このところ、会社の仕事がキツくてさ。なんか疲れがひどくて。で、うちの女子社員が沢山行って結構評判がいいんで、会社からすぐ近くのビルに開業したリラクセーションのサロンに行ってみたんだよ」
「そこで新婦に出会ったわけというわけだ。で、ちょっと立ち入ったことだが、
新婦の前夫は作曲家だそうだね」
「そこまで聞いたのか・・・理沙はおしゃべりだな」
 友人は苦笑した。
「ああ、そうさ。彼女・・・というか、芳枝は前は歌手でね。
で、その作曲家と親しくなり結婚、理沙ができたというわけさ」
「あの子は、お父さんの方へ行って歌手になるとかそういう道には興味ないのかな?」
「みたいだね。音楽の才能とかないのは自分でもわかっているようだし」
「最近のヒット曲とか見ていると、音楽の才能とかは関係ないようにも思うが(@w荒

「うーん、なんというのかな。小さいときから、この世界というか、父のところに出入りする芸能人たちを見て、何かスレてしまったというか、正体を見てしまったということなんだろうね」
 そのとき、ヲレは少女の顔を見て思い出した。
「ああ、川見俊太(@w荒
「わかった?」
 友人は眼鏡の縁に手をやった。
「顔立ちが似ていたからね。ただ、新婦は歌手というが」
「いや、そんな有名ではないよ。まだ川見が無名のときに結婚したからね」
「そうか(@w荒
「川見と離婚したのは、何年前だっけ?(@w荒
「2年だね」
 友人は、煙草を取り出して吸い始めた。
「相変わらず体に悪いものを吸っているんだな(@w荒
「ふん、会社奴隷はヤニでも食わないとやっていられないんだよ」
「今どの部署だっけ?(@w荒
それを聞くと、友人はピクリと顔の表情を堅くした。
「水力発電所関係さ」
「なるほど、今は厳しい時期だな」
 ヲレは長野県の知事が取っているダム工事の相次ぐ中止政策を思い出した。
「そうさ。ちょっと前は原子力発電所関係のところにいて、
その時は相次いで原発が故障だの事故だの起こしたもんで、
俺はしょっちゅうあちこちで頭を下げたよ。で、サンズイに移ったらこれだよ。ついてないよな」
「サンズイって水力発電の水ってことだな(@w荒
「そうさ。原発はマルゲン。火力はマルカと言うね」
「ぢゃあ風力発電はマルフウかね」
「いや、風力だけはなぜか風力だね。というか、それほどまだ問題になってないよ」


8.
そのうち、段々と客がやってきた。
これは、どちらかというと手作りの結婚式で、それもあまり格式ばったものではない。
 客が即ちスタッフでもある。

 ヲレは調理場に向かった。
 すると、少女がエプロンを着けていた。
「あれっ・・・」
 どうやら少女はエプロンの紐が縛れないらしい。
 紐はあいにく少女の手の届かないところで捩れ、絡まっている。
「とと・・・」
 ヲレは近づいて言った。
「しよーがねーな。ほら、後ろ向け(@w荒
 少女のまだ子供子供した尻がヲレの目の前に現れた。
 ヲレは絡まっていた紐を解き、きちんと結んでやった。
「これで大丈夫だな(@w荒
「ありがとう」
 少女は微笑んだ。
 少女は胡瓜を包丁で切っている。
「料理ってやるんだ?」
「はい。私、料理好きなんです」
 だがその手つきはどうにも危なっかしい。
「あいたっ!」
 指を切ったようだ。
「どれどれ・・・」
 ヲレは少女の指を取って水で洗い、近くのちり紙で傷口を押さえた。
「あんま深くなくて、よかったな」
「はい」
 少女は、傷口を口で押さえながら言った。
「どれ、貸してみな」
ヲレは包丁を取って、胡瓜を切った。
「す、すっごーーーーい!!」
少女はヲレの早業に感動した。
「お料理とかするんですか?」
「独身生活をすると、何でもできるようになるのさ(@w荒
 大嘘だが、まあいいだろう(@w荒

「あら、理沙大丈夫?」
ヲレの後ろから声がした。
振り返ってみると、年の割にはやや若く見える、都会の匂い
を漂わせた女性が現れた。
「お母さん、指切っちゃったよぉ」
ヲレは一礼した。
「この度はおめでとう御座います」
「お・・・お父さんのお友達みたい」
「あら、そうなんですか。すみません、娘がお世話になって。不器用なんですよ、この子」
「いや、そんなことはないですよ」
 ヲレは少女と母親の顔を比較対照した。
 どちらかというと、父親似なんだな、この娘は(@w荒
 ヲレは改めて納得した。

