2010年01月29日

解語之花 - ひゃくごじゅうよんせんち(@w荒

と或る(とある)日の昼、冱てる(いてる)冬の空の下。

ヲレは新宿歌舞伎町の幕度鳴度(マクドナルド)で珈琲(コーヒー)を喫していた(@w荒
隣では試験勉強か、少しヴスカワの女子大学生が複素解析の問題を解いていた。

Integral (∞,0)(sinx/x)^2 dx

簡単な問題だ。半円で原点の周りを迂回した積分路を設定してCauchyの積分定理を使い、Jordanの補助定理等を用い、答えは直ぐに出る。π/2だろ(@wぷ

ヲレは暗算で答を導いた。

だがこの女は計算違いをしている。
バーカ、こんな簡単な計算間違えるなよ(@wぷ

「答え、間違ってるよ(@wぷ」と謂おうとした瞬間、「24」のCTUの電話着信音が鳴った。
ヲレの携帯だ(@wぷ

「はい(@w荒

ヲレが電話を秉る(とる)と、回線の向こうから若い女の声が聞こえてきた。
「私、自殺するから」

「は?(@w荒

電話は突然切られた。


ヲレは通話記録の番号を確認した。
知らない女だし、知らない番号だ。
初めて掛かってきた。

ヲレは不思議に思い、まあ世の中には変わった者もいるな程度に思った(@w荒

すると、また電話が鳴った。
同じ番号だ。
ヲレは携帯を秉った(とった)。

「さっきの人?(@w荒
沈黙。

切れた。

キモいな(@wぷ
ただの害基地かよ(@wぷ

ヲレは早速その番号を受信拒否に設定しようとした。

するとまた電話が鳴った。


鳴り続ける携帯を前に、
"amem.i nen amem.i erpw, khen is pw(@wぷ"
(アメミ ネン アメミ エルプー、 ケン イス プー)
「秉るべきか秉らざるべきか、それが問題だ」と、
シェークスピアのハムレットの台詞を真似てヲレは古代エジプト語で呟いた(@w荒


「秉っちゃえ(とっちゃえ)(@wぷ

ヲレはあっさりと電話を秉った。
「あの・・・」
可愛い声だ。ヲレはその時気付いた。

「ひょっとして、番号間違えた?(@wぷ

ヲレは直截的に聞いた。

ヲレは微かに揺れる電話の向こう側の空気を確かに聞いた。
「あ・・・はい」

その時ヲレは彼女の声の背景音も同時に聞いた。
雑踏。いや、それだけではない。他にも何か聞こえるぞ(@w荒


パーン。ガタンガタン、ガタンガタン・・・・
電車がプラットフォームに入ってくる音だ。
バッシャーン。
ドアが開く。
そして聞こえてくるのは・・・

パラパーパラッパラー パラパーパラッパラー パラパラパラパーパーラー♪
「間違えちゃいました」
彼女の声に被さって聞こえてきたのは、
エビスビールのCMの音楽だ。
元来は映画「第三の男」 の音楽でアントン・カラスによるものだ。脚本は有名な英国作家のグレアム・グリーン。但し、彼の書いたハッピーエンドの結末は監督のリードが差し替えてあの味のある幕切れになっている(@w荒

話が逸れた。
つまり彼女が今いるのは恵比寿駅という事になる(@w荒


恵比寿はエビスビールとの関連で、
駅の発車音にそのCMの音楽を使っている。
ヲレは彼女が電車に飛び込んで死ぬ心算(つもり)かと計算した(@w荒

「ははは、まあそういう事もあるさ(@wぷ

適当に話を合わせつつ、
思考を続ける。
とりあえず、彼女の場所が分かった。
ヲレは幕度鳴度を出た。

何時の間にか、駆け足になっていた。


「で、何歳?」
「え?」
「君の歳(@wぷ

横断歩道を渡り、坂を上がれば新宿駅のビルが見えてくる(@w荒

「じゅうご」

ヲレは速度を上げた(@wぷ


「運動してる?」
「え?ああ(@wぷ

ヲレの吐息を聞いて、彼女が問うてきたので
不図(ふと)答えた。


「ところで、本当は誰に電話しようとしてたの?(@w荒

ヲレはルミネ1階の交番を一瞥した。
ここで警察に行ってこの子の事を任せてもいいが、
電話を離したらすぐ電車に飛び込むかもしれないし、
警察に事情を説明する時には紙に書けばよいとして、
余りにも遽しく(あわただしく)、
また彼女を確保できるかも分からない。

此処はヲレが直に行った方がいいだろう(@w荒


「本当は・・・」

彼女は言葉を濁した(@w荒

「本当は・・・・」

電話の向こうで空気が震えた(@w荒

ヤバい。

どうやら、地雷質問だった様だ。
死ぬ前に掛ける電話の相手なのだから、
相当の相手で
場合によっては彼女の自殺の意志を固めた張本人かも知れない。


いやまてよ、
でも其う謂う相手なら、番号を登録してあり、
間違える事なんてあるかな(@w荒
適当に電話してみたら
偶々(たまたま)ヲレの番号だったのかもしれない(@w荒

揣摩臆測(しまおくそく)の中で
逡巡(しゅんじゅん)してる閑(ひま)も無い(@w荒

ヲレは地下入り口から階段を降りながら、
彼女にその事を問いかけてみようとした。


すると電話が切れた(@w荒


改札前まで来てSUICAを出した。
すると、

「ただいま恵比寿駅で人身事故があり、
 電車が止まっています」

との構内放送があった。

ヲレは彼女が投身したのだと思った。
一瞬の間に消えた命にヲレは茫茫とした思いに囚われた。

だが。


電話が、鳴った(@w荒


電話の向こうの声は、泣きじゃくっていた。
そして背景音の洶洶(きょうきょう)としたざわめきとどよめきが、
何が起きたかを示していた(@w荒


「君は、生きているんだね(@w荒

ヲレはぼそっと言った。

「はい・・・はい!!」

電話の向こうの声は、悲鳴だった。

「今どんな服を着ている?」

ヲレはそう言いながら、動いている別の路線の電車に乗った。

「学校の・・・制服を着ています。」
彼女はゆっくりと答えた。


「身長はどのくらい?」
「ひゃく・・ひゃくごじゅうよんせんちです・・・」

そう言いながらも彼女は泣きじゃくっていた。

電車が恵比寿駅に滑り込み、
ヲレは駅員達が少し前まで人であった骸を
白い布で覆って合掌しているのを窓から垣間見た(@w荒

ヲレは鷹の様な目でその傍のホームの上に佇んでいる
有名私立女子校のセーラー服姿の少女を見つけた。
周囲の構築物等の比較対照から見て、
その身長は
「ひゃくごじゅうよんせんち」
以外の何ものでも無かった(@wぷ


