2010年01月29日

解語之花 - ひゃくごじゅうよんせんち(@w荒

と或る(とある)日の昼、冱てる(いてる)冬の空の下。

ヲレは新宿歌舞伎町の幕度鳴度(マクドナルド)で珈琲(コーヒー)を喫していた(@w荒
隣では試験勉強か、少しヴスカワの女子大学生が複素解析の問題を解いていた。

Integral (∞,0)(sinx/x)^2 dx

簡単な問題だ。半円で原点の周りを迂回した積分路を設定してCauchyの積分定理を使い、Jordanの補助定理等を用い、答えは直ぐに出る。π/2だろ(@wぷ

ヲレは暗算で答を導いた。

だがこの女は計算違いをしている。
バーカ、こんな簡単な計算間違えるなよ(@wぷ

「答え、間違ってるよ(@wぷ」と謂おうとした瞬間、「24」のCTUの電話着信音が鳴った。
ヲレの携帯だ(@wぷ

「はい(@w荒

ヲレが電話を秉る(とる)と、回線の向こうから若い女の声が聞こえてきた。
「私、自殺するから」

「は?(@w荒

電話は突然切られた。


ヲレは通話記録の番号を確認した。
知らない女だし、知らない番号だ。
初めて掛かってきた。

ヲレは不思議に思い、まあ世の中には変わった者もいるな程度に思った(@w荒

すると、また電話が鳴った。
同じ番号だ。
ヲレは携帯を秉った(とった)。

「さっきの人?(@w荒
沈黙。

切れた。

キモいな(@wぷ
ただの害基地かよ(@wぷ

ヲレは早速その番号を受信拒否に設定しようとした。

するとまた電話が鳴った。


鳴り続ける携帯を前に、
"amem.i nen amem.i erpw, khen is pw(@wぷ"
(アメミ ネン アメミ エルプー、 ケン イス プー)
「秉るべきか秉らざるべきか、それが問題だ」と、
シェークスピアのハムレットの台詞を真似てヲレは古代エジプト語で呟いた(@w荒


「秉っちゃえ(とっちゃえ)(@wぷ

ヲレはあっさりと電話を秉った。
「あの・・・」
可愛い声だ。ヲレはその時気付いた。

「ひょっとして、番号間違えた?(@wぷ

ヲレは直截的に聞いた。

ヲレは微かに揺れる電話の向こう側の空気を確かに聞いた。
「あ・・・はい」

その時ヲレは彼女の声の背景音も同時に聞いた。
雑踏。いや、それだけではない。他にも何か聞こえるぞ(@w荒


パーン。ガタンガタン、ガタンガタン・・・・
電車がプラットフォームに入ってくる音だ。
バッシャーン。
ドアが開く。
そして聞こえてくるのは・・・

パラパーパラッパラー パラパーパラッパラー パラパラパラパーパーラー♪
「間違えちゃいました」
彼女の声に被さって聞こえてきたのは、
エビスビールのCMの音楽だ。
元来は映画「第三の男」 の音楽でアントン・カラスによるものだ。脚本は有名な英国作家のグレアム・グリーン。但し、彼の書いたハッピーエンドの結末は監督のリードが差し替えてあの味のある幕切れになっている(@w荒

話が逸れた。
つまり彼女が今いるのは恵比寿駅という事になる(@w荒


恵比寿はエビスビールとの関連で、
駅の発車音にそのCMの音楽を使っている。
ヲレは彼女が電車に飛び込んで死ぬ心算(つもり)かと計算した(@w荒

「ははは、まあそういう事もあるさ(@wぷ

適当に話を合わせつつ、
思考を続ける。
とりあえず、彼女の場所が分かった。
ヲレは幕度鳴度を出た。

何時の間にか、駆け足になっていた。


「で、何歳?」
「え?」
「君の歳(@wぷ

横断歩道を渡り、坂を上がれば新宿駅のビルが見えてくる(@w荒

「じゅうご」

ヲレは速度を上げた(@wぷ


「運動してる?」
「え?ああ(@wぷ

ヲレの吐息を聞いて、彼女が問うてきたので
不図(ふと)答えた。


「ところで、本当は誰に電話しようとしてたの?(@w荒

ヲレはルミネ1階の交番を一瞥した。
ここで警察に行ってこの子の事を任せてもいいが、
電話を離したらすぐ電車に飛び込むかもしれないし、
警察に事情を説明する時には紙に書けばよいとして、
余りにも遽しく(あわただしく)、
また彼女を確保できるかも分からない。

此処はヲレが直に行った方がいいだろう(@w荒


「本当は・・・」

彼女は言葉を濁した(@w荒

「本当は・・・・」

電話の向こうで空気が震えた(@w荒

ヤバい。

どうやら、地雷質問だった様だ。
死ぬ前に掛ける電話の相手なのだから、
相当の相手で
場合によっては彼女の自殺の意志を固めた張本人かも知れない。


いやまてよ、
でも其う謂う相手なら、番号を登録してあり、
間違える事なんてあるかな(@w荒
適当に電話してみたら
偶々(たまたま)ヲレの番号だったのかもしれない(@w荒

揣摩臆測(しまおくそく)の中で
逡巡(しゅんじゅん)してる閑(ひま)も無い(@w荒

ヲレは地下入り口から階段を降りながら、
彼女にその事を問いかけてみようとした。


すると電話が切れた(@w荒


改札前まで来てSUICAを出した。
すると、

「ただいま恵比寿駅で人身事故があり、
 電車が止まっています」

との構内放送があった。

ヲレは彼女が投身したのだと思った。
一瞬の間に消えた命にヲレは茫茫とした思いに囚われた。

だが。


電話が、鳴った(@w荒


電話の向こうの声は、泣きじゃくっていた。
そして背景音の洶洶(きょうきょう)としたざわめきとどよめきが、
何が起きたかを示していた(@w荒


「君は、生きているんだね(@w荒

ヲレはぼそっと言った。

「はい・・・はい!!」

電話の向こうの声は、悲鳴だった。

「今どんな服を着ている?」

ヲレはそう言いながら、動いている別の路線の電車に乗った。

「学校の・・・制服を着ています。」
彼女はゆっくりと答えた。


「身長はどのくらい?」
「ひゃく・・ひゃくごじゅうよんせんちです・・・」

そう言いながらも彼女は泣きじゃくっていた。

電車が恵比寿駅に滑り込み、
ヲレは駅員達が少し前まで人であった骸を
白い布で覆って合掌しているのを窓から垣間見た(@w荒

ヲレは鷹の様な目でその傍のホームの上に佇んでいる
有名私立女子校のセーラー服姿の少女を見つけた。
周囲の構築物等の比較対照から見て、
その身長は
「ひゃくごじゅうよんせんち」
以外の何ものでも無かった(@wぷ


「君が目の当たりにしている事は、
とても衝撃的だったとをもう(@w荒

「えっ」

「だって泣いてるんだもの(@w荒

「・・・・」

少女の後姿が近づいてきた。


「こう考えたらどうだろう。
 その人は、君の代わりになってくれたんだって(@w荒

「えっ!!」

「そしてヲレは今君の隣にいる(@w荒


雑踏の中、ヲレは左手で電話機を持ち、
見出した少女の細い肩に右手を置いた(@w荒


振り向いた彼女の解れ髪と
今まで泣き腫らし、そして今度は驚きを宿した瞳を
確り(しっかり)とした視線で捕らえつつ、
彼女の嬋娟嫋娜(せんけんじょうだ)振りに驚いた。

ムンクの「純潔」に描かれた少女の如く、
彼女の心は一糸も纏っていなかった。


「可憐だ(@wぷ

ヲレは心の中で一瞬呟いてから、
言葉の弾丸を彼女の心に撃ち込んだ(@w荒

「生きることの意味を考えたりするな。
 言葉は生のためにある。
 言葉のために生があるんぢゃあない(@w荒

彼女の顔が一瞬引きつった。


「い

    ま


            だ(@wぷ


ヲレは好機を逃すほどノロマではない。


「こわかったろ?(@w荒
ヲレは彼女に微笑みかけた。

ヲレは彼女の心に千分の一秒単位で生じた間欠を認識し、
その中に侵入した(@w荒

すると彼女の恐怖と不安で
固く糾われた(あざなわれた)心が
解け(ほどけ)、
泣きながらヲレに抱きついてきた(@w荒

体を伝って感じる、
鼓動する彼女の心臓の音が彼女の命の重さだった。

ヲレは彼女の髪を優しく撫でた(@w荒


「生きることは、
 君がをもっている以上に佚しい(うつくしい)よ(@w荒

ヲレは静かに呟いた。




-----------------------------完-----------------------------

posted by 東京kitty at 04:49| 東京 ☀ | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月10日

渋谷ブラックシップ(@w荒

真冬のとある日の午後。
渋谷駅の近辺はいつものようにごった返していた。
ハチ公の前は待ち合わせのために人々が集まり、
そのすぐ近くの三方に伸びる横断歩道を渡ろうとする人々のベクトルがあちらこちらで交差しあっていた。無論そのほとんどがもしかしたら初めて出会い、そして二度と会うことの無い人々だったのかもしれない。
だが、彼らはそこに居合わせたことで、そこでどのような運命に遭うにせよ、今までの人生で最大の経験をすることになったであろうことは疑い無かった。

人々はほとんど自分の行く先だけ見て進む。
前だけ見て進むのだ。
そんな中で、君はたまたま上を見た。
なぜ見たかはわからない。
たまたま好きな歌手が広告の動画で映っていたのかもしれないし、高楼の下でせわしなく蠢く自分を含めたこのにんげんという動物の滑稽さにため息をついて思わず天を仰いだのかもしれない(@wぷ

「あ」
青い空の中に、何かが光った。
君はそれを口を開けて見ていた。
やがて横断歩道の信号が変わり、君は道路の真ん中に取り残されたが、それでも君はそこを動こうとしなかった。いや、動けなかったのだ。
車が次々とクラクションを鳴らし、君の横を通る。
近くにある交番から警官が出てきて、君の方に近づこうとしている。

人々の視線の先に、君がいる。

君は口を開けながら、説明というより言い訳のために空を指差した。
人々も君の指し示す方向を見た(@w荒


最初蒼天の中の光点に過ぎなかったそれは、
段々と大きくなってきて、人々はその存在を識別した。
銀色で三角形のそれは、底に幾つかの円を有し、それらは幾つか新しく太陽が生まれたかのごとくギラギラと輝いていた。

