2004年04月01日

昭和最後の日-6(@w荒

ひろゆきは、小学校のとき父の働いている
税務署に行ったことがある。
父や母の職場の様子を作文にしてくるという
宿題があったからだ。
くすんだ外壁の建物の中で、
大勢の職員に混じって父は働いていた。
ひろゆきは、
待合の長いすの端にちょこんと座りながら、
緊張して父の様子を見ていた。
彼のように飽きっぽい性格の人間でも、
父の仕事の様子は面白かった。
「そこの地上権の残存期間だけど、11年だろ?
 相続税法23条の規定通りに100分の10掛けでいいんだよ。
 いや、特別措置法45条4項は関係ない。
 4項規定の対象は昭和55年から昭和59年までに
 地上権が設定されたものに限定されているから」
こう部下を説得する父の姿は、
ひろゆきにとっては論理と秩序の体現者に見えた。
「昭和55年から59年までですね?」
部下が念を押した。
「そうだ」
父は頷いた。
システム。
ひろゆきの心の中で、
仕組みとか機構に対する志向性が生まれたのは、
父の働く姿によるものだった。

ひろゆきにとって、
最近まで父親は侵しがたい崇拝の対象であった。
ひろゆきは勉強も嫌いだし、飽きっぽい性格だが、
それでも父親に言われれば言うことを
比較的素直に聞いていた。
無論、
父親が一家の大黒柱として
収入の源であったということもあったが、
何よりもひろゆきにとっては
父親が論理と機構を象徴するものであったからだ。

だが、最近その父親の権威が揺らぐ事件が起きた。
ある晩、父親は酔っ払って帰ってきた。
「くそっ!役人なんてやるもんじゃないなあ・・・・」
父はそういってどかっと卓の前に腰を下ろした。
滅多にないことだが、父は仕事の内容について話しはじめた。
酔って口が軽くなっていたためだろう。
とある企業に税務調査に入ったのだが、
その内容に関して、
税務署の先輩で今は税理士をしている人間から
横槍が入ったらしい。
その先輩は父とはあまり反りが合わない人物だったようだ。
だが、意見を通さないわけにはいかない。
連綿と続く人事の秩序があるからだ。

その企業は3階建てになっている。
3階建てというのは、
税務署出身の税理士を
3人顧問税理士として抱えているということだ。
今度、最長老の税理士が引退する。
一つ、枠ができるわけだ。
そういったこともあって、
今回は慎重に、ということが上層部の意思としてあるらしい。
「つまらん・・・本当につまらんよ」
父も、税務署を退職すれば法律上は税理士になることができる。
だから、大きな意味で
この手の利害関係の真っ只中にいるわけだ。

論理と公正の象徴に見えた父。
ふん、結局あんたも理不尽な世間の利害の仕組みの
無力な一部品に過ぎないってわけかよ。
ひろゆきは、その姿を見て、
父への失望と憐れみと同情と怒りが一緒に噴出してきて、
わけのわからない感情に襲われた。

posted by 東京kitty at 15:53| 東京 ☀| Comment(0) | 昭和最後の日(@w荒 - 2ちゃんねる最初の日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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