「君が目の当たりにしている事は、
とても衝撃的だったとをもう(@w荒

「えっ」

「だって泣いてるんだもの(@w荒

「・・・・」

少女の後姿が近づいてきた。


「こう考えたらどうだろう。
 その人は、君の代わりになってくれたんだって(@w荒

「えっ!!」

「そしてヲレは今君の隣にいる(@w荒


雑踏の中、ヲレは左手で電話機を持ち、
見出した少女の細い肩に右手を置いた(@w荒


振り向いた彼女の解れ髪と
今まで泣き腫らし、そして今度は驚きを宿した瞳を
確り(しっかり)とした視線で捕らえつつ、
彼女の嬋娟嫋娜(せんけんじょうだ)振りに驚いた。

ムンクの「純潔」に描かれた少女の如く、
彼女の心は一糸も纏っていなかった。


「可憐だ(@wぷ

ヲレは心の中で一瞬呟いてから、
言葉の弾丸を彼女の心に撃ち込んだ(@w荒

「生きることの意味を考えたりするな。
 言葉は生のためにある。
 言葉のために生があるんぢゃあない(@w荒

彼女の顔が一瞬引きつった。


「い

    ま


            だ(@wぷ


ヲレは好機を逃すほどノロマではない。


「こわかったろ?(@w荒
ヲレは彼女に微笑みかけた。

ヲレは彼女の心に千分の一秒単位で生じた間欠を認識し、
その中に侵入した(@w荒

すると彼女の恐怖と不安で
固く糾われた(あざなわれた)心が
解け(ほどけ)、
泣きながらヲレに抱きついてきた(@w荒

体を伝って感じる、
鼓動する彼女の心臓の音が彼女の命の重さだった。

ヲレは彼女の髪を優しく撫でた(@w荒


「生きることは、
 君がをもっている以上に佚しい(うつくしい)よ(@w荒

ヲレは静かに呟いた。




-----------------------------完-----------------------------

posted by 東京kitty at 04:49| 東京 ☀ | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月10日

渋谷ブラックシップ(@w荒

真冬のとある日の午後。
渋谷駅の近辺はいつものようにごった返していた。
ハチ公の前は待ち合わせのために人々が集まり、
そのすぐ近くの三方に伸びる横断歩道を渡ろうとする人々のベクトルがあちらこちらで交差しあっていた。無論そのほとんどがもしかしたら初めて出会い、そして二度と会うことの無い人々だったのかもしれない。
だが、彼らはそこに居合わせたことで、そこでどのような運命に遭うにせよ、今までの人生で最大の経験をすることになったであろうことは疑い無かった。

人々はほとんど自分の行く先だけ見て進む。
前だけ見て進むのだ。
そんな中で、君はたまたま上を見た。
なぜ見たかはわからない。
たまたま好きな歌手が広告の動画で映っていたのかもしれないし、高楼の下でせわしなく蠢く自分を含めたこのにんげんという動物の滑稽さにため息をついて思わず天を仰いだのかもしれない(@wぷ

「あ」
青い空の中に、何かが光った。
君はそれを口を開けて見ていた。
やがて横断歩道の信号が変わり、君は道路の真ん中に取り残されたが、それでも君はそこを動こうとしなかった。いや、動けなかったのだ。
車が次々とクラクションを鳴らし、君の横を通る。
近くにある交番から警官が出てきて、君の方に近づこうとしている。

人々の視線の先に、君がいる。

君は口を開けながら、説明というより言い訳のために空を指差した。
人々も君の指し示す方向を見た(@w荒


最初蒼天の中の光点に過ぎなかったそれは、
段々と大きくなってきて、人々はその存在を識別した。
銀色で三角形のそれは、底に幾つかの円を有し、それらは幾つか新しく太陽が生まれたかのごとくギラギラと輝いていた。

問題なのは、その三角形が端から煙を噴き上げていたことだ。

人々はそれを本やテレビやビデオや映画の中では何度も見たことがあった。科学者たちが話すことも、それから狂信的とも思われる連中が話すことも、人々は無論全て知っていた。

それは現存し、目の前に迫っていた。

人々が、そのときの状況に気付き、逃げ出そうとしたときはもう遅かった。君の頭の上を掠めて、それは君の後ろにあったハチ公広場に墜落し、辺りを阿鼻叫喚が包んだ。

助かった人々は、その事件がどのような意味を持ったか認識した。そう、全てがチャラになったのだ。歴史も、社会も、生活も。今まで自分を含めて営々として築いてきたものが一瞬で木っ端微塵になったのだ。それは債権も負債も含めてである。

驚きと恐怖と同時に、君は言いようのない開放感を心の隅で味わっていたことを他の誰にも言わないでおこうと思ったに違いない。だがそれは問題ない。皆そう思っていたのだから。

裂けた死骸や、呻く人々を尻目に、君は墜落したそれに近づいた。もう自動車を運転しているような閑な奴はいない。全ての車は停車して乗っていた連中は外に出た。
交番にいた警官たちは真っ青になっていきなりピストルを手にとっていた。

「近づかないで!!」
日に焼けた大柄の警官が叫んだが、誰も言うことを聞かない。もうさっきまでの人類の歴史は終わったのだ。社会も、法律も、科学も、そして人々があれほどまでに追い求めてきた金までも、目の前に屹立する存在と事実の前ではただの陳腐な妄念にしかすぎなかった(@wぷ

君はそれに近づく。
跡形も無くなったハチ公のあった場所に、それは大勢の死骸を余り効果の無いクッションにして斜めになって存在していた。横から出ている煙の他は、特に目立った破損箇所すらない。

君はふと放射能の心配をした。今まで聞いたところではこれの仲間が出現したところでは大量の放射能が検出されたという話だからだ。だが好奇心がその不安に打ち勝った。

君は斜めになったそれの上側を見てみた。ふと何かに躓いた君は、それが若い女の目を見開いた血まみれの死骸であることに気付く。だが君はアパシーの中に逃げ込み、好奇心の虜となった。

突然、それの上部の一部が半透明になった。
子供のような形のものがそこからどさりと落ちた。
君は無論それが子供でないこともわかっていた。
背が小さく。頭でっかちで。色白で。
そして目がやけに大きいそれは、半透明の体液を体中から
流していた。
本当にいたんだな、お前ら。
その存在を前に、君は今まで虚構だと思っていたものが真実であり、真実と思っていたことがただの虚構であったことを思い知った。

君は近づいて異星の地で朽ち果てることになったその来訪者の最期を看取った。大きな頭がことりと横になり、4本しかない指が力無く開かれた。

君はその手のひらに金色の立方体を認めた。

何だろう?
君はそれを手にとって、あれこれと弄ってみる。


すると、君の頭の中に英語が流れ込んできた。
しかし、もっと不思議だったことは、君は英語がわからないはずなのにその意味がすらすらと分かったということだ。
「1マイル四方は完全封鎖だ!全部隊に徹底させろ!」
その強烈な意思の発する方向から、幾つもの爆音が聞こえてきた。8機ほどのカーキー色の大型ヘリコプターがこちらに近づいてきた。そしてそれは無論自衛隊のものではなかった。

君はそこを逃げ出すことに決めた。
なぜだかはわからないが、
あの意思は君にとって友好的なものとは思えなかったからだ。


君は下宿のアパートに到着する。
ふとつけたテレビでは、さっきまでいた渋谷の墜落現場の映像をバックに、大槻教授の引退宣言が流されていた。
君は、現場を映した画像の中で、警官を前に激しく小競り合いをする米兵たちの背後に一瞬だけ移った痩せぎすのサングラスの将校を認めた。君はコートのポケットに入れたままだった金色の立方体を握ってみた。