問題なのは、その三角形が端から煙を噴き上げていたことだ。

人々はそれを本やテレビやビデオや映画の中では何度も見たことがあった。科学者たちが話すことも、それから狂信的とも思われる連中が話すことも、人々は無論全て知っていた。

それは現存し、目の前に迫っていた。

人々が、そのときの状況に気付き、逃げ出そうとしたときはもう遅かった。君の頭の上を掠めて、それは君の後ろにあったハチ公広場に墜落し、辺りを阿鼻叫喚が包んだ。

助かった人々は、その事件がどのような意味を持ったか認識した。そう、全てがチャラになったのだ。歴史も、社会も、生活も。今まで自分を含めて営々として築いてきたものが一瞬で木っ端微塵になったのだ。それは債権も負債も含めてである。

驚きと恐怖と同時に、君は言いようのない開放感を心の隅で味わっていたことを他の誰にも言わないでおこうと思ったに違いない。だがそれは問題ない。皆そう思っていたのだから。

裂けた死骸や、呻く人々を尻目に、君は墜落したそれに近づいた。もう自動車を運転しているような閑な奴はいない。全ての車は停車して乗っていた連中は外に出た。
交番にいた警官たちは真っ青になっていきなりピストルを手にとっていた。

「近づかないで!!」
日に焼けた大柄の警官が叫んだが、誰も言うことを聞かない。もうさっきまでの人類の歴史は終わったのだ。社会も、法律も、科学も、そして人々があれほどまでに追い求めてきた金までも、目の前に屹立する存在と事実の前ではただの陳腐な妄念にしかすぎなかった(@wぷ

君はそれに近づく。
跡形も無くなったハチ公のあった場所に、それは大勢の死骸を余り効果の無いクッションにして斜めになって存在していた。横から出ている煙の他は、特に目立った破損箇所すらない。

君はふと放射能の心配をした。今まで聞いたところではこれの仲間が出現したところでは大量の放射能が検出されたという話だからだ。だが好奇心がその不安に打ち勝った。

君は斜めになったそれの上側を見てみた。ふと何かに躓いた君は、それが若い女の目を見開いた血まみれの死骸であることに気付く。だが君はアパシーの中に逃げ込み、好奇心の虜となった。

突然、それの上部の一部が半透明になった。
子供のような形のものがそこからどさりと落ちた。
君は無論それが子供でないこともわかっていた。
背が小さく。頭でっかちで。色白で。
そして目がやけに大きいそれは、半透明の体液を体中から
流していた。
本当にいたんだな、お前ら。
その存在を前に、君は今まで虚構だと思っていたものが真実であり、真実と思っていたことがただの虚構であったことを思い知った。

君は近づいて異星の地で朽ち果てることになったその来訪者の最期を看取った。大きな頭がことりと横になり、4本しかない指が力無く開かれた。

君はその手のひらに金色の立方体を認めた。

何だろう?
君はそれを手にとって、あれこれと弄ってみる。


すると、君の頭の中に英語が流れ込んできた。
しかし、もっと不思議だったことは、君は英語がわからないはずなのにその意味がすらすらと分かったということだ。
「1マイル四方は完全封鎖だ!全部隊に徹底させろ!」
その強烈な意思の発する方向から、幾つもの爆音が聞こえてきた。8機ほどのカーキー色の大型ヘリコプターがこちらに近づいてきた。そしてそれは無論自衛隊のものではなかった。

君はそこを逃げ出すことに決めた。
なぜだかはわからないが、
あの意思は君にとって友好的なものとは思えなかったからだ。


君は下宿のアパートに到着する。
ふとつけたテレビでは、さっきまでいた渋谷の墜落現場の映像をバックに、大槻教授の引退宣言が流されていた。
君は、現場を映した画像の中で、警官を前に激しく小競り合いをする米兵たちの背後に一瞬だけ移った痩せぎすのサングラスの将校を認めた。君はコートのポケットに入れたままだった金色の立方体を握ってみた。

すると、再び英語が頭の中に滑り込んできた。
君はそれがあの将校の心の中の言葉ではないかと推測した。
「全くこんな場所に墜落するとは・・・今までの隠蔽の苦労がもう水の泡だ・・・。いっそ原爆でこの辺りを焼き払った方が良かった。今からでも遅くないのかもしれない・・・」


どうやらこの金色の立方体は、
ラジオの周波数を合わせるように
様々な精神に入り込むことができるらしい。
小さい仕掛けではあるが、極めて驚くべき機械だ。

君はこの機械の使い方に習熟しようと心に決めた。


次に君はネットに入ってみた。
2ちゃんねるは去年政府に潰されたばかりだが、
それでもYahoo掲示板や東京kittyアンテナをはじめとする
ブログにはこのニュースのことがいち早く論じられていた。

「それにしても米軍もトロいよなー(@wぷ
 よりによって渋谷のど真ん中に墜落させて、
 全部バレちゃうとはな(@wぷぷぷ

 それはそうと米軍が来る前に誰かが何か持っていったりしてな(@wぷ」

東京kittyアンテナでこの記事を見たとき、君はどきりとした。読まれてる?何か知ってるのかこいつ?
君は何とかして東京kittyの心にチューニングを試みるが、全くうまく行かなかった。

どうもまだ全ての者の精神に入り込めるというわけではなさそうだ。


とりあえず、君は金色の立方体を握り、例の将校の精神に再び入ってみた。彼の思っていることが英語で君の頭に入ってくる。その感情についても、何故か口調という形で感じ取ることができるようだ。彼の記憶についても浸透できるだろうか?
できそうな気もした。

君は精神を集中させて、金色の立方体を強く握った。

ジョン・・ジョン・マッカビー。

そう、それが彼の名前だということに君が気付くのにそれほどの時間は掛からなかった。

(続く)
posted by 東京kitty at 03:13| 東京 🌁| Comment(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月15日

NEVADA(@w荒 第4話 羽ばたく、死

第4話 羽ばたく、死

第1章 ソウル

統一朝鮮の首都ソウルは、
釜山への核攻撃で騒然とした空気に包まれた。
地球連邦は統一朝鮮に対して、ソーカ支援の停止、
佐世保から強奪された新型機動兵器の返還等を要求したが、
統一朝鮮政府はこれを突っぱね、
逆に釜山壊滅についての謝罪と賠償を要求した。
ここにおいて地球連邦軍沖縄基地、バイカル湖基地から
大規模な侵攻部隊が送られることとなった。

ソウルの沖に遊弋する第4遊撃艦隊と第11艦隊。
戦艦オオクボもその中にいた。
「アオイが見つかったって?!!」
艦橋にエリカが上がって来た。
「ああ」
ブッシュはスクリーンに画像を映させた。
「今届いた、情報部からの情報だ。ソウルのUSS(都市監視システム=Urban Supervision System)に侵入して君の友達の顔の3次元画像をキーに検索したら、見つかったよ」
それはソウルの東大門(トンデムン)の脇を走る道路に設置されたカメラから撮られた画像だった。アオイはエリカと別れたときの服装のまま、トラックの助手席に座っていた。
「恐らく、このトラックに積まれているのがCoolだろう。画像を追跡したところ、トラックはマスドライブシステムの方に向かっている」
ブッシュは言った。
「じゃあ、あたし出撃するよ!!」
「だめだ」
小泉艦長が冷たく言った。
「なんで!!」
エリカは食ってかかった。
「…ソウルにも核を撃つからさ」
ブッシュが言った。
「えっ…」
エリカは釜山で見たあの原子の火を思い出した。
「いつ、核を撃つの?」
「少尉、それは最高軍事機密だ」
小泉艦長が窘めた(たしなめた)が、ブッシュは右手を挙げて小泉の発言を押し止めた。
「あと1時間後さ」
「なら行くよ!!作戦を終わらせるには十分よ!!Cool、壊しちゃっていいんでしょ?」
「核を撃てばそれで終わりだ。わざわざNEVADAを出すこともない」
小泉艦長が苦々しげに言った。だが、それを聞いてエリカは切れた。
「あのね、ソウルのマスドライブシステムでCoolに宇宙に出られるのが怖いからわざわざここまで追ってきたんでしょ? 1時間もあれば打ち上げは余裕じゃん!ばっかみたい」
「マスドライブシステムはソウル郊外にある。核の直撃はないよ」
「だったら尚更でしょ。あたし、出撃するから」
「そんなことをお前の好きにできると思っているのか!!」
小泉艦長が激しい口調で言った。
だが、そこでまたもやブッシュが右手を挙げて小泉艦長の発言を押し止めた。
「わかった…だが、護衛はつけられない。データは持って帰ってくれたまえ。」
「うん」
エリカは頷いた。
「チョンの軍隊なんてあたし一人で十分よ」

NEVADAはシューティング・カタパルトに接着していた。エリカは各スイッチを押して最終点検をしていた。
「エリカ」
モニターのウィンドウが開いて、ブッシュが顔を表わした。
「なに」
「予め言っておくが、マスドライブシステムは壊しちゃダメだよ」
「わかった」
前方の発進許可ランプが青く点った。
「NEVADA、エリカいくよっ!!」
NEVADAは再び青い空の中の点になった。


第2章 準同型写像

島々を切り裂くようにして飛んだNEVADAは、ソウルの都心部に到達した。
「お遊びもしてみたいんだけど、時間に限りがあるんだから無理かあ」
思う存分殺戮遊戯を楽しむ時間が無いことにエリカは舌打ちをしたが、
「さっき見た東大門(トンデムン)くらい壊しとく?」
と思った。意思解釈システムはソウル市街地図から東大門にロックオンし、背中のポッドから発射されたミサイルが朝鮮の王朝時代からのシンボルを粉々にする様を戦術ウィンドウから見たエリカはちらりと微笑んだ。
「さて、アオイ…待ってなよ…」
そう思った瞬間だった。
「ロックオンされてる??」
レーザーによるミサイルの照準がNEVADAに向かっていることをエリカは認識した
「真下??」
エリカは直下のビル街の画像ウィンドウを見た。
統一朝鮮の主力機動兵器であるグエムルがランチャーから対空ミサイルを発射した。
「ちきしょう、直前までエンジン切ってたのね!!」
道理でレーダーに映らないはずだ。
NEVADAはミサイルを避け切れず、ビル街に墜落した。
無論、NEVADAの装甲ではこれくらいは何のダメージもない。
「ちっきっしょおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
エリカはビームサーベルを肩のバーニアランドセルから引き抜いて、キムチに向かっていった。
「邪魔なんだよこのキムチ野郎!!!!」
一閃、グエムルは真っ二つになって大破した。
「ふん」
エリカは腹立ち紛れに周りのビルにビームライフルを乱射し、辺りは破壊と叫喚の渦となった。何百人もの朝鮮人たちが直撃を受け、ビルの下敷きとなり、吹き飛ばされて死んだ。
殺戮と死からできあがった自分の「芸術作品」を尻目にエリカが飛び立とうとしたその時だった。

