ニュースは、昭和天皇が今まで辿ってきた軌跡と、
日常の生活を流していた。
「天皇って、いい生活しているなあ」
このとき、初めてひろゆきは天皇に対して憧れめいたものを抱いた。
確かに色々束縛はあるのかもしれないが、
全ての権威や権力の上にあって超然としていられるところが、
今の自分が目指している生き方に合致しているような気がしたのだ。
「お父さん」
ひろゆきは父に言った。
「ん?」
「今日は、ご飯食べにいかないの?」
「ああ。こんなことがあったんじゃな」
母親も頷いた。
「そうですよ。官舎の奥様たちに会ったら何て言えばいいのだか」
ひろゆきは、しばし下を向いて考えた。
そして、やがて顔を上げた。
「大丈夫だよ。ご飯、食べに行こうよ」
父も、母も、そして姉さえも目を丸くした。