すると、再び英語が頭の中に滑り込んできた。
君はそれがあの将校の心の中の言葉ではないかと推測した。
「全くこんな場所に墜落するとは・・・今までの隠蔽の苦労がもう水の泡だ・・・。いっそ原爆でこの辺りを焼き払った方が良かった。今からでも遅くないのかもしれない・・・」


どうやらこの金色の立方体は、
ラジオの周波数を合わせるように
様々な精神に入り込むことができるらしい。
小さい仕掛けではあるが、極めて驚くべき機械だ。

君はこの機械の使い方に習熟しようと心に決めた。


次に君はネットに入ってみた。
2ちゃんねるは去年政府に潰されたばかりだが、
それでもYahoo掲示板や東京kittyアンテナをはじめとする
ブログにはこのニュースのことがいち早く論じられていた。

「それにしても米軍もトロいよなー(@wぷ
 よりによって渋谷のど真ん中に墜落させて、
 全部バレちゃうとはな(@wぷぷぷ

 それはそうと米軍が来る前に誰かが何か持っていったりしてな(@wぷ」

東京kittyアンテナでこの記事を見たとき、君はどきりとした。読まれてる?何か知ってるのかこいつ?
君は何とかして東京kittyの心にチューニングを試みるが、全くうまく行かなかった。

どうもまだ全ての者の精神に入り込めるというわけではなさそうだ。


とりあえず、君は金色の立方体を握り、例の将校の精神に再び入ってみた。彼の思っていることが英語で君の頭に入ってくる。その感情についても、何故か口調という形で感じ取ることができるようだ。彼の記憶についても浸透できるだろうか?
できそうな気もした。

君は精神を集中させて、金色の立方体を強く握った。

ジョン・・ジョン・マッカビー。

そう、それが彼の名前だということに君が気付くのにそれほどの時間は掛からなかった。

(続く)
posted by 東京kitty at 03:13| 東京 🌁| Comment(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月06日

シンゴ45(@w荒

  
シンゴ45


その日の東京ボールパークの外は、初秋の涼やかな風が吹いていた。しかし、その中は年中完全な室温および気圧調整が行われ、外の気候が反映しないこと夥しかった(@wぷ

既にバッティング練習が始まっていて、心地よい乾いたバットのインパクト音が響いてくる。

いつものややのどかな時間のはずだったが、球場はこの日早くもいつもと違った堅い空気が張り詰めていた。

この日は東京ボールパークを本拠地とするティターンズの今シーズン最終戦であるというだけでなく、あの大打者シンゴの引退の日でもあった。

ティターンズで7年プレイし、5回の本塁打王と5回の首位打者、6回の打点王に輝いたシンゴは、ワシントン・フーリガンズに10年間在籍し、3回の本塁打王、4回の首位打者、そして3回の打点王を獲得し、日本に凱旋した(@wぷ

古巣であるティターンズがシンゴを獲得するのは既定路線とも言えたが、ティターンズがシンゴの年棒を払えるかと誰もが危ぶんだ。実際、ティターンズの親会社のテレビ局は多チャンネル化と地上波デジタル化による競争と設備投資のせいで経費が嵩み、とても金を回せる状態には無かった。シンゴがいた10年前とは異なり、チームの成績も低迷していた。
結局球団の親会社が新株を発行して年棒のための資金を捻出したというもっぱらの噂である。

かく言う俺はティターンズの去年のドラフトで入団し、打率.301、本塁打21本、打点72をあげて新人王になった青田勉という。シンゴは再入団してから2年目で、打率.241、本塁打14本、打点50を挙げた。シンゴは自らの体力の限界を認識し、引退を決意したわけだが、俺としてはシンゴから学ぶことは技術面、生活面を問わず多かった。

たとえば、「ベン、スウィングというのは、形じゃないねん。音なんや」
というアドバイスは耳にいつまでも残っている(@w荒


俺がスランプに喘いでいた8月の初め、広島カーズとの3連戦の最後の試合、1点差ビハインドで7回2死2塁3塁の好機にあっさり凡退し悄然とベンチに引き下がった後にシンゴはそのアドバイスをしてくれた。

俺の名前は「勉(つとむ)」だが、シンゴは俺のことを「ベン」と呼んだ。彼のフーリガンズでの同僚でもあり、親友でもあった選手にベン・コーエンというユダヤ系アメリカ人の内野手がいたが、俺を彼に比するつもりがあったかどうかはわからない。

ともかく、そのアドバイスは俺の心の奥深い処を直撃し、俺の何かが変わった。

9回表2死、レフト前ヒットを放ったシンゴを1塁に起き、俺は左打席から右翼席に逆転本塁打をかっ飛ばした。

その日は広島原爆投下の日だった。俺は広島の人々にすまなく思いながら、ダイアモンドを回った。

9月15日、ジャガーズとの第二戦にティターンズはベンチの野手を全てつぎ込み、最終的には好機にバッティングの良い投手の荻原を代打に送るほどの総力戦で臨んだが、武運拙く敗戦し、チームの優勝の望みが消えた。シンゴは黙ってロッカールームに消えた。翌日、俺はホテルでスポーツ新聞を見て仰天した。

曰く、「シンゴ引退」
俺は驚いてシンゴの部屋のドアを激しく叩いた。
ドアを開けてぬっと出てきたシンゴにぐちゃぐちゃになったスポーツ新聞を示し、声を荒げて記事の真偽を問いただした。

すると、シンゴは無精ひげを生やした顎を動かしながら、「ああ、そうや。本当や」と答えた。

俺は肩を落として「嘘だ・・・嘘でしょうシンゴさん」と魂の抜けた虚ろな人形のように何度もつぶやいた。それは目の前にいるシンゴに対する質問ではなく自分への暗示だった。

初めてプロ野球を見に行ったのは、12年前。ティターンズとジャガーズの試合だった。やや暑くなり始めた7月始めのナイターだった。俺は父に連れられて3塁側の席に座り、シンゴを見ていた。俺は試合前の打撃練習のときにベンチに戻ってきた今よりも少しスリムだったシンゴにサインをねだった。シンゴは一回莞爾と笑い、俺が渡したボールにサインしてくれた。

それは今でも俺の宝物で、実家のベッドの横に置いてある。その年にシンゴは大リーグに移るという噂が流れていた。その試合、シンゴは俺の目の前で2本のホームランを打ってくれた。

大リーグ移籍後も俺はシンゴを追っていた。小学校、中学校と野球部に籍を置き、高校では2年の春と3年の夏に甲子園に行くことができた。

3年の夏では3試合連続で1試合2本のホームランを放ち、プロのスカウトの目に留まった。チームは準決勝で稲月という名投手を抱える真原工業高校に敗れたが、稲月は決勝戦の最終回、味方の痛恨のエラーで真紅の大優勝旗を逃してしまった。