真っ二つにされたグエムルの右腕の脇に人影を認めた。

照準・拡大。
エリカの意識言語がその存在の明晰化を希求してNEVADAはそれに応える。
そこにあったのは、エリカと同じくらいの年齢の2人の少女がうずくまっている姿だった。
2人の少女は恐怖に満ちた表情で黒い機動兵器を見上げていた。
だが。
片方の少女が、決然と立ち上がって両手を広げた。
顔には恐怖と勇気と怒りの混合物が浮かび、NEVADAの戦術ウィンドウには少女の表情が大映しにされた。何か韓国語で叫んでいる。
何て言ってるの?
エリカがそう思うと、戦術ウィンドウに日本語の翻訳文が流れた。
「…たしたちの国を滅茶苦茶にしやがって!! お父様とお母様を殺しやがって!! でも私のともだちだけには手を出させない!!」
エリカは状況を瞬時に理解した。
そこには、彼女が佐世保で失ったものがあった。
愛、友情。どう呼んでもよい、世界への信頼と連帯の手がかり。自分の命を賭けても守ることができる、何か。
友達を庇ってNEVADAに立ちふさがる少女。
その背後に広がる彼女の想いが、エリカが佐世保で刻印された喪失感をひどく刺激した。
「ちょ・・」
 エリカは憎悪と怒りで顔を歪めた。
「チョンの分際で…」
この少女は、世界を信じている。父母を失いながらも、ともだちという最後のよりどころを持っている。それを守るために、命をも顧みずエリカの前に立ちふさがっている。
エリカの心の中に残虐と憎悪が一瞬で充満した。
だが、どうしても引き金を引けない。
彼女が封印した過去の世界からの呼び返しに、エリカはまだ気付いていなかった。
戦術ウィンドウに、少女の発言と共に新しい翻訳文が流れる。
「ソニン、逃げて!!私はいいから!!早く!!」
立ちふさがる少女はうずくまる少女に声を掛けた。
うずくまっていた少女は泣きながら立ち上がり、後方へ走り出した。
そのとき、心の中に行き場を失って押し合い圧し合いしていた残虐と憎悪がその表現の機会を把捉し、エリカの眼は輝いた。
「チャーンス!!」
NEVADAのバルカン砲が数百発放たれ、逃げ出した少女はまるでダンスを踊るかのようにして、その肉体を弾丸に切り刻まれた。
「ぎゃははははは!!!!!!!!!!!ざまぁあ!!チョンが死んでるよ!!」
エリカは大声で笑った。
「ソニン!!!」
両手を上げて立ちふさがっていた少女は、庇っていた少女のもはや原型を止めない死骸の方に大声を上げて走り寄った。
「ソニーン!!!」
泣きながらその死骸の破片を抱きしめる。

NEVADAは、すかさずその少女を手で握り、顔のカメラの前に運んでいった。
「な、何をするの!!! 離せ!!!!」
「一番信じていたものを失った気分はどうよ? はん、あんたが守っていたともだちはあんたを置いて逃げてったじゃん!!」
相手に全く通じてないのを知りながらも、エリカはNEVADAの手の中でカメラを通して自分を睨みつける少女に叫んだ。
「もういい、あんた邪魔だから死にな!!!!」
ぷち、という音がした。骨と内臓が潰れていく。NEVADAの手のひらの中にいた少女は絶命した。エリカはその音と、自分の手にフィードバックされた少女の死の感覚を心行くまで味わった。
はずだった。
まだ何かが足りない。少女が手を広げて立ちふさがった映像の衝撃が、まだエリカの精神を侵蝕していた。
それをふりはらうかのように、眼、鼻、口、耳から血やら骨やら内臓やらが飛び出た少女の死骸を、エリカは汚いものようにビルの側面に投げつけた。ぴちゃりっ、という音がして、ビルの壁に新しい芸術が少女の血と肉と骨で刻印された。エリカは、右手を顔にこすりつけた。その動きはフィードバックされ、血だらけのNEVADAの右手が、やはりその顔部に血を擦り付けた。
「さて…お化粧もしたし」
 エリカは心の動揺を血と死で形成された新しい残虐な芸術形式で整調したはずだった。だが、心のどこかにある綻び(ほころび)を通して封印した世界からのすきま風が漏れてくるのをエリカは感じていた。エリカは、次の行動の中に自分自身を溶かし込み流し込むことでそれを忘れようとした。
NEVADAは上昇した。ソウル宇宙空港へ。アオイとの最後のデートをするために。


第3章 光る闇を背に

天まで届くかに見える、宇宙船の巨大な加速射出カタパルトが見えてきた。
「あれね…」
マスドライブシステム。あのどこかに、Coolとアオイがいる。
すると、モニターに敵機動兵器のグエムルが10機ばかり映った。
どうしても通さない心算(つもり)のようだ。
「ち」
エリカは10機を意識し、意思解釈システムが直ちに連動して背中のポッドからミサイルが発射された。2機撃墜。
「くっ、8機も取り逃がした!!!」
 さきほどの衝撃がまだエリカの心には蟠って(わだかまって)いた。
ともだちを助けるために立ちふさがった少女。そして泣きながら逃げ出した少女。
あれ…あたしとアオイだ!!
こころのどこかで次第に大きな声で叫ぶ過去の世界との心の共振を、エリカは止めることができない。エリカとアオイの過去を写像したかのような情景によって、エリカの凝り固まった氷のような憎悪と残忍さは水蒸気をあげながら所々溶けつつあるかのようだった。
そんなことを思っているから。
グエムルの接近に対処が遅れた。
「しまった!!」
ビームライフルから放たれたビームの雨が横殴りに降ってくる。回転、離脱、照準、発射、離脱。8機のうち、1機が燃料に引火した紫色の火をあげながら宇宙空港の付属施設に落下した。
「やばい…」
このままではやられる。エリカの残忍と憎悪の冷たい炎が消えかかっていた。
「アオイ…。」
エリカの心理的情景の中で、さきほどのかばっていた少女は自分に、そしてかばわれていた少女はアオイに変わっていた。
このままでは、追い込まれる・・・。アオイのところに行く前に。
「どっちにしても…あんたにあわないと何も始まらないし、何も終わらないんだよ!!!」
そう思うと、エリカの体に再びアドレナリンが分泌されはじめた。
「てめぇえら邪魔なんだよ!!!!!!!!!!」
 並列オートロックオン、ポッドからミサイル射出、ビームライフル連続発射。
あっという間に5機が撃墜された。
「ばーか!!!」

マスドライブシステムの発射待機ランプで、アオイは上官に食ってかかっていた。
「中佐殿!!私も行かせてください!!」
「だめだ」
「どうしてですか!!」
「Coolをここまで運ぶためにどれほどの犠牲が払われたと思っているんだ。お前はここにいて発射を待っていろ。またグエムルが10機ばかり上がって行く」
「そんな…NEVADAにグエムルが何機かかって行っても勝てっこありません。性能が全く違うんですよ? NEVADAに何とか対抗できるのは姉妹機のCoolだけです!!それにマスドライブシステムを破壊されたら、宇宙(そら)には上がれないんです!!そうしたら、そちらの方が元も子もないじゃないですか!!」
それを聞くと、中佐の顔がこわばった。
「そんなことはさせない!!守備隊全員を玉砕させてでもお前とCoolは宇宙(そら)に送る!!」
「そんな!!私そんなにまでして宇宙(そら)になんて行きたくありません!!」
「甘ったれるな!!」
中佐がアオイの頬を張った。
「おとうさん…」
「CoolとNEVADAには、富士山で発見された超古代文明の技術が使われている…何が出てくるかわからない、恐ろしいものなんだ。そんなものを地球連邦に独占させておくわけにはいかないんだ!!」
「えっ…」
「さあ、行け。行くんだ!!」
中佐は、兵士たちに目配せした。兵士たちは、アオイを連れてシャトルの方へ向かった。
「おとうさん!!おとうさあん!!!!」
引きずられるようにして部屋を出たアオイの声が、どこまでも中佐の耳朶に焼きついていた。
「さて、私も行くか」
中佐は、格納庫に立つ黄色と黒で塗装されたモビルスーツ、ティグレ(虎)を見た。

「18機目!!!」
グエムルの腹のコックピットにビームサーベルを貫通させて、エリカは叫んだ。
背後の敵を感じる。
「おせえんだよ!!!!!!!!」
2本目のビームサーベルを肩のバーニアランドセルから抜いて、袈裟懸けに切り下す。
「19!!!」
アラームが鳴る前に、脳内で敵の動きをトレースしていたエリカは緑色の流線型のシャトルの後ろにいるキムチを見つけた。
「死ねよ雑魚!!!」
肩のショルダーマグナムを連射して、シャトルごとグエムルを破壊した。
「20…!! もうグエムルは食い飽きたよ!!!」