「チーフ、ここですか?」
 二十代の女性が何人か台所に入ってきた。
 どうやら、新婦の店の店員らしい。
「丁度よかったわ、台所お願いね。理沙は料理ダメみたいで」
母親の言葉に、少女はちょっとシュンとした。
「私だって一生懸命やったもん」
「ここはいいから、別のところを手伝ってきなさい」
「はーい」
ヲレたちは台所を出た(@w荒


9.
ヲレは少女と二人で、部屋の片付けをした。
「そういえば、お父さんのところで沢山芸能人って会ったのかい?(@w荒
 ふと口を衝いた言葉だが、しまったと思った。
 新しい父親を迎える少女にとっては、過去の父親というか、自分の血の繋がった父親に関する質問はデリケートに過ぎる。
 だが、少女は一瞬沈黙してから、あっけらかんと答えた。
「Misaとか夕方タイフーンとか、それから・・・大鎖栄樹とか」
「ふ・・うん」
 有名どころばかりだ。流石に川見というところか。
 芸能界に興味がないヲレでも知っている歌手の名前が次々と出てきた。
「彼氏とかいるの?(@w荒
 ここで最も重要な質問を繰り出す。
 さりげなく出すのがコツだ(@w荒
「へへー、いるように見える?」
「どーだろ(@w荒
「いませんよ」
「なるほど(@w荒
「恋人いる?」
少女がいたずらっぽい表情で尋ねた。
ヲレはちょっと回りを見てから答える。
「誰にもいうなよ(@w荒
「うんうん」
少女は目を輝かせながら小首を繰り返し縦に振った。
「いねーよ(@w荒
「ぷっ。ふふふ・・・ははははは」
「どうしたんだよ?(@w荒
「だって、なんかすごい秘密みたいに言うんだもの」
「そうかね?(@w荒


10.

ヲレたちは庭の方に回った。
そのとき、ヲレは視線を感じた。
誰かに見られている。
誰だろう?
ヲレは視線を感じる右後ろを振り向いた。
すると、若い男が、道路からこちらにカメラを向けていた。
連想した。
川見の娘+前妻の結婚式。写真。スクープとは言わないが、ゴシップ欄の一角を埋めるには十分だ。
 ヲレは壁を飛び越え、着地点から1回跳躍して男の前に立った。
「コンチハ(@w荒
 ヲレはニヤリと藁って青ざめた男の手からカメラを奪い取り、
フィルムを抜取った。
「どこの記者だい?」
 若い男は、仰天した形相でカメラを受け取り、こちらをちらちらと何回も振り返りながら坂を走り下って逃げていった。
「よえーな(@w荒
 ヲレは負け犬が走り去っていく様を侮蔑しながら見つめた。
「すごーい」
 垣から少女がこちらを見ている。
「マスコミ、うるさいのかい?(@w荒
「うん。ときどき」
 少女は頷いた。

「芸能マスコミはヴァカでクズでアホウでオマケにマヌケだからな(@w荒
 気にすんなよ(@w荒
 他人のプライバシーを侵害してナンボの賎しい奴らさ(@w荒
「うん」
 少女はニコリと微笑んだ。


11.
更に客が増えてきた。
家の飾りつけや、料理も出来上がってくる。
門のところには机が置かれ、新婦の職場の同僚が座って、来客の整理を行いお祝い金を徴収している。
 結婚式というより、結婚パーティという感じだ。
 友人としては、職場の関係で格式ばったこともしたかったのだろうが、仕事自体が忙しく、また再婚同士ということもあったので、このような非形式的な結婚式もやむを得ないということだろう。

 ヲレは、ウーロン茶のグラスを右手に持ちながら、少女を探した。酒は飲んだことがない。
 少女は、ポーチのところに一人座っていた。
「・・・それ、ワインかい?」
 ヲレは少女が飲んでいるグラスの中の紫色の液体を見て言った。
「そう」
「未成年が飲酒かい?おうちではいつも飲んでいるのかい?」
「ううん。クリスマスとか、誕生日のときだけ」
 少女は、少し酔っているのか、素面のときの感じとは大分違うようだ。
 顔が、ほんのり赤い。
「まあ、今日はお祝い事だし、大目に見るか」
「いつもね・・・」
「ん?」
「いつもパパが言ってた。今日はお祝い事だからワイン飲んでもいいよって」
「・・・」
「どうして・・・・」
 少女は少し涙を流している。