稲月はそのままジャガーズのドラフトに掛かったが、俺はプロには進まず大学に進学した。大学でも幸い良い成績を残すことができ、ティターンズのドラフト1位指名を受けた。

現在の東京ボールパークに目を移そう。
稲月が投球練習を始めている。
奴もシンゴを追ってきた一人だ。
ルーキーの年に13勝を挙げた稲月は日本代表に選ばれ、シンゴと共にワールドカップでプレイする機会に恵まれた。武(ウー)監督率いる日本代表は、苦戦しつつもシンゴの打棒と稲月のピッチングで勝ち進み、決勝でアメリカと対戦した。

当時大学生だった俺は日本チームを応援しつつも、そこにいられない悔しさと稲月に対する羨ましさでその場にいたたまれない思いもあった。

最初アメリカが4点を先取したとき、もう優勝は無いと日本列島全土が意気消沈したが、6回から登板した稲月がほぼパーフェクトのピッチングを見せた。8回に満塁とした日本は、死球による押し出しの後、4番のシンゴに打席が回ってきた。既にアメリカでの活躍によりシンゴの恐ろしさを知っているアメリカチームの監督ミッターマイヤーは満塁であるにも関わらず敬遠を決め、その指示に従って投手のアービンが山なりの球を放った。

大学の生協でたまたまカレーを食べながら俺はその試合を見ていたが、アービンが投げた敬遠のボールは、死んでいた。

当時の記事によると、アービンは本当のところシンゴと勝負したかったのだが、ベンチの指示で敬遠をしなければならなくなり、精神的に腐っていたという。

たとえ敬遠の球でも気合を入れなければそれは棒球である(@w荒

ボールは、シンゴが出すバットに引き寄せられるかのような軌道を辿り、インパクト後左翼場外の大ホームランとなった。

ジョンソン・ボールパークは熱狂と失望が肌(はだえ)刺す、栄光と悲劇の場となった。あるアメリカ人はその日を第二の9.11と呼び、また別のアメリカ人はジョンソン・ボールパークを第二のグラウンド・ゼロと呼んだ。アメリカのニュースはこの場面を生中継で流しており、シンゴがホームランを打った瞬間に全米で30人の老人がショック死し、40人の鬱病患者が自殺した。

日本は野球発祥の地アメリカで世界一となり、翌年から大リーグでワールドシリーズはアメリカシリーズに名前を変えた。

その時以後、大リーグで選手として素晴らしい活躍をしてきたシンゴに対するアメリカ国民の態度は微妙に変化した。長年の功績があるにも関わらず、フーリガンズが契約を更新しなかったのもこれが原因の一つとされている。

また契約不更新のより直接的な原因として挙げられるのがアッシュビーの疑惑の衝突事件である。ニューヨーク・ウォーリアーズのジョン・アッシュビー3塁手がシンゴと衝突した事件だ。アッシュビーはワールドカップにおけるアメリカチームの主将であり、シンゴによる屈辱のホームランは彼の瞼に焼き付いていたはずだ。

ビデオを見ると、どう見てもアッシュビーが故意にシンゴに衝突している。シンゴはこの事件で右脚を痛め、選手生命を短くした。今年引退することになったのも、結局はこの時のケガが原因だ。

俺はその事件以後、大リーグに行く気を無くした。

(注:シンゴの引退試合から2年後、大リーグに移った稲月はアッシュビーへの頭部死球により退場させられる)

おや、過去の経緯を振り返っている間に試合がいつの間にか始まっているようだ。

一回表、ジャガーズ三者凡退。
一回裏、稲月の速球とシュートの前に一番と二番が凡退。三番の三井は2-3まで粘った、かに見えた。だが、俺には分かった。稲月はわざとこのカウントまで投球を運んだのだ。

なぜか?
シンゴと一打席でも多く勝負をするためだ。
三井への第六球目は明らかなボールだったのを見て、俺はその思いを強くした。

シンゴがネクストバッターズサークルから立ち上がると、球場が篭ったような唸りを揚げ始めた。

シンゴはヘルメットをやや撫でながら打席に立つと、それは咆哮に変わった。

バッターには誰でも打撃に入るまでの儀式がある。自分の心を整えていくための仕来りというか、自分を落ち着かせるための決まった仕種があるのだ(@w荒

俺の場合は左打席に立ってからバットでベースの五角形の左上をぴったり三回叩く。右の掌を丸めて唇の前で息を貯める。それからバットの先を見つめて準備が終わる。

シンゴの場合は右打席に立ってから左手でバットを二回大きく回し、右肩をグリグリと回してから後ろに反り返る。ファンが20年見てきたお馴染の仕種だ。

稲月は切れ長の目をギラギラさせながら、第一球を振りかぶった。

ストレート。真ん中高めの剛速球で文句無しのストライクだ。俺はネクストバッターズサークルの中からでも、その球の生きの良さは感じられた。今日の稲月は絶好調だ。

第二球は外角低めにまたも直球。これもコースぎりぎりだがストライクだった。

シンゴは二球とも凝っと見送った。

俺はひょっとして稲月がシンゴに対して今日に限ってというか今日を最後に全て直球で勝負するのではないかと思っていた。

三球目。
シンゴは外角高めの速球に何とか随いていった。ライト方向へのファウル。

間違い無い。稲月は必殺のシュートを封印し、全て直球でシンゴを打ち取ろうとしている。だが、その直球は全力の剛速球であり、決して手抜きという種類のものではない。

二人の時間と距離が勝負の一点に向かって収縮していくのを俺は目の当たりにした。

稲月が第四球を振りかぶる。

腕が撓る(しなる)。顔の表情が歪み、黒いアンダーシャツが鞭のように振られ、その端にある掌からボールがシンゴの方へ伸びていく。

シンゴは、その球に手が出なかった。

一番好きなコースのはずだったのだが。

これが衰えというものだろうか。俺はふと寂しくなって、ヘルメットを外してそこらに置きっぱなしにし、そのまま守備についた。

二回表、ジャガーズは三者凡退。
二回裏。俺は稲月のシュートに全く手が出なかった。
三回表、試合が動いた。ジャガーズは三連打を集中させ、2点をもぎ取った。
三回裏は稲月がぴしゃりとティターンズ打線を抑え、序盤はジャガーズのペースで試合が進んだ。

四回表、ジャガーズ無得点。
四回裏、稲月は二番、三番を簡単に打ち取った。

シンゴが再びバッターボックスに立った。
球場全体が生き物のような叫び声を上げ、球界の至宝の最終試合における二度目の打席のお膳立てが出来上がった。

稲月が内角低めへ投じた渾身の剛速球は、シンゴの肘を畳んだスウィングに乗せられ、レフトへ飛んでいった。

ジャガーズの左翼手ウィルソンは、二、三歩ゆっくりと後退しただけでそれ以上ボールを追うことを止め、スタンドに入っていくボールを見送った。

まさにシンゴの全盛期そのもの、力と技の均衡が取れた芸術的バッティングが蘇ったといって良かった。

シンゴの日米通産第563号に、球場は蜂の巣を突付いた騒ぎとなった。万歳をする者たち、抱き合って喜ぶ者たち、泣き出す者たち・・・それだけではない。ついにファンが5人ほどフィールドに飛び出し、シンゴを追って走り出した。