そのとき、戦艦オオクボから連絡が入った。
「少尉、情報部からの情報だ。空港内システムに侵入して検索したところ、Coolは第4発射待機ランプの方に向かった」
戦術ウィンドウに空港の地図が出て、エリカの現在の位置とCoolの場所が明らかになった。
「わかった!!」
「それと、ソウルへの核攻撃まであと5分だ! 」
「りょーかい!!」
NEVADAを上昇させようとした瞬間。
「なに?」
近づいてくる3機の機体。
「グエムルじゃない?ソーカの機体??」
ザフ・バーサーカー2機は照会がついた。だが残る1機は?
「新型?」
光学センサーに映ったその機体を見て、エリカは笑った。
「なんだよそれはよ!!黄色と黒かよ!!阪神タイガースかよ!!お前は!!!!!!」
ショルダーマグナムを連射した。
次の瞬間、そのモビルスーツは紅蓮の炎に包まれているはずだった。
だが。
「避けた(よけた)ぁ?!!」
さっきの腑抜けた自分ではもはやないはずだった。だが、確かにこの新型は避けた。
「パイロットの腕?機体の性能??」
ハンガーの後ろに回避行動を起こしたNEVADAを追って、2機のザフ・バーサーカーが迫ってきた。
「くっ!!」
ハンガーを貫いてビームライフルを撃つ。1機に命中したがもう1機は巧みに回避した。
「ボスがボスならパシリもパシリなりにやってくれるね!!」
ビームサーベルを八艘に構え、エリカはザフ・バーサーカーに下から切りつけた。ビームサーベルはザフ・バーサーカーのビームライフルごとその腕とコックピットを切り裂いた。
「やったね!!」 
だが、その喜びはほんの束の間のものにしかすぎなかった。そのすぐ後ろから、ティグレが迫ってきたのだ。
「くっ、味方がやられるのを計算に入れて!!」
エリカは目に怒りを滲ませた。このパイロット、やる!!
ティグレは、ビームサーベルを最大出力にしてNEVADAに切りかかってきた。右、左、上、下。エリカは余りに鋭い敵の切先に防戦一方となった。
「ちっきしょーーー!!!!!!!!」
剣技については訓練と蓄積がものを言う。いかにNEVADAの基本性能がティグレを上回っているからといって、パイロットが有する格闘技能の差は歴然だった。
「あっ!!!」
ティグレの鋭い剣技によって、ついにNEVADAのビームライフルが飛ばされた。だが、エリカはこれしきのことでくじける少女ではなかった。
「まだまだああああああ!!!!!!!!!!」
もう一つのビームサーベルを素早く抜いて向かっていく。
「どけえ!!!お前なんかに時間を食ってるヒマはないんだよ!!アオイの!!アオイのところに行くんだ!!!!!」
意思解釈システムは自動的に周波数帯を検索し、エリカの肉声はティグレのコックピットに届いた。
「アオイを!!娘をやらせはせん!!」
その声を聞いてエリカは獰猛なものが心の中に湧いてくるのを感じた。
「ふざけんなオヤジぃいい!!!!!!!!!」
 だが、ティグレのビーム・サーベルはエリカの隙を突いてNEVADAのコックピットに直撃を加えようとした。そしてエリカのビームサーベルもまっすぐティグレのコックピットに向かっていった。
その時と前後して。
ソウル沖に遊弋する地球連邦軍艦隊から、ソウルに戦略核が打ち込まれた。
「!!」
篭る(こもる)ような低い大きな爆発音が響いてくる。真昼の中にもう一つ真昼が生まれたかのように、NEVADAの周りにも閃光が煌いた。立ち上る巨大なキノコ雲が、大勢の朝鮮人たちの命を養分にして、相争うNEVADAとティグレの背後で花開いた。
ソウルの即死者数180万人。ソウルだけでなく、同時に平壌、太田、慶州、大邱等の統一朝鮮諸都市にも核が投下され、600万人が即死した。この時の全面的核攻撃で、統一朝鮮は石器時代に戻ったと言われている。
「また核を使ったのか!!悪魔どもめ!!」
中佐は叫んだ。
中佐は、ティグレのビームサーベルでNEVADAのコックピットを貫こうとした。
だが。
「う、動かない???電磁干渉か!!!」
 核爆発後の電磁干渉により、ティグレの電子部品は機能が低下した。
「く、くそっ!!」
中佐は、目の前のモニターでNEVADAを見た。
「NEVADAは動けるのか!!核戦争下を想定した機体なのか!!!」
「ごちゃごちゃうるせぇえええええええ!!!!!!!!!!!」
NEVADAはティグレのビームサーベルをかわした。NEVADAのビームサーベルはそのままティグレのコックピットを貫き、エリカは貫かれたティグレをビームサーベルごと残して急速離脱した。
ティグレが爆発していく姿を見下ろしながら、そのときエリカは初めて自分が何をしたのか気がついた。
「アオイのオヤジを…殺しちまったのか…」

その光景は、発射寸前のシャトルからアオイも見ていた。
「おとうさん!!おとおさあああん!!!!!」
ティグレの爆発を見て、アオイは気が狂わんばかりに叫んだ。
「エリカ…許さない…許さない!!!!!!!」
涙に顔を濡らしながらアオイは叫んだ。
「あんたを殺すわ!!!!!!!!」
シャトルが発進を始めた。
加速する船体の中で、アオイは泣き続けた。


エリカは、静かにビームライフルの照準を合わせた。
「アオイ…」
アオイの父親を殺してしまったという事実を認識したエリカの心は、再び激しく揺れていた。
心のどこかに、ぽっかりと穴が開いたような感じだった。
撃った。
ビームはシャトルの脇を抜け、虚空に消えた。
もう一撃。
外れた。
エリカの瞳に、知らないうちに涙が溢れ、照準ウィンドウの四角い赤い稜線が認識できない。
最後の一撃が外れて、アオイとCoolを載せたシャトルは、宇宙(そら)へ旅立った。
空の一点に収束していくシャトルに向いながら、NEVADAは、射撃姿勢を取ったまま夏の夕暮れを背景に、ソウル宇宙港施設の廃墟の中に立ち尽くした。


どこかで、蝉が鳴いていた。

 
戦艦オオクボに帰投後、エリカは艦橋に呼び出された。
小泉艦長が冷たい口調で言った。
「敵機動兵器、24機撃破。素晴らしい戦果だ。だが…」
そう言って小泉艦長はメガドライブ・カタパルトを加速するシャトルへのNEVADAの射撃についての記録画像をモニターに流した。
「君への命令は…Coolの破壊又は奪取だったはずだ。少尉自らが志願して出撃したはずだったが、なぜ失敗したのか。なぜここまで射撃を外したか」
その言葉を聞いて、エリカはピクリと動いた。
アオイとの過去の思い出と、アオイの父親を殺した記憶が蘇って来て、エリカの自我の統一性を激しく揺さぶった。エリカは大きく唾を飲み込んでから気を取り直し、なんとか言葉を紡ぎ(つむぎ)出した。
「しょ…小官は…出撃前にマスドライブシステムの破壊を禁じられて…おり…それによってシャトルへの射撃が…失敗したものです…」
いつもと違うエリカの態度に、ブッシュも、小泉も、そして艦橋のクルーも瞠目した。
「も、申し訳ありませんでした」
ブッシュは、それを聞いてふん、と軽く笑った。
「ほんとう、かね?」
ブッシュの、真相を見透かしているかのような言葉に再びエリカは身を硬くした。
「は・・い。」
「…じゃあ、いいよ」
ブッシュは静かに言った。
「し、失礼します!!」
エリカは敬礼して艦橋を去った。
「まて、まだ話が!!!!」
そういう小泉艦長を、ブッシュが右手を挙げて止めた。

「まあ、いいでしょう。宇宙(そら)に上がってからこの分しっかり埋め合わせしてもらえば」
そう言って、ブッシュはエリカが去った艦橋の自動ドアをじっと見ていた。

エリカは、婦人士官区画にある自分のベッドに戻ると、あたり構わず泣き始めた。

戦艦オオクボと第4遊撃艦隊は、ソウル宇宙港のマスドライブシステムを使って、Cool追撃のために宇宙に向かった。
小さくなっていく日本列島と、焦土と化しそれが上空からも明らかな朝鮮半島の景色も見ず、エリカはベッドの中で涙に塗れた布団に包まって(くるまって)いた。
 

 
 


 
 
posted by 東京kitty at 19:49| 東京 ☔| Comment(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年06月18日

NEVADA(@w荒 第3話 少女狩り

第3話  少女狩り
第1章  釜山襲撃

戦艦オオクボの艦橋。
「あー、どうやらCoolを回収した潜水母艦は
 朝鮮半島に逃げたみたいだねえ」
ブッシュは衛星からの画像を見て言った。
対馬の辺りで地球連邦軍の駆逐艦に対潜魚雷を打ち込まれた
ソーカの潜水母艦オリハルコンは釜山に向かっているようだ。
「これが駆逐艦による攻撃時の映像です」
オペレータが画像をモニターに回す。
「これはかなり被弾しているな。完全な航行は無理ですね」
小泉艦長は言った。
「うん。ではぼくたちも釜山に向かうということだね」
ブッシュはキャプテンシートの小泉の方に振向いて言った。

「しかし・・・」
小泉艦長は顔を曇らせた。
「統一朝鮮はれっきとした連邦の独立国家です。
確かにソーカへの武力制裁に関しては
連邦議会で棄権しましたが・・・」
それを聞いてブッシュはニヤリと笑いながら言った。
「艦長、艦長、艦長。衛星画像を見ただろ?
 統一朝鮮はソーカの潜水母艦に対して
何ら攻撃すらしていない。
しかも、このままいけばあの潜水母艦は釜山に向かうんだ。
僕たちが軍事行動をしても彼らは何も言えないよ。
そして、歯向かったならば彼らも敵ということさ」
「は・・・」
ブッシュは朝鮮半島の画像を見ながら考えた。
ここで戦火を広げて軍需を刺激するには、
もう一花火欲しいところだ・・・
よおし、釜山で一騒動起こしてやろうじゃないか・・・。
国防産業会議理事としてブッシュは軍需産業を振興させるために
戦争の拡大を欲していた。
 このまま行ったら戦火は尻すぼみ。
 折角彼らにCoolとNevadaのことを
こっそり教えて強奪させてやったんだ。
 別にどっちも持っていってもらってよかったんだが。
 カネはもう連邦から支払ってもらっているから、
 懐は痛まない。

 ソーカ擁護国家を一つ戦火に巻き込むのがいいだろう。
 ここ10年間でやっと戦争らしい戦争が起きたのだ。
 せいぜい引っ張って儲けさせてもらう。

ブッシュは唇の端で薄く笑った。
結局第4遊撃艦隊が戦艦オオクボに付くことになり、
戦艦4、駆逐艦6隻で釜山を攻略することになった。
「NEVADA、ジス・バイパー14、ジス・ストレッサー27。
これだけあれば十分だね」
 ブッシュは頷いた。
「で、NEVADAのパイロットの様子は?」
「はい、シミュレータで訓練をしています。結果はかなり良好です。
 サイコフレーム機体であるNEVADAのパイロットとしては逸材ですね」
「おまけに戦闘意欲も高い・・・」
 ブッシュは満足そうに笑った。
「いや、いい戦闘データが取れそうだよ」
「潜水母艦が釜山のドックに入りました」
「よし、機動兵器部隊出撃」
 小泉艦長は命令した。
NEVADAはシューティング・カタパルトに
足のジョイントを接着させた。
「エリカ」
モニターにブッシュの顔が写った。
「なに」
「思う存分やってきたまえ。釜山なんて全部壊しちゃって
構わないから」
「そのつもりよ」
シューティング・カタパルトが作動し、NEVADAは青い空に
溶けていった。