 少女は泣き上戸という奴らしい。
 ヲレは少女の震える肩に手を置いた。
「誰も悪くないんだよ、多分(@w荒
 これも嘘だが、優しい嘘なら真実よりヒトのためになる。
 ヒトが他人の言葉を含めた外界の状態や、自分の言葉を含めた内部の状態に応じて分泌する物質は、ヒトの心身に影響を与えるからだ(@w荒
「ほんとう?」
 少女が涙を流しながら顔を上げたとき、騒ぎが聞こえてきた。

12.
「?なんだ?」
ヲレと少女は騒ぎの聞こえる方に行ってみる。
すると、そこでは川見俊太が、少女の父で、新婦の前夫が暴
れていた。
「うるせえええええええええええええええ!!!
こんな結婚なんぞ認めん。認めないんだよおおおおおおおおお!!!!!」
川見は、正気とも思えない表情と声で叫んでいた。
「あなた・・・」
新婦の芳枝が大勢の客の間から現れた。
後ろから、芳枝の友人が芳枝を押し止めながらであるが。
「よしえぇ!!お前、こんなショボい賃金奴隷なんかとくっつきやがって!!」
 川見は叫んだ。
 相変わらずその声と表情には狂気が宿っている。
有名作曲家が前妻の結婚式に闖入とは、芸能マスコミのいいネタだ。ヲレは家だけでなく、道路や周りを見渡したが、とりあえずカメラはない。
 だが、小型ccdカメラでも十分鮮明な画像は撮影できる。
 ヲレは友人の姿を探した。
いた。
野良犬のように痩せた彼は、奥の方でチラチラとこちらを
見ている。
臆病ではあるが、十分に慎重な態度だ。
新婦のように出ていって火に油を注ぐのは考え物だ。
人ごみの中から、少女が現れた。
酔っているせいか、泣きはらした目が据わっている。
「うるさい!!このクソオヤジ!!!」
少女は叫んだ。
「どれだけ私たちを苦しめたら気がすむの?ねえ?ねえ??」

少女は父親に言葉を投げつけた。
「バカ!バカバカバカ!!!!帰ってよ!!」
「この野郎、親に向かって!!!」
少女に殴りかかろうとした川見に、ヲレはぶつかった。
「お父さん、娘さんをヲレにください(@w荒
 突然の意味不明なヲレの台詞に、川見は一瞬度肝を抜かれたが、
「どけっ!」
と叫んだ。
「お父さん、眠いんですね?眠いんでしょ?(@w荒
 ヲレは、川見の頚動脈の辺りを強く押した。
 すると、川見はぐたりと気絶した。
 ヲレは周りに大声で言った。
「大丈夫、状況は管理下にあります」
 ヲレは川見を背負った。
「この方は私がお送りします」
 ヲレは新婦に行った。
「え・・・でもご面倒では」
「大丈夫です。ただ、彼の家がわからないので・・・お嬢さんをお借りします」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
 ヲレは少女に向かって言った。
「おいで(@w荒

少女は、まだ酔いが残った赤い顔で、コクリと頷いた。
川見を背負うヲレの後を、とぼとぼとついてくる。
好きでもあり嫌いでもあるおとうさん、ってわけか。
ヲレは心の中で呟いた。


13.

ヲレは駐車場に停めてある車の後部座席にどさりと川見を置き、少女を助手席に乗せ、車を発進させた(@w荒

 首都高速に入る(@w荒

首都高速の高架の継ぎ目が、タイヤと接触し、微かな震動が車体に伝わる。
 東京の都市部の外郭が、目の前に広がり、通りすぎていく。
 少しずつ明かりが灯り、街は夜へと急速に様変わりしていく。
「東京という街はゴミゴミした無秩序な街だが、だんだん暗くなって夜になると宝石のようになる。
人生もそうで、或る年齢を過ぎればそういった無駄な風景は消えて、宝石みたいな輝きだけが後に残るのさ」
 これは嘘か本当かまだヲレにもわからない。
 だが、そう信じてヲレは少女に言った。
 少女は頷いた。
「お父さんは、麻薬をやっているね?」
 ヲレはいきなりストレートに聞いた。
 少女の緊張がヲレの左肩ごしに伝わってくる。
「はい」
 少女は、素面のときの丁寧でやさしい少女に幾分戻っているようだ。
「君も、それからお母さんも殴られたりしたんだね」
「しょっちゅう・・・・いつもです」
 少女は暗い声で言った。
「お父さん、嫌いなんだ(@w荒
「だいっきらい」

川見がクスリを始めたのは、ここ数年のことらしい。
ヒット曲が出始めて、あやしげなパーティに出てそこで病
みつきになったらしい。
あとはお定まりの中毒状態。
その当時から、クスリが無ければ創作ができない状態のよう
だ。
妻と娘への暴力沙汰は日常茶飯事で、それがたまらなくなり
二人は家を出たということらしい。

14.