警備員たちが彼らを捕まえようとしたときだった。

「今日だけは、ええやないですか」

シンゴの声に、警備員たちは歩みを止め、シンゴとファンたちがホームに着くのを見守った。

興奮するファンたちと握手したシンゴは、帽子を取って満場のファンに挨拶した。

シンゴの背番号45が、心なしか泣いているように感じた。

次の打者である俺は、稲月はあのえげつないシュートにまたもや全く手が出なかった。

五回表、ジャガーズは三者凡退。
五回裏、ティターンズは八番藤川が内野安打を放ったが、後続が続かず無得点に終わった。

六回表、ウィルソンがレフトスタンドへホームランを放ち、スコアは3対1となった。

六回裏、稲月は一番と二番をいとも簡単に打ち取った後、再び三番の三井に四球を与えた。

稲月がまたやりやがった、と俺は思った。だが、責める気にはならない。だから俺の顔はむしろ笑っていた。単に敵チームの投手の気まぐれなのでどうでもいいというのではなく、一人のプロ野球選手としても稲月のやり様は心憎いものがあった。ジャガーズのベンチにしても稲月の投球を全く非難している様子は無かったし、球場全体も同じ気持ちだった。

皆、共犯だった(@wぷ

稲月はシンゴに対して変化球は投げない。だが、投げる球は一つも手抜きのない150km/h台の剛速球ばかりだった。稲月はシンゴに力と力の勝負を挑んでいるのだ。

三振かホームラン。ファンも、俺たちもそれしか望んでいなかった。それはシンゴという大選手の引退試合にのみ許される、プロとプロとの真剣な「プレイ(遊び)」だった。

稲月が子供に戻ったような目をして真ん中高めにホップする剛速球を放ると、シンゴがそれを思いっきり空振りする。ヘルメットが吹っ飛び、シンゴの大きな躯が大きく回転して倒れこむ。

力と力の勝負に、球場は沸いた。

シンゴが、三球とも思い切り空振りして三振を喫した時、稲月の投じたボールの速度は、158km/hを記録した。

たとえ三振でも、シンゴが稲月の剛速球に対してこれだけの空振りを見せてくれればファンにとってそれはホームラン一本分に値しよう。俺もファンも納得し、満足し、興奮したシンゴの打席だった。

七回表一死。ジャガーズはヒットと四球で一塁二塁のチャンスを迎えたが、ダブルプレイでチャンスを逃した。

七回裏。俺は先頭打者だった。流石に稲月にやられっ放しというわけにはいかない。俺は稲月のえげつないシュートを捨てて、直球だけを狙うことにした。二球目のややボール気味の直球を、俺は上手く流し打ちし、一塁に身を置いた。しかし、後続打者が続かずティターンズは得点を挙げることはできなかった。

八回表。ジャガーズは無得点。
八回裏、稲月も踏ん張り三者凡退。

九回表、ジャガーズは再びウィルソンが大飛球を上げたが、俺が何とかフェンス際で補球し無得点に抑えた。

九回裏、先頭打者で今まで稲月にコケにされてきた三番ミツこと三井が意地を見せた。難しいシュートを上手く引っ張り、レフト前ヒットとした。

シンゴが打席に近づくと、球場は割れんばかりの歓声に包まれた。九回裏。3対1。シンゴがホームランを打てば同点である。

稲月はこの期に及んで逃げるような奴ではない。ジャガーズのベンチも全く動かない。エースの稲月を信頼しているし、この試合の意義を理解しているからだ。

プロとしての力と力の対決。この場面はそれ以外のものは存在するはずがない。

第一球。153km/hの剛速球がど真ん中に決まった。
シンゴはこれに手が出なかったが、それは余りにも良いコースで意外だったからに違いない。だが、何にせよ、ど真ん中だ。少し照れくさそうな、それでいて英気に満ちた視線をシンゴは稲月に向け、それを見た球場は「うぉおおおぉおおおおお!!!!」という野獣の咆哮にも似た歓声に包まれた。

稲月、ひょっとしてお前この打席はど真ん中しか投げないつもりなんじゃないか・・・稲月の初球を見て俺の心にそんな考えが浮かんだ。

その予想は正しかった。
次もど真ん中だった。しかも、第一球目にも勝るとも劣らない生きの良い剛速球である。
「舐めるな!」
右肩をピクリとさせたシンゴが声なくそう叫んだように思えた。
豪快なスウィング一閃、シンゴの打球は三塁手の左へ飛んだ。
しかし、ファウルラインぎりぎりでボールは地に落ちた。
塁審は一瞬フェアを宣告しようとしたかに見えた。
だが、彼の視線の先には、走り出しもせず、バッターボックスに仁王立ちするシンゴの燃えるような眼があった。
「ファウルだ!」
シンゴの眼は確かにそう言っていたのだろう。
「ファウル!」
塁審は、明らかにシンゴに威圧されてファウルを宣告した。

もはや、誰もその判断を否定する者は球場にはいなかった。ホームランか三振以外はもはや認められなかった。
はっきり言うと、既に皆少々狂っていた(@wぷ

稲月は第三球目を振りかぶった。160km/hの剛速球がストライクゾーンのど真ん中を目指して座標を切り結んでくる。
その球は、シンゴのバットに引き寄せられるかのような軌道を描いていた。主観的には、インパクトと同時に打球はレフトスタンド場外の方向に消えたが、それは大きくポールから逸れていた。

球場は失望のため息と同時に、喜びの歓声も含まれていたことは決して不思議ではない。もう一球、シンゴの打席を見られる。
もう一回、シンゴのスウィングが見られる。
それならば喜ぶしかないではないか?

さらにもう一球の怪しいファウルともう一球のレフトスタンドへの大ファウルをネクストバッターズサークルで見ながら、俺はこの時がずっと続いてくれまいかという戯けた願望を抱くに至った。

決着なんぞ別につかなくても構わない。ずっとこのまま二人が力と力の勝負を続けてくれれば、それでいい。

この瞬間、俺はプロ野球選手でも何でも無かった。スタンドのファンと同じ、一人の野球ファンであり、シンゴから一番近いところにいたシンゴファンだった。

いや、ひょっとして「シンゴから一番近いところにいた」というのは間違っているかもしれない。あのどう見ても怪しいファウルに何も言わない主審の佐藤や、客観的に見ればチームの大ピンチでしかないこの状況下、稲月にど真ん中の直球を投げ続けることを認めたキャッチャーの加納もこの勝負に魅せられ、シンゴのファンと化していたのかもしれなかった。

ジャガーズの選手たちもこの勝負を心から楽しんでいるようで、彼らの眼は俺たち選手がみないつかそうであった野球少年の眼に戻っていた。

もはや、敵も味方も、選手も観客も審判も無かった。

皆がシンゴと稲月の勝負の虜だった。

だが、その夢のような時間も終わりがやってきた。
稲月の剛速球がキャッチャーのミットに収まり、ヘルメットが再び吹っ飛び、シンゴは膝を地につけた。

人々のため息は泡(うたかた)のように大気に吸い込まれ、消えていった。
あれほど盛り上がった球場の空気が一瞬お通夜のようになったが、俺が打席に向かっていくにつれて再び沸騰し始めた。
そうだ。俺がホームランを打てば同点となり、もう一度シンゴの打席を見られるかもしれない。観客はそれに気づいたのである。
無論、俺の打席では稲月は直球勝負などしないだろう。
あのシュートを打ち崩さなければならないのだ。