釜山を目前に、
NEVADAを始めとする連邦の機動兵器部隊の前に、
統一朝鮮の機動兵器部隊が現れた。
「数は5ってところか」
エリカはモニターを見た。
シミュレータによって、NEVADAの武器を始めとする
機能の全ては頭に入れた。
まだ生理は続いている。
だが、至極気分はいい。
自分の思い通りになる、圧倒的な力を手にした
エリカはもはや昨日までのエリカではなくなっていた。

分隊長機から命令が下る。
「グエムル5機だ。構わず蹴散らせ」
「りょーかい!!」
NEVADAはいきなり突出した。
「ウリドゥルヌンプサンスピテスムニダ!!」
(我々は釜山守備隊だ!!)
韓国語で相手の機動兵器、通称グエムル(「怪物」の韓国語読み)の警告が入ってきた。
だが。
「うっぜーんだよチョン!チョン語なんて知るかよっ!!」
エリカはバズーカを撃ち、いきなり隊長機を撃墜した。
「ばーか!!」
NEVADAを先頭に各機は釜山に侵攻した。
ブッシュはワシントンに電話を掛けていた。
「ああ、ぼくだよ。どうやら統一朝鮮は連邦軍の軍事行動を阻害した
みたいだねえ。連邦議会の方、うまく根回ししてくれないかなあ?
できれば今日中に統一朝鮮軍事制裁決議を出してもらいたい。
ハチソン議員に中国への根回しはもう頼んであるからさ」

ブッシュはテレビ電話の回線を切ってから
キャプテンシートの小泉を振り返った。
「これでよし・・・と。
 これで沖縄とバイカル湖から大部隊を動かせるよ」
小泉は頷きつつもオペレータに聞いた。
「侵攻部隊の状態はどうか」
「は、現在NEVADAを始め各機が市内に侵攻、
 ドックに向かって進撃しています」
「うん、そうか」
 ブッシュは満足そうに頷き、コーヒーを飲んだ。

「くっ!!」
眼前に砂浜が広がってくる。海水浴場だろうか。
エリカは急降下のGに耐えながら、背後を取った
グエムルを振り切ろうと必死だった。
「あーっ、うぜえ!!!」
エリカの意識が背中のポッドに及ぶと、
ミサイルが一斉に発射され、追撃してきたグエムルは散華した。
NEVADAは地表に着地した。
砂が大量に舞って、海水浴客が「アイゴー!!」などと
喚きながら逃げていく。
エリカは、頭部のバルカン砲でそのうちの何十人かを
虐殺した。
水着を来た朝鮮人たちの
肉が引きちぎれ、血が散乱し、
海水浴場は屠殺場になった
海水浴場を後にする前、エリカは東の方に尊大に立つ
ホテルをビームライフルで射撃した。
ホテルが崩れ落ちていく様を見下しつつ、
エリカは大笑いしてNEVADAを上昇させた。
NEVADAは市街地に入った。
「あーん、何あれ」
エリカは表情に悪魔を宿らせて道路をモニターから見つめた。
「違法駐車でしょ?」
エリカはビームライフルを斉射して道路に一列に並んでいる
駐車車両を尽く破壊した。一昨日母親と買い物に行ったとき、佐世保のデパート前で黄色い輪っか形の駐禁表示が路駐していた車につけられていたことを思い出し、エリカはなぜか
ひどく滑稽に感じた。こっちの方が、ずっと手間が掛からなくていい。
「ははははは!!!」
エリカが哄笑していると分隊長機から連絡が入った。
「少尉!!目的地に急げ!!」
それを聞くとエリカは舌打ちして
「りょーかい」と応答し、ジャンプを始めた。
「あと2回ジャンプすればドックが見える位置に来たよ。
 みんなは?」
「敵の迎撃機動兵器が更に3機増えた。そちらに回せる
増援はせいぜい2機だろう」
「しよーがねーなあ」
エリカは眉をひそめた。
そのときオオクボから連絡が入った。
「少尉、艦隊から釜山中心街へ長距離艦砲射撃を30秒間行う。
 当たるなよ」
「ちょ、ちょっとお!!」
上空に飛べば敵のインターセプターの
いい目標になるかもしれない。
だが、ここで味方の艦砲射撃にやられるよりはいい。
「飛べ!!」
エリカの思考を直接反映したNEVADAはバーニアを最大に
噴かして上昇した。
その下を、オオクボを始めとした艦隊からの射撃が通っていき、
釜山中心市街は砲火に晒された。
次々と破壊され、倒れていくオフィスビル、マンション、橋、道路。
その中にうごめき死んでいく数万の朝鮮人たち。
エリカは、その莫大な量の命の喪失を前に、
歓喜と興奮に打ち震えていた。体の芯が裂けるように熱かった。

「すげえ!!!」
興奮の余り、黒い経血がスーツの股間に滲んだ。

その時。
「もう・・・もうやめて!!!」
敵を感じた
エリカは曲線をイメージして回避運動を行い、
ビームライフルの火線から逃れた。
「アオイ!!」
Coolがドックの潜水母艦から出てきたのだ。
「アオイ!!」
「エリカ?!」
「あんた、階級は何よ!!」
エリカが叫んだ。
NEVADAがバズーカを放つ。
「こんなときに・・・・!!」
Coolは回避し、ビームライフルを撃った。
NEVADAは市街地に紛れ込んだ。
「軍曹よ!!それがどうかしたの?!!」
「あははははは!!あたしの方が上ね!!
あたしは少尉さまよ、この下っ端軍曹!!」
「えっ!」
オフィスビルの残骸の陰から、NEVADAはCoolに向けて3発
ビームライフルを撃つ。

「上を取られた!!」
エリカは歯軋りし、ビルの間から路の間を飛んだ。
爆風で大勢の朝鮮人たちが飛ばされ、
ビルにぶち当たって肉片となった。
太陽の中に、アオイのCoolが見えた。
「やったね!!」
途中から背面で飛んでいたエリカはビームライフルを
連発でCoolに撃ちこんだ。
「し、しまったっ!!」
アオイはNEVADAからの射撃で動きを封じられて一旦エリカの動きを視界から
失った。
「どこ?」
モニターが警報を鳴らしながら表示を出す。
「上っ??」
「もらったああああああああ!!!!
 アオイいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

だが。
突然がくん、という音がしたかと思うと、
NEVADAの意思解釈システムは再び
レスポンスが極めて遅くなった。
「くっそぉおおおおおお!!!またかよこのポンコツっ!!!」

アオイはNEVADAの様子がおかしいことに
気付いた。
アオイはビームライフルを構えた。
「・・・」
アオイの脳裏に、エリカに殺されたマサコの
遺体と、エリカとの楽しい思い出が半分半分で
浮かんできた。
その躊躇が、彼女の隙を生んだ。
再びモニターに警戒音を伴って赤い物体の接近が
表示され、ビームライフルと思われる熱源が放たれて
いるのを確認した。
「!!」
ジス・バイパーとジス・ストレッサーが1機ずつ
応援に来たのだ。


「くっ!!!」
アオイは敵の射撃を回避し、
市の中心部から脱出しようとした。
「ま、まてええええ!!!」
NEVADAの出力の逓減を肌で感じながら、
エリカの叫びは虚空に消えた。
「一旦帰投しろ」
ジス・バイパーの先任の少尉が言った。
「まだやれる!!まだやれるって!!!
 アオイを殺るんだ!!!」
エリカはものに憑かれたかのように叫び続けた。

2章 自由の女神に生気無し
NEVADAはようやく戦艦オオクボに辿り着いた。
ハッチを開けて黒いパイロットスーツに身をつつんだエリカは怒りながらコックピットを出て来た。
「なんなのこのポンコツ!!」
整備兵に食って掛かる。
「また意思解釈システムに故障があったのですか」
「そうよ!!!」
 その若い整備兵は、エリカが出たコックピットを覗いて、匂いを嗅いでから、すこしもじもじして言った。
「…少尉殿は生理でありますか」
 それを聞いてエリカの怒りと恥ずかしさは頂点に達した。
「それがどうしたのよ!!」
「もしかしたら、
意思解釈システムの齟齬はそれと関係があるのかもしれません」
「えっ…!」
 一瞬ひるんだエリカだったが、再び怒気を顔にあらわして言った。
「とにかくよく見ておいてよね!!私のNEVADA!!」
 そう言って、エリカはリフトで降りて言った。
「あーっ、キモっ! デリカシーない奴ってさいてー」

艦橋でブッシュはデータを見ていきなり笑い始めた。
「はっははははは、何と3日目だったとは!」
艦橋内の女性兵士たちはその声を聞いて心の中から沸き起こってくる嫌悪感を抑えつけることができなかった。
「しかし、Coolも心理操縦システムを採用していますが…」
 技術士官が口篭もった。
「それが何か?相手のパイロットとかいうエリカの友達が生理期間が違っていたら影響も違うだけでしょう」
 ブッシュは訝しげに言った。
「これは実験結果から明らかなのですが、仲のよい友達やルームメイトの場合は生理周期も同期化されるようです。脇から分泌される物質が生理期間を同期化させることがわかっています。事実、今回戦死した最初のパイロット候補の少女たちは、みなルームメイトで生理期間が同じでした。また、サイコフレーム稼動に関しても彼女たちの生理期間における影響はありませんでした」
「ほう」
ブッシュが興味深げにつぶやいた。
「じゃあ、何が問題だということなのかな?」
「おそらく、彼女の余りのキラーエリートとしての優秀性にマシンがついていっていないのではないかと…とにかく彼女が出す数値は異常です。それと…」
技術士官はモニターに画像を出した。
これはNEVADAが海水浴場に降りて海水浴客をいきなり虐殺したときの画像です。
「おや…これはすごい」
更に、NEVADAは釜山中心街で「違法駐車強制排除」と称して大量の車両とその周りにいた人々を殺害しています。作戦遂行のために民間人を殺すことはとにかく、作戦行動外でも殺戮を楽しんでいるのが記録画像からわかります。しかも、これは彼女のほとんど初陣です。こんな兵士は見たことがありません。」
「確かに国際法上は問題があるかもしれないねえ。だが、そんなものはどうにでもなるのは過去に照らせば明らかだし、NEVADAのパイロットとしては極めて適格性があるという証拠にしかならないと思うよ」
 ブッシュは事も無げに言った。
「ただ、彼女の殺人衝動の余りの強さにNEVADAがついていけない可能性があるというのは問題だ。でも、これはNEVADAに改良の余地があるということで、開発・運用データ取得ということからすれば喜ばしい結果が出たとも言えるのではないかな?」
そう、つまりまた予算を引っ張る口実ができたというわけだ。
ブッシュはニヤリと笑った。
小泉艦長がオペレータに作戦の遂行状況を尋ねた。
「敵の守備隊はほぼ全滅させました。潜水母艦を強襲しましたが、Coolは既に逃げたようです。」
「Coolの足取りは?」
「軍事衛星で追わせていますが、わかりません」
「空路ではなく陸路で移動しているということか…」
小泉艦長は舌打ちした。