川見の、そして少女の元の家の前に着いた。
ヲレは背負った川見の内ポケットから鍵を探し出し、少女を
連れて家の中に入った。
「前のままかい?」
「うん・・・あ、これ・・・」
少女は壁掛けを見た。
「私の部屋にあったのです」
「こっちに置いたんだね」
ヲレは川見の寝室の方に向かった。
ドアを開けて、ベッドに川見を寝かせる。
ヲレは、ふと後ろを振り返った。
少女はドアのところで立ち尽くしている。
「どうしたの?入ってこないのかい?」
「や」
「?どうしたんだい?」
「この部屋入りたくないの」
少女はまだ酔いが残っている。
「どうして?」
「だって・・・だって・・・」
少女は泣き始めた。
ヲレは川見など放っておいて、少女のもとに歩み寄った。
少女の肩を抱き、尋ねる。
「話してみなさい」
少女は、ヲレの胸に飛び込み、泣いた。
酔いと、緊張が一気に爆発したのだろう。
少女はひくひくと泣きつづけた。
ヲレは少女のポニーテールを撫でながら、少女の胸の膨らみ
を感じていた(@w荒
「お・・・とうさんが・・・ひっく・・・藤原アイコと・・・
ベッドで・・・ひっく・・・その他にも・・・何人も・・・・」
藤原アイコといえば、夕方タイフーンのメンバで、今年15歳。
少女と同じ年だ。
自分と同じ年の少女が、父親と寝ていたというショックは、
理沙の心に深い傷を残したようだ。

「そうか・・・それは、お母さんは知っているのかい?」
 少女は首を横に振った。
「いい子だ。自分の胸の中に留めているんだね・・・君はえらいよ(@w荒
 ヲレは少女の背中をさすった(@w荒
父親が自分と同じ年のアイドル歌手と寝ているのを見たその日、少女の心の中に絶えず流れていた詩が突然途切れた。
その日以後、少女は歌わなくなった。

15.
ヲレは少女を連れて、川見の寝室を出た。
少女の部屋に向かう。
ヲレと少女はベッドに腰を下ろした。
「お父さんを許せないかい?(@w荒
そう聞くと、少女は強く頷いた。
「苦しいんだろ?(@w荒
少女はまた頷いた。
「君が苦しみから抜け出す方法は、たった一つしかない(@w荒
ヲレは少女を見つめた。
少女は不思議そうな顔でヲレを見つめた。
「それって・・・」
「簡単なことさ。君も大人になるんだよ。大人として、人生の
影を帯びるのさ。
ここに来るとき、高速から都市の輝きを見たろ?
命というのはあれと同じさ。闇とその中に蠢く(うごめく)光がその正体なんだよ。
 光も影もなければ、人間の生き方ではないのさ」
 それを聞くと、少女はぽつりと言った。
「どうすれば、大人になれるの?」
「簡単さ。黙ることだ」
「黙るって?」
 少女の瞳が輝きを増してきた。
「こうするのさ」
 ヲレは少女の唇を自分の唇でふさいだ(@w荒

 時間が、ゆっくりと流れていった(@w荒

16.
ベッドのシーツに血がついている。
少女は服を着ながらベッドから立ち上がった。
ヲレは少女の肩を抱いて部屋を出た。
「いたたたた・・・・」
少女はガニ股になってびっこを引きながら歩いている。
「痛かった?」
少女は顔を顰めて頷いた。
「私、大人になったのかな?」
「ああ、多分(@w荒
大嘘だが、まあいいだろう(@w荒
ヲレたちが再び川見の部屋の前を通ったとき、少女は開け放したドアの向こうのベッドに横たわる川見を見て、部屋の中に入り、そっと布団を掛けた。
その仕草の優しさに、ヲレは少女の心の中に再び詩が少しずつ流れ始めたのを感じた(@w荒
ヲレたちは車に乗り、川見の、そして少女の家を去った(@w荒

17.

あれから1年が過ぎた。
友人と少女の母は、二人で元気に暮らしている。
ヲレは渋谷駅を出て歩きながら、
街頭の巨大ヴィジョンを見つめた。
少女が、画面の中で歌い、踊っている。
となりの画面では、少女のチョコレートのCMが流れている。
少女は父親のもとで生きる決意をした。
歌は、相変わらずそう巧いというわけではないが。
なに、そのうち巧くなるさ(@w荒

歌手は、歌が巧ければ売れるというわけでもない。
人生も、生き方が巧ければ幸福というわけでもない。

ヲレは少女の新曲を口ずさみながら、センター街へ向かう広大な横断歩道を渡っていった(@w荒


             -完-
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