素人がよく勘違いするが、プロの戦いというものは肉体の戦いというよりも大部分が心理戦だ。相手の心を読み、配球を当てることができない選手は一軍に残ることはできない。

俺は現在の稲月の心を読んでみた。

シンゴとの球史に残るほどの名勝負を終えた稲月の心は、エネルギーを使い果たし、その残量は現在ほぼカラのはずだ。
俺との勝負もほとんど上の空ではないだろうか。
俺は未だに興奮で宙を泳いでいるかのような稲月の視線を見てそう判断した。
奴はまだシンゴとの勝負の余韻に酔っている。

確かにこの試合、あのえげつないシュートに切り切り舞いさせられた俺の分は悪い。

しかし、今の稲月ならば付け入る隙は十分にある。
今回、俺は自分のバッティングをすることよりも、稲月を打ち崩すことに焦点を置くことにした。
これはどういうことか? 
まず、プロの打者は確固たる自分の打撃フォームをもっており、それが崩れなければ凡退してもそれを良しとする風潮がある。たとえ相手投手の投球に合わせてフォームを崩してヒットを打ったとしても、それでフォームが崩れれば後々不利となるからだ。

だが、俺はフォームの均斉性への欲求を捨てて、どのような形にせよ稲月の球にくらいつくことを優先することにした。

前に広島で打ったときのように、三番の「ミツ」こと三井や四番のシンゴが言ったように、形はどうあろうが良い音のスウィングだけに集中することにしたのだ。

「後は頼む」
ベンチに下がるシンゴの丸坊主頭からそんな声をすれ違い様に聞き、俺は打席に立った。
第一球目は内角低めのシュートと俺は読んだ。
稲月は未だに空を飛んでいるかのような熱に浮かされた目で第一球目を振りかぶった。

ボールは俺の狙い通りの軌跡を辿った。
俺は内角のボールを肘で畳んで完璧に打つ技術は持っていないので、いつものフォームを崩し、足の位置を大きくずらして内角に思い切り空間を作った。

そのとき、稲月の表情は間違いなく一瞬で変わった。
下から引っぱたくようにインパクトを加えられたボールは、センターバックスクリーンに一直線に突き刺さった。
同点である。

球場の興奮は再び最高潮に達した。
だが、俺がダイアモンドを回り、ホームベースを踏んでベンチに帰ってチームメイトのハイタッチを受けた後、不思議な光景が現出していた。

何と、ティターンズのファンたちが、六番の住吉に対して「三振!三振!!」と叫び始めたのだ。
その叫びは、最初は小さいものだったが、段々と大きくなり、ジャガーズのファンも加わって球場全体を覆った。

ファンはシンゴの打席をもう一度見たいのだ。
この回でのサヨナラ勝ちなど、誰も全く望んでいないのである。
「狂ってる・・・」
俺はそう思ったが、実のところ俺も全く同じ気持ちだったのはここだけの話だ。
このときの住吉の何ともいえない表情を、俺は一生忘れない。

結局住吉は空気を読んで、四球目を派手に空振りした。
七番の曽根も結局空振り三振に終わった。

十回の表と裏は、両チームとも三者凡退、そして十一回表も同じ結果に終わったのは、全ての選手、監督、コーチが納得づくであったせいかどうか俺にはわからないことにしておく。

十一回裏、ややスタミナの切れ始めた稲月はそれでも二番と三番を何とか打ち取った。
シンゴが、ゆっくりと打席に向かっていく。
シンゴの名前がウグイス嬢に呼ばれているはずだったが、あたかもシンゴの一歩一歩ごとに地響きのような歓声が沸騰し、ほとんど聞き取れない。
リーグのルールによると、以後延長戦は無い。
本当に最後の最後の打席だ。

ジャガーズの小林監督が小走りにマウンドに近づいたとき、投手交代と思ったティターンズのファンのみならず、ジャガーズのファンからもブーイングが沸いた。

シンゴを打ち取るにせよ、またシンゴに打たれるにせよ、シンゴのプロ野球選手としての最期を看取る投手は稲月以外にはいないというのが敵味方を問わず一致した思いだった。

シンゴとの魂を震わせる対決を見せてくれるのは、奴しかいない。
俺も小林監督の振る舞いに疑問を覚えた一人だった。

だが、小林監督は別に稲月をマウンドから降ろすためにやってきたわけではなさそうだった。彼も1シーズンに1試合くらいは、勝ち負けだの小手先の打算だのを度外視したゲームがあってもいいことは理解していたのだ。

彼は単に稲月を激励するために出てきただけだった。
疲れが見える稲月に対して、逃げずに堂々とシンゴに立ち向かえと言葉を掛けたということが後日明らかになっている。

投球に入る前、稲月は深呼吸を二、三度した後、帽子をとって深々とシンゴに対してお辞儀をした。その姿に、ティターンズのファンもジャガーズのファンも深い感動を覚えた。

すると、驚くべきことにシンゴもヘルメットを取って稲月、キャッチャー、審判、観客にお辞儀をした。

球場はさらに深い感動に包まれた。

一つの時代が終わろうとしている。

人々はシンゴの過去の活躍に思いを馳せ、この偉大な打者がバットを置く刻が来たことを心の深い処で思い知った。
日本で、アメリカで、記録にも記憶にも残るプレイを見せてきた大打者の去り行く姿を、人々は心に刻もうと目を見開いた。

第一球。146km/hの直球が外角低めに決まった。
確かに速い。
だが、稲月の球威は明らかに落ちていた。

第二球。シンゴは外角高めのストレートを捉えた。
インパクトの瞬間、俺には時間が止まったように思えた。

一瞬、意識が空白となった後、
気づいてみると打球は右翼席中段に飛び込み、サヨナラホームランとなっていた。


球場はこの予定調和とも言えるような結果に全く不満を覚えることなく、怒号のような歓声と興奮に包まれた。
だが・・・・シンゴは打席から動かなかった。
やがて、
「ベン、こっちこいや!」
とシンゴが場内の歓声に掻き消されないよう大きな声で俺を呼んだ。
「肩貸してくれや・・・歩けへん」

無理もない。シンゴの体は既にボロボロだったのだ。
最後の力を振り絞ってホームランを打った瞬間、彼の脚はついに使い物にならなくなった。
俺はシンゴに肩を貸しながら、一緒にダイアモンドを回り、ホームインした。
チーム全員に祝福されたシンゴは、何度も胴上げされ球場は興奮の中敵味方関係無く一体となった。

その後、引退式とシンゴの引退宣言があったはずだが、俺は正直よく覚えていない。

シンゴと一緒にベースを回っていたとき、俺の頭は興奮と喜びで真っ白になっていたからだ。


シンゴは、今も俺たちと一緒に戦っている。
監督として、俺たちの後ろに立っているのだ(@w荒




posted by 東京kitty at 18:23| 東京 ☔| Comment(4) | シンゴ45 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月01日

白球、落つる果て

野球のバッティングというのは、
高校物理の実験のような気がずっとしていた。

シンゴさんの打球が右翼席へ鮮やかな放物線を描いていく。
僕はネクストバッターズサークルの白い円の中で
その打球の行く先をずっと見つめていた。

観客の歓声の中でも、
本当にいいスウィングで打たれた打球は
空気を切るようなびゅん、という音が
聞こえるような気がするのだ。
それはスウィングの音もそうだ。

僕たちは、スウィングの良し悪しはフォームではなく音で決める。

前の前の監督が警備会社の宣伝をしているボードに
ボールがぶつかり、跳ね返って右翼の観客席で
お客さんたちがボールを巡って言い争いをしている。
少し年配の黄色い服が、若い青い服に何か叫んでいる。
ああ、係員が止めに入った。

ボールは、どちらのものになるんだろう?