「貨物トラックにパーツごと分解して輸送されたら、もうわかりませんねえ」
ブッシュは眼前に広がる朝鮮半島の高速道路網を見て言った。
「ソベク山脈に沿ってマスドライブシステムがあるソウルまで運ぶか、それとも島が多い全羅南道に入ってまた別の潜水母艦でソウルの近くまで輸送するか…」
ブッシュは頬に手をやった後、黙って自室に退いた。
PCを起動させ、秘密回線を開く。
「ぼくだ。今どうなっている?」
「連邦議会で統一朝鮮武力制裁決議が出されるところです。今議長が投票結果を手にしました。」
ウィンドウが開いて、ニューヨークの地球連邦議事堂での議決の様子を報道するニュース番組がライブ中継されている。
「…ではかねての手はず通り」
「わかりました」
相手との通信ウィンドウは閉じ、ニュースのウィンドウだけが画面に残った。
「武力制裁決議が可決されました…統一朝鮮、チェチェン、イラン、イラク、アラビアイスラム連邦等が憤然として席を立ちます」
アナウンサーが緊迫した声で伝える。
「ありゃ。フランスまで制裁に反対したのか…」
ブッシュは皮肉そうに顔を歪めた。
「ご先祖以来、あんたたちとは相性が悪いねえ…」
そうブッシュが言ったとき、突然爆発と閃光が画面を覆った。
ブッシュはそれをみて薄く笑う。

エリカが艦橋に上がってくる。
「状況はどうなっているんだ!!」
小泉艦長が叫ぶ。
「わかりません、ニューヨークの地球連邦議事堂ビルに小型核爆弾テロがあった模様です。」
オペレータが叫ぶ。
ブッシュが上がってきた。
「艦長、こういうときはニュースを見た方が早いよ。インターネットからCNNを出してくれ」
CNNの画像がモニターに表示された。
「現在、小型核爆弾テロがあったのは、地球連邦議事堂、ニューヨーク証券取引所、マジソン・スクエアガーデン、エンパイヤステートビル、それと…」
キャスターの顔が歪んだ。
「たまたまクルーがショッキングな画像を撮影しました。ご覧ください…」
ニューヨーク港の入り口にあたるリバティ(自由)島に立つ自由の女神は、ニューヨークのみならずアメリカの象徴として存在してきた。ヨーロッパからの移民たちは、アメリカに来る際に、自由の国の象徴として最初にそれを仰ぎ見たものだ。
だが。
青白い閃光と爆発の後、キノコ雲が立った。
自由の女神は、台座もろとも粉々になり、もはやそこには存在していなかった。
ブッシュは微かに笑った。
そう、ぼくはあんたも気に入らなかったのさ。自由なんて結局幻想なのに。自由というのはぼくたち支配階級が愚民どもを支配管理するために嗅がせる麻薬のようなものだ。そんな幻想の象徴にすぎない癖に偉そうにそそり立ち、時にはぼくたちを見下ろすあんたがね。
先祖代々ブッシュ家が通うことになっているエール大学に通っていたときの夏休み、ブッシュはニューヨークに恋人と遊びに行ったことがあった。恋人が別れを切り出したのは、リバティ島の自由の女神のすぐ下だった。
あの思い出と一緒に自由の女神もおさらばさ。
エリカはブッシュの暗い笑いを見逃さなかった。
「この人、あたしの同類だ」
心のどこかで稲妻のように言葉が閃いた。
世界への憎しみと破壊本能を材料に自分を構成している者としての同じ匂い。

しかし、その言葉と共に生じた感情は果てしのない嫌悪だった。
自分の持っている醜さを他人に見せられたという同族嫌悪である。
「艦長」
「は」
「小型核爆弾は、街を破壊できる力はない。だが、ニューヨークが核攻撃されたことは厳然とした事実だよ。これで、こっちも統一朝鮮相手に核を使えるね。」
「しかし、まだ統一朝鮮やソーカがやったと決まったわけでは」
オペレータがそう言うと、ブッシュは声を荒げた。
「何を言ってるんだ!!!軍事制裁決議が可決され、統一朝鮮の議員が去った時に核爆発が起きたんだぞ!! あいつらがやった意趣返し以外に何が考えられるというんだ!!」
エリカは、何の客観的根拠もあったわけでもなかったが、この男がこの事件の犯人なのだと直感した。この必死さ。何かを隠そうとしている必死さ。本当の犯人が他人に罪をなすりつけようとするときの独特の口調、雰囲気、表情。
「うざったてー」
エリカは小声でつぶやいた。

第3章 原子の聖火
「3番管巡航ミサイルに戦術核弾頭装填。目標、釜山市中心街」
「照準釜山市中央市街、市役所に固定。装填完了。発射よろし」
オペレータが報告する。
 小泉艦長は命令を伝えた。
「てええーーーーっ!!」
戦術核ミサイルはオオクボ後部のポッドから発射された。ミサイルは高速で目標に向かって飛行し、やがて着弾と同時に閃光が夕暮れの空を焦がした。時計が逆戻りして真昼のように明るくなったかと思うと、海を挟んで眼前の釜山にキノコ雲が立ち上った。
「市街中心部に着弾しました。推計即死者数40万人」
エリカは、その原子の花火を瞠目して見つめていた。
「きれい…」
あそこで、40万人の朝鮮人どもの命が散ったんだ。
「すごい…」
 
エリカの中で、歓喜と悲しみと恐怖と残忍さと高揚感が互いを喰らい合い、表現し難い感情の合成物が生まれた。エリカは自分の心の中の光る闇の中に朝鮮人たちがわけのわからない言葉で喚きながら苦しむ姿を数多く想像し、興奮状態にあった。
すげえ。戦争すげえぇ!!
エリカは、ブッシュを見た。
ブッシュの表情には、彼女と同様の光る闇があった。
心地よい悪のパワーに身を震わせる彼の姿に、エリカは前に日曜礼拝の教会の説教で聞いた聖書の話を思い出した。黙示録にいう悪魔の数字666が
自分と彼の額には刻印されているような気がした。
ふん。
こんな素晴らしい眺めを見せてくれる限りは、あんたについていくよ。
でも…。
あんたの狡猾があたしの残忍を裏切るようなことが万が一あったときは…
あんたがあたしの光る闇の中でのたうちまわるだけのことさ。
エリカは一瞬暗い光を瞳に瞬かせてから、再び前方の釜山の滅亡シーンを見つめた。
posted by 東京kitty at 20:58| 東京 🌁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

NEVADA(@w荒 第2話 青い空、白い雲、紅い血

第2話 青い空、白い雲、紅い血
第1章 追跡

エリカはNEVADAのコックピットに入った。
彼女は機動兵器の講習を受けたわけではない。
機械の知識があるわけでもない。
ただ、この黒いNEVADAが目に入ったから。
そして、アオイがこの隣にあった機体を動かしたので
自分にもできるかもしれないと
思い込んで乗り込んだだけだった。

だが。

「アオイ、許さない!!逃がさない!!」
そうエリカが思うと、何とNEVADAは動き始めた。

「えっ・・・。私何もいじってないのに。」
彼女の頭にあるアイデアが閃いた。
「もしかすると・・・」
もしかするとこのロボットは、パイロットの思った通りに
動くのかもしれない。

「飛べ」
エリカの鋭い思念を反映して、
NEVADAはバーニアをふかし、
戦艦オオクボを飛び去った。
「アオイの乗ったロボットは??」
そう思った後、彼女は思い直した。
「このロボットの隣にいたロボットの方に
飛べ」
そう思った瞬間、NEVADAは急に推進方向を
変え、エリカは急なGに死にそうな思いがした。
戦艦オオクボを襲ったザフ・バーサーカーに乗り込んでいた
金軍曹はオオクボからもう一機の機動兵器が
出てくるのを確認した。
「ちぃ、追ってくるのか?」
ビームライフルを構えて実装された火器管制プログラムに
目標座標データを渡す。

「何?」
何という運動性能だろう。
NEVADAはロックされる前に
あっという間に彼の視界から消え去った。

「邪魔よ!!死ね!!!」
エリカが空気を引き裂くような声で叫んだ。
「ぐあああ!!!」
金軍曹は恐怖の断末魔を挙げて業火の中で
苦しみ悶えて死んだ。
ザフ・バーサーカーはNEVADAの
ビームライフルの光に貫かれ、
金軍曹の棺桶になった。

青空と白い雲の中で、
燃料やらエンジンやらの爆発で
ザフ・バーサーカーは花のように
散った。

「ばーか、死ねクズ」
エリカはせせら笑ってCoolを追った。

「簡単じゃん、これ」
ザフ・バーサーカーを撃破し、
エリカはNEVADAの操縦を直感的に把握した。
「飛べ!一番速く!!」
青い空と白い雲、そして青い海がエリカの眼前で次々と
展開し消え去っていく。
風景を次々と発生させていく、
眼前の極小の一点だけが、エリカのそこにある世界になった。
さっきから下着が経血でべとべとで気持ちが悪い。
エリカは純粋な憎悪に自分を化身させることでそれを忘れようと
した。
「!」
見えた。さっきのロボット!
「あぁぁおおおぃぃいいいいい!!!!!!」