僕はシンゴさんを迎えるために立ち上がった。

すると、センターの発光掲示板にニュースが流れた。
デストロイヤーズがカーズを逆転した。

つまり、今シーズンの
僕たちのチームの自力優勝が危なくなったということだ。

そのニュースを見て、
三塁ベースからこちらに向かってくる
シンゴさんは一瞬で人相を変えた。

人のよい、ちょっと小学生みたいな間の抜けた笑い顔。
みんながほんの少しだけ垣間見ることができた
番長の笑顔が、また引き締まった怖い顔に変わった。

僕はシンゴさんに
「ナイスバッティング」と声を掛けたが、
シンゴさんはニコリともしなかった。

フィールドスタッフの女の子から球団のオレンジ色の
マスコットを受け取ったシンゴさんは、
それを黙ってスタンドに投げた。

マスコットは観客の頭や手に何度か跳ね返って、
座席の間の通路に落ちた。
ビールの売り子の甲高い声で「いかあっすかああ」
の呼び声が、何故か僕の耳に捉えられていた。


僕たち選手は、チームの優勝のためだけに1年を過ごしている。
たとえ一人一人の選手が基本的には自営業で、自分の都合が何より優先するとしても、建前はチームの優勝を第一としている。だが、それが建前だけではない選手も多い。
シンゴさんは少なくともそういう選手だ。


僕はバッターボックスに立った。

全部忘れろ。全部。
この打席。この球だけ考えればいい。
ボール。投手が投げる白いボールだけ考える。

ジャガーズの林投手がサインに頷く。
僕は彼の過去の配球を思い出し、今日の試合の配球データで
それを微妙に修正をしながら第一球を待つ。

シンゴさんの見事なホームランと、
チームの自力優勝消滅の可能性という心を奪われる事態が
二つも連続したためだろう。
僕のことを話すのを忘れていた。

大学から東京ティターンズに入って5年目。
ショートを守っている。
年棒は・・・

おっと、
余計なことをしているから第一球を見逃してしまった。
後にしよう。
大体僕は自分のことを語ることは小さいころから苦手だ。
他の人がするような自慢もあまりしたことがない。

僕は何なんだろう。
とりあえず今は、来たボールを打つ者でいい。
人の定義なんて結局はたわ言だ。
このセリフは高校の担任が言っていた言葉の中で
唯一気に入っているものだ。
第一球はカーブ。
6年目で高校のとき親が死んだ日に甲子園の夏の大会で
決勝ホームランを打った加納さんのミットに
ちょっと陰性の音を立てて吸い込まれたカーブ。
外角低めを上手くかすってストライク。
僕の左ひざはピクリとも動かなかった。
好きなコースだったのだが。

第一球はカーブ。
これはベンチで聞いたスコアラーのデータとも一致している。
ただ、シンゴさんのときは胸元ストレートから入ってきた。
僕が好きなコースだともわかっているはずだ。
失投?

林投手の動揺を計算に入れるべきだろう。
林投手の不機嫌そうな首振りが続く。
まだ二球目なのに。
僕はちらりとキャッチャーの加納さんを見る。
ふと視線が合って、気まずい思いがして、
僕は再び林投手の方を見た。
「サイン見たらあかんよミツ」
加納さんがぼそりと言うのが頭の後ろで聞こえる。
僕は、歓声の中で自分に必要な音や声が拾える
人の認識を不思議に思う。

林投手が振りかぶっている。
僕は打撃コーチの栗田さんの言葉を思い出す。
「林の背番号が見えたらチェンジアップ」
そう、林投手の癖は見破られている。
投球の初期座標(x(0),y(0),z(0))が、時間の推移によって
座標を変えて僕に近づいてくる。
時間を媒介変数にした関数が、それもほぼ直線に近い関数が、
座標系を回転させれば導関数がゼロに近づく関数が、
僕という点から発した直線と交点を結ぼうとして
値を切り結んでくる。

僕は立てていたバットを軽く前に振り出す。
目と腰と手首がボールを捉えている。
もしかしたら、コース的にはボールだったかもしれない。
「テイクバックは大きく」
なぜか小学校のときのクラブチームのコーチの声が耳に残ってる。
あの暑い夏のセミの音も伴奏になっている。

バットがボールを捉えた音は、なぜか聞こえなかった。
ボールを捉えた衝撃が、なぜか右手の土星丘と金星丘で
鮮明に触覚となって形になっている。

ボールは、シンゴさんのと同じくライトスタンドに消えた。

posted by 東京kitty at 20:40| 東京 ☁| Comment(2) | 白球、落つる果て(@w荒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年04月18日

とある事件(@w荒

川崎市在住のA子(15歳、都内某女子中3年)が毎日の通学時に
電車の中で奇妙な視線を感じたのはここ1ヶ月ばかりのことだった。
その視線の先には、30代くらいの女性がいた。
その女性は、2日か3日に一度彼女の近くに立ち、
彼女のことをちらちらと見ていた。
最初は何のことやらわからず当惑していた彼女は、
やがて恐怖を感じるようになった。
メッセ友達で何度か彼女と会ったこともある
2chの某有名固定(38歳, 東大卒)は相談を受け、
事態の最終的解決に乗り出すこととなった(@w荒

メッセでの会話:
「男ならわかるんだけどさ、能子は可愛いし(@w荒」
某有名固定は沈着な面持ちで、メッセハンドル名で少女のことを
指称した。
「うう・・・恐いよ。レズの人かな?」
「学校は女子校だったよね。誰かからそういう誘いを受けたことは
あるのかい?(@w荒
「え?ないよ?」
「そうか(@w荒

翌日、某有名固定は川崎駅から少女と少し離れたところからその女を
観察することとした(@w荒
だが、翌日その女は現れなかった。
結局骨折りになったわけだが、
放課後某有名固定は少女と会い、
デートした後少女を川崎駅へ送った(@w荒

その翌日も某有名固定は川崎からの電車を待って、
少女から離れたところに立った。
すると、少女が右耳に3度手を当て、
女がいることを示す合図を行った。
某有名固定は位置を変えて該当すると思われる人物を
ホームの中で探した。