照準、ロック、発射、回避
一連の動きをエリカは何の訓練もなしに
やってのけた。
眼前のモニタに広がる世界は果てしなく回転したが、
エリカはまるで目が回ることはなかった。
衝撃緩衝システムにより逆方向へのコクピット全体の
回転が生じ、NEVADAの体勢に関係なく
パイロットが回転によって影響を受けることはない。
だが、縦横上下前後のGに関してはアブソーバが
完全というわけではなかった。
それでもエリカは堪えた。
「アオイ、聞いてるの!!」
このころになると、エリカの動作意思は
操縦システムの意思解釈システムと密接にリンクし、
すぐさま通信周波数帯の検索が始まった。
「・・・エリカ!!」
Coolの中で、アオイは愕然としてエリカの声を聞いた。
「何であたしを裏切ったの」
エリカは押し殺した声で聞いた。
「…エリカ。私と一緒に来て」
突然のアオイの要望に、エリカは「は?」と聞き返した。
「私はもともとソーカの人間なの。身分を隠して学校に来ただけなの。」
「そんなことで許してもらえると思ってるの?私に本当のことを言わず、黙って、しかもあんたの仲間はあたしを、あたしを殺そうとしたんだよ?」
エリカは叫んだ。
「それに、戦艦を出るとき、一瞬私に銃を向けたよね、あんた!あたしに!!このあたしにさ!!そんな奴らのところに行けっていうの?バカ言わないでよ!!」
その時。
ザフ・フォルツァに搭乗した朴梅夫少尉は、前方でNEVADAとCoolがやりあっているのを確認し、突っ込んできた。
「軍曹、何をやっているんだ!!」
「邪魔だっつーんだよ!!!」
エリカは殺意を滲ませて叫んだ。
NEVADAの頭部のバルカン砲が開き、
ザフ・フォルツァを射撃した。
「くっ…!!」
「おせえんだよ!!!」
エリカはビームライフルを構えて連射した。
ザフ・フォルツァは紙切れのように装甲がこそげ落ちた。
「軍曹、行け!!回収ポイントに向かうんだ!!!」
ザフ・フォルツァは僚機同様青い空と白い雲を背景に散華した。
  「は…はい!!」
アオイは加速してその場を立ち去った。
  「待ちな!!!」
エリカがCoolを追おうとしたその瞬間。
  「!」
なんだ?動かない。
エリカの意思と操縦システムの意思解釈システムのすり合わせが
うまくいかない。
  「どうして?」
   エリカは周りを見た。
  「くっ!!!」
彼女が見たコックピットの金属製のフレームに、
「三菱製」の文字があった。
  「このボロ機体がああ!!!!!」

第2章 蛇の系譜

ジス・バイパーによって回収されたNEVADAは
戦艦オオクボに帰投した。
艦橋のモニターでそれをみていた艦長席の若い軍人と、
同じ程度に若い背広を来た民間人。
「ねえ、小泉艦長」
「は?」
「艦長さんが戦死した以上、先任将校の君が艦長なのは
当然じゃないか?」
「・・・ブッシュさん」
「そう他人行儀にならなくてもいいよ。小泉大尉。僕と君は祖先の代から
ずっとうまくやってきたじゃないか。僕は国防産業会議理事。
君は新鋭戦艦オオクボ艦長。これからもうまくやっていこうよ」
「は」
「だからそう堅くならなくてもいいさ」
「は」
「それにしても驚いたな」
「ええ」
「初めて乗った心理操縦システムでいきなり90パーセントの
 シンクロ率出されたら、数億ドレンもかけて受精卵から生成した
生体CPUなんてバカバカしくなっちゃうねえ」
「・・・」
「あの子さ」
「は?」
「このままNEVADAのパイロットにしちゃおうか? Coolと戦わせて実戦データを取ろうよ」

女性士官がエリカを尋問している。
「では友達を追ってNEVADAに乗り込んだというの?」
「…」
エリカは果てしなく暗い目をして頷いた。
「あなたのやったことは、連邦軍の軍事機密に許可なく触れたことで、
極めて重い罪にあたるのよ!!」
「…敵を2機倒したもん」
声のトーンに、少しいらだちが混ざった。
女性士官は絶句した。
「あんたたちを守ったの、あたしなんだよ。態度でかくない、あんた。
顔洗ったら?」
突然エリカの顔に修羅が憑依した。
「まあ、そのへんでいいでしょう」
ドアが開いて、ブッシュ委員と小泉艦長が入ってきた。
小泉艦長が合図すると、
女性士官は敬礼して退出した。

「さて・・・」
ブッシュはじっとエリカを見た。
「さっきから室内のモニターで一部始終見せてもらったよ。
 友達のあとを追いたいんだって?」
「・・・そう。でももう友達じゃないよ。
 あたしを、裏切ったんだ。敵だよ。」
 エリカは目に炎を燃え立たせた。
「いいだろう。君には、あの機体・・・NEVADAの
パイロットをやってもらう」
「ほんと?」
 それを聞くと、エリカの目に意外さと歓喜が浮かんだ。
「但し・・・」
 ブッシュは指を一本立てた。
「君には軍の士官になってもらうし、こちらの指示には
 全部従ってもらう。いいね?」
 エリカは、ブッシュの発言を慎重に聞いていたが、
やがて静かにうなずいた。
「よし、では君は今日から…少尉さんだ。いいね、艦長」
小泉は頷いてエリカに言った。
「地球連邦軍軍規第43条の2第5項の規定に基づき、交戦中の艦長特権としての野戦任官権限により君を地球連邦軍少尉並びに新型機動兵器NEVADAの専属操縦士に任命する」
小泉はそう言った後、固まったように動かない彼女を
いぶかしげに見てから言った。
「敬礼したまえ」
 エリカは、無作法に右手を額に当てた。

第3章 別れ
「で、ご家族とはお別れしなくて本当にいいの?」
 女性士官が尋ねた。
「はい。そう言っておいてください」
エリカはぶっきらぼうに頷いた。
誰があんな小うるさい連中。
新しい世界に入っていけるんだから、もうあいつらはいらない。邪魔。
「でも…」
女性士官の言葉を聞いてエリカは切れた。
「ちっ、うるせーよババア。いいっていったらいいんだよ!
あたしはもう少尉なのよ。あんた軍曹じゃない。上官に向かって生意気よ!!」
それを聞いて女性士官は絶句し、ガンルームから出ていった。
艦内放送が響く。
「これより本艦は、奪取された新型機動兵器を追って出動する。」
続いて、エンジンの音と共に艦体が動きはじめるのをエリカは感じた。
エリカは、窓から外を見た。既に時間的には夕方だったが、
初夏の日差しはまだ明るい。
「あっ…」
彼女は高台にある、自分たちの小学校を認めた。そしてあの坂も。
「アオイ…」
ほんの9時間前は、彼女とその友達はただの小学生だった。
今や2人とも軍人、それも敵同士の軍人になってしまった。
エリカは、目の前にある自分の過去の世界が
大きな音を立てて扉によって閉ざされるのを見たような気がした。
エリカは顔を歪め、静かに泣き始めた。
さっき変えたばかりの生理用品が、
また自分の経血で濡れていくのを彼女は感じた。
彼女の世界は時間と方向を失い、ただの無秩序な混合物となった。
戦艦オオクボは出航してからすぐ艦首を回頭し、
佐世保の風景はエリカの見ていた窓からはついに見えなくなった。
posted by 東京kitty at 20:56| 東京 🌁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

NEVADA (@w荒 第1話 ともだち(@w荒

NEVADA
第1話 ともだち
第1章 坂の上の木馬

佐世保。朝8時(@w荒

初夏の陽光が容赦なく降ってくる。
「ざけんじゃねえ」
6年生のエリカは
小学校への坂を陰鬱な顔をして苦しそうに登っていった。
汗が顔中の穴から既に猛烈に噴出している。
道路の脇の葉の匂いが、やけに鼻につく。
ぺっ。
道の真中に唾を吐く。
面白くもねえ学校。
面白くもねえクラス。
下着が、気持ち悪い。

あーあ、かったりー
エリカは、坂の上から見下ろしているかのような
学校の時計台をうらめしそうに見つめた。
大体こんな坂の登り切ったところに学校なんて作るなっつーの。
朝は嫌いだ。夜が好き。
エリカは、朝に弱い。坂を歩く一歩一歩がやけにだるい。
ま、いっか。
アオイとくっちゃべられるだけで気も晴れるし。
あと少し。あと少しでクーラーの効いた教室だ。

その時。
彼女は潮の香りと共に感覚に運ばれてきた
エンジン音の低い大きな唸りを聞いた。

「うぜえな・・・・」
エリカは下を向いた。
「こちとら生理なんだよ」

だが、エンジンの音は大きくなっていくだけだった。
エリカが舌打ちしてもう一度顔を上げると、
アオイが佐世保港を見下ろしてずっと先の方に立っていた。
彼女は上を向いてエンジン音の源を見つめた。
アオイにつられてエリカもそれを見た。

まるで木馬のようだ。
エリカは空を飛ぶ戦艦を見て思った。
連邦軍の戦艦だろう。

「おはー」
エリカが歩を早めてアオイに近づくと、
彼女は振向いた。
だが、その表情は硬く引き締まっていて、
普段のアオイの顔ではなかった。
「朝っぱらからすげーの飛んでるね」
「…地球連邦軍戦艦オオクボ」
「は?」
エリカは訝しげにアオイを見つめた。
「いこ」
彼女はずんずんと歩きだした。
変だ。
いつもと違う。そう、いつもと違う。大人しいアオイが。
いつもわたしの話をふんふんと聞いているだけのアオイが。
いつもはわたしがあんたを引っ張っていくのに。
何だっていうの?
それにあのクラスの端っこに座ってる
やせっぽっちのメガネのだせー軍事ヲタクじゃあるまいし、
どうしてあんたが戦艦の名前なんて知ってるの?

アオイは転校生。
わたしだけがあの子の友達。そして多分あの子だけがわたしの友達。
クラスの中で浮いてハブられそうになったときもわたしが庇ってやったし。
わたしが何でもあんたに教えてやって、あんたはわたしについてきた。
なのにあんた、変だよ。
これじゃあんたがわたしをリードしてるみたいだ。

エリカは、アオイの背中を見て坂を登りつつも、
なぜかその背中を追い越せない空気に
押しつぶされそうだった。
このアオイの圧倒的な存在感は一体何なのだろう。
エリカは生理の鈍い痛みと共にアオイの背中に一瞬激しい憎悪を抱いた。

2章 歓迎会
「今日は佐世保港に地球連邦軍の戦艦が来港しました。
みなさんで歓迎会に出席します」
それを聞いたとき、クラスは白けた雰囲気に包まれた。
ただ一人、軍事ヲタクのメガネの康夫だけが万歳を叫んだ。
このやせっぽっちはいつも何かズレているんだ。
エリカは彼を軽蔑していた。

佐世保という町は、
確かに佐世保港にまつわる軍需によって支えられている。
この学校に通っている子供たちも、
軍人たちの落とすカネで生きているようなものだ。
だが、彼らは親たちから軍人の恐ろしさ、意地汚さ、醜さもまた
ずっと小さいときから耳にタコができるほど聞かされてきた。
エリカもそのうちの一人だ。
それでも、彼女は皆とは感想が違っていた。
その理由は今日の登校時のアオイの態度だった。
あの子、あの戦艦を見て目の色変えていた…
あの船の近くにいけば、何かわかるかもしれない。
アオイは、いつもと違って相変わらず近づき難い雰囲気を醸し出していた。
「アオイさん」
担任の女教師がアオイを呼んだ。
「はい」
「今日は、艦長さんにお花をあげていただきます。いいですね」
「はい」
アオイは静かに頷いた。
エリカはそんな彼女を薄く目を開けながら見ていた。
変だよ。あんた、なんか変。
エリカの心はその2つの文章を無限に反復していた。
それは生理の鈍い痛みを和らげるためのある種の呪文のような
働きをしていたといっていい。

佐世保軍港。
「でかいなあ…」
エリカは戦艦オオクボを見上げて思った。
確かに飛んでいるときもでかかった。
だが、近づいてみるとあらためてその大きさに驚く。
今起きている、地球連邦から独立を狙う宇宙コロニー国家ソーカと
地球連邦軍との全世界における小競り合いがいつエリカたちの
生活にも関わってくるかわからなかった。
だが、エリカはそんなことなど意識したこともなかったし、
彼女の生活は狭いクラスの中で閉じていた。
外界の世界のことなどどうでもよかった。
まるで姉妹のような
アオイとの世界だけが彼女の最後の砦だったのだ。
残りのクラスの連中?
ああ、どうでもいいやあんな連中。
だが、その砦に今朝ほころびが生じた。
エリカはそれを繕うためにそこにいた。

オオクボの脇の搬入路の近くに、様々な補給物資が積み上げられ、
コンベヤで艦内に飲み込まれていく。
彼女のクラスの子供たちは、オオクボの近くに設けられた
しょぼい「歓迎会」会場にやってきた。
「だっさ。いい男いないね」
「軍人とか言ってもねえ」
「おっさんばっかり」
クラスの馬鹿女どもがすでに陰口を聞きまくっている。
エリカは薄く笑いながらもその意見には同感だった。

どうでもいい大人の話。どうでもいい戦争のこと。
そんなつまんねー話が終わってようやくアオイが花束を渡す段取りになった。
だが…
「あれ?」
アオイが、いない。
皆があたりを見回したときだった。
「敵襲だあああああ!!!!!」
金属を引き裂くような声が辺りに響いた。

第3章 強奪と死
エリカは太陽の中に影を認めた。
その影は急に大きくなり人型となった。
頭部の一つ目がギラリと輝くのをエリカは確かに見た。
だが、それはすぐに視界から消え去り、
彼女の周りは轟音と爆風と火炎に
包まれた。
ザフ・バーサーカーとザフ・フォルツァの
ソーカの2機の人型機動兵器(モバイル・トルーパー, Mobile Trooper = MT)がオオクボを襲った。
エリカは爆風に吹き飛ばされ、机にしたたか背中を打った。
「いてて…」
轟音のせいか、耳があまりよく聞こえない。
周りは軍人や同級生たちの死体で一杯だった。
一瞬、エリカは何が起こったかわからなかった。
そして眼前に横たわる死体の群れの意味も。
だが、少し遠くの方にある担任の首が取れているのを見て
彼女も心の中に鋭く突き刺さる彼らの死の認識を否応なく獲得した。
どうでもいいこんな連中。
死んでせいせいしたよ。
エリカは荒々しい感情を奮い立たせた。
そうでもしない限り、泣き出しそうだったからだ。

「うっ…」
ああ。
あの軍事ヲタクのやせっぽっちメガネ、端っこの方で
しぶとく生きてる。
そんな。
そんなものはどうでもいい。
あの子はわたしの唯一の友達。わたしはあの子の唯一の友達。
あの子が来るまでは学校が終わるのだけが楽しみだった。
終業のチャイムをずっと待っていた。
「アオイ…は?」
エリカは周りを見回した。
煙の先。オオクボの艦内へ走っていく小さな影。
「アオイ!!!」
エリカは跡を追った。

アオイともう一人の少女マサコは、格納庫にもぐりこんだ。
敵襲による混乱、怒号、轟音、爆風は格納庫にも及んでいた。
彼女たちは、搭載されている
ピンク色と黒色に塗装された2機の人型機動兵器、
地球連邦軍の新型であるCoolとNEVADAを見て頷いた。

アオイは、この瞬間になぜか過去の思い出が映像になって
頭の中を駆け巡るのを抑えることができなかった。
ソーカのエリート少女スパイとして、
今隣にいるマサコと訓練を受けたあの辛い日々。
身分を隠し、この佐世保にこの作戦のためにもぐりこんできた
2年前。転校したときの冷たいクラスの態度。
そしてただ一人手を伸ばしてくれた友達。
エリカ。

だが、その彼女の一瞬の追想が油断を生んだ。
「誰だ貴様ら!!」
兵士が彼女たちに銃を向けた。
マサコは躊躇せずに銃を撃ち、兵士は倒れた。
「さあ、今のうちに!!!」
「うん!!」
アオイたちが両機の方に駆け寄ろうとしたその時。
「まって!!!!」
その声に、アオイは聞き覚えがあった。
「エリ…カ」
アオイの声と表情は凍りついた。
「あんた……一体こんなところで何をやってるの」
「エリ…カ」
アオイは固まって閉じた自分を意識した。
その時。マサコがずいっと前に出た。
「アオイ、先に行って」
「えっ」
「行って。私が上官のはずよ」
「…わかった」
アオイがピンク色のCoolの方に向かうと、マサコは銃をエリカの方に向けた。
エリカは事態を把握した。
「あんたら、スパイね」
「だったら、どうだっていうの」
マサコがそう言うか言わないか。
エリカはもっていたカッターナイフを投げつけた。
銃声が鳴った。
だが、マサコの手にカッターナイフが当たり、撃った弾は外れた。
「このぉおおおお!!!!」
エリカは渾身の蹴りをマサコの腹に叩き込んだ。
「ぐぇええええええええ!!!」
コックピットに入りOSを起動させたアオイは、モニターから
はらはらしながらこの様子を見ていた。
「マサコ!!!」
だが、マサコも負けてはいなかった。
二人は殴り合いながらくんずほぐれつしていたが、
やがて銃声が響いた。
「!!」
アオイは二人の様子をコックピットの中でじっと見守った。

マサコの凍りついたような瞳が銃を手にした
エリカを映している。
マサコの口から、つーっと血が流れた。
温かそうな、粘度が余りなさそうな、血。
マサコは一回大きく咳き込んで、大量の血を床に吐いて倒れた。

血。
ああ、今日わたしが朝トイレで垂らしてきたのと同じ血。
エリカは、格闘の際奪い取った銃を手に把りながら
マサコの口から流れる血を思ってなぜか今日の朝
白い陶器に流し水に溶けていった自分の経血を
思い出していた。
それは、彼女にとって慣れ親しんだ液体だった。
血って、怖くないんだ。
どけよ。
エリカは無造作にマサコの死体を自分の体からどけた。
「マサコ!!!!!!」
アオイはコックピットの中で絶叫した。

その時。
彼女がもってきた通信機が呼び出し音を鳴らした。
「は…はい…」
涙を流しながらアオイは応答した。
「作戦の遂行状況は?!」
「…マサコが…金少尉が…戦死…
 新型機動兵器一機を鹵獲(ろかく)…」
そこまで言ってアオイは嗚咽を始めた。
「軍曹!!時間がない。その一機を奪取して脱出するぞ!!」
「りょ…了解…」

ピンク色のCoolはスタビライザーから拘束具を引きちぎり、
自立歩行を開始した。
「エリカ…」
アオイはビームライフルを一瞬エリカに向けた。
だが、その近くにマサコの死体があることに気付き、
涙を流しながらバーニアをふかし、船から飛び去った。

「アオイ!!!!!!」
エリカはCoolのバーニアの爆風に耐えながらも、
その去っていく姿をじっと見ていた。
あんたがスパイだったなんて…
エリカは歯がみをした。
「裏切ったんだね、あたしを!!!」
複数形でなかったことに、彼女の情念の性格が何かがはっきりと
表示されていたといっていい。
「よくも!! よくもよくもよくも!!!
友達面してうちの学校に乗り込んできてくれたよ!!」

アオイが最初に転校してきた日。
それはエリカの初潮の日。
世界が始めてエリカに覆い被さって来た日。
エリカはあの日暗い顔をしていた。
そしてアオイもやはり暗い顔をしていた。
痛かったのだ。
たまたま同じ方向に帰って、
「あんたも?」「わたしも」と言い合って
思わず笑ったあの日。
ほんの少しだけ痛みが軽くなったあの笑い。
楽しい思い出。クラスはみんな敵だったけど、
あんただけはわたしの味方だった。
でも、あんたは裏切って去っていった。
残されて。
わたしだけここにいる。ここに。こんなところに。
兵士たちの屍骸。爆音。
そしてわたしと同じ年代のこどもの死体。

エリカは床を平手で叩いた。
「くっ…」
激しく動いたせいか、
脚にはもう血が流れている。
彼女は下着の下の気持ち悪さと、
彼女を裏切った世界と友人への憎しみを
原料にして自分を再構成した。
エリカの目からは涙がこぼれていたが、
やがてあるものを見つけ、眦(まなじり)を決して
立ち上がった。
彼女が走っていった先にあるもの。
それは残ったもう一体、漆黒に塗装された
新型機動兵器NEVADAだった。
posted by 東京kitty at 20:53| 東京 🌁| Comment(7) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。