いた。少女の1m後ろに立っている、身長160cmくらいの
中肉でメガネを掛けている女性だ。
電車が来た。
某有名固定は少女が並んでいるドアの方へ身を滑らせた。

確かに、その女は少女をチラチラと見ていた。
だが、自分が誰かに見られているとは丸で気付いていない
ようだった。
某有名固定は現在太陽系内で最も優れた知力を総動員して
その女を観察していた(@w荒

「ふーん(@w荒
やがて、某有名固定はその女に認められる
ある著しい事実を認識して、再び少女を見た。
「根が深そうだな(@w荒

少女は渋谷で降りた。
すると、その女も降りたが、少女の跡は追わなかった。
これも少女から聞いた通りだ。
某有名固定は、その女がどこに行くか追跡することにした(@w荒

女は、何と同じ路線の逆の方向へ向かう電車に乗った。
某有名固定は、上りとは逆にガラガラの下りの電車に
女を追って乗車した(@w荒

「どこかに行く途中で彼女に目をつけた、というわけではなく、
 意図的に彼女を追っていたということだな(@w荒

やがて、電車はとある駅に止まり、女もそこで降りた。
女は、駅から5分くらい歩いたコンビニに入っていった。
バイトと挨拶をしている。
どうやらここで働いているらしい(@w荒 

某有名固定は、2時間ごとにそのコンビニを
遠くから監視した。女は、確かにそのコンビニの制服を
着て業務を遂行していた。

午後4時になって、女の姿が消えた。
20分程度経過して、女が私服姿で店から出てきた。
某有名固定は更に彼女を追跡した(@w荒
女は駅の近くのスーパーで食料品などを買い込み、
店を出た。
7分程度歩いて、女は築20年程度の古びた3階建てのアパートに
到達した。

「ここがヤサだな(@w荒
某有名固定は、女が吸い込まれていった
2階のとある部屋の番号を確認し、
1階にある郵便受けを見た。
「F山か(@w荒
苗字しか書いていない(@w荒

「F山という者に知り合いはいるかね(@w荒
「えっ・・・知らないよ?」
「・・・そうか(@w荒
メッセでそれをA子から聞いた後、某有名固定は考えた。
ここで言うべきか否か。
確定的証拠が入手された後でも遅くないのではないか。
だが、やはり言うべきだと思った。
なぜならば、現在女の意図はわからないが、突然不可思議な行動に
出ている以上、少女の側で情報を集めるためには知らせておくべき
ことと考えたからだ(@w荒

「結論から言おう。あの女はF山という名で、Bにあるコンビニに勤め、
 近くのアパートに住んでいる。彼女の耳、アゴ、頬骨の特徴は、
君のそれと酷似する(@w荒
 特に耳はそっくりだ(@w荒
「えっ」

「DNA検査をしなければ確たることは言えないが、
 外形的形質から判断して君とあの女は近親者だ(@w荒
「そんな・・・」
「親御さんに確認するかね。それとも、どうするかね(@w荒
この期に及んで、某有名固定は少女に決定権を与えた。
某有名固定の優秀な頭脳には、事態の概要がほぼ推測できていたが、
ここでそれに言及する必要はまだないと考えた。
少女にも事態の解明に努力させることによって、あり得る結果による
衝撃を希薄化する可能性もないわけではなかったからだ(@w荒

「・・・どうしよう。まだ知らせたくない」
おやおや(@w荒
少女も何らかの予感を得たのだろうか。
某有名固定は少女に問うた。
「ではもう少しヲレが調べてもいいのかね(@w荒
「・・・うん、お願い」
「君のような可愛い子に頼まれて断るバカな男はいないよ(@w荒
「ふふww

某有名固定は更に調査を進めた。
女のアパートの郵便受けからこぼれていた手紙から
女の名前を突き止め、
その手紙の送信元の住所から送信者の電話番号を調べ、
郵便局の職員を装って電話し、
宛名が水に濡れて滲んで読めないと言って
宛先の女の電話番号を聞き出した(@w荒

某有名固定は、市役所に行って書類を請求し、
それを見て小さなため息をついた。
予感が的中したことに対する、
安堵感と失望感のない交ぜとなった感情がそうさせたのだ。

その日、某有名固定は更にとある人物と会った。

「久しぶりだね(@w荒
「先輩もお元気そうで何よりです」
高速道路が蛇のようにインターチェンジで交錯し、
道を照らす灯が海の方までどこまでも続いている。
某有名固定は、
とある後輩の青年実業家が買収を試みた放送局の近くの
巨大な橋の近くに設けられている避難場所に
一旦車を留めた。
「これがお話の資料です」
「うん(@w荒
「その・・・コピーは・・・」
「ああ、わかっている。一回見れば全部覚えるよ(@w荒

某有名固定は、
車内灯をつけてから茶封筒の中の書類を取り出し、
閲覧し始めた(@w荒

翌日、某有名固定は放課後少女を伴って電車に乗り
女の住む駅で降りた。
某有名固定と少女は並んで坂を黙って歩いた。
某有名固定は、少女の堅い表情を見て声を掛ける術を持たなかった。
昨日真実の一端を明かした後、電話の向こうで少女は泣いた。
だが、未だ両親にこのことは話していないという。

少女は、秘密を持つことで大人になろうとしているかのようだった。
やがて両親も本当のことを言うときが来るかもしれない。
だが、その時は既に少女は世界の秘密を知っているのだ(@w荒

女のアパートがもうすぐだ。
だが(@w荒

突然、次の辻から女が現れた。
買い物か何かするつもりだったのだろうか。
某有名固定と少女は、その意外な出会いに驚いたが、
それよりも驚いたのは女の方だった。

女は、恐怖と驚きが無い混ぜになった表情を見せた。
そして、慌てて振り返り走り始めた。
「おかあさん!!」
少女が叫んだのとそれは同時に起きた。

女が突然あらぬ方向に走り出したすぐ後、よこの辻から
自動車が飛び出してきた。
女がいきなり飛び出してきたので、避けることもできなかったのだろう。
車は女を跳ね飛ばして、女は物理学の法則通り飛んでいき、
コンクリの壁に衝突した(@w荒

「おかあさん!!」
少女が駆け寄った。

だが、脳天から血を流す女の息は既に絶えていた(@w荒

女が、同棲していた男の暴力に耐えかねて
思わず手を出し、
男が打ち所が悪く死んでしまったのは
今から15年も前のことで、女が19歳のころの話だった。
女は裁判を受けて有罪となり、刑務所に入ったが、
妊娠を気付いたのはもう3ヶ月を過ぎてからのことだった。
結局女は獄中で子供を生んだ。
彼女は子供を育てることができず、
子供は親戚を通じて里子に出された。

女がA子のことを気付いたのは、元々は同じ電車に
乗り合わせていたからかもしれなかったし、
親戚に聞いたからかもしれなかったが、
今ではその原因はわからないし、
わかっても大して意味はないだろう(@w荒

それから、1週間が過ぎた。
結局、少女はそのことを何一つ親には言っていないようだった。
少女は、秘密を飲み込むことで大人になることを
選んだのだ(@w荒

某有名固定は、手にある紙切れを握り、
土曜日に少女と待ち合わせした。
「やあ(@w荒
少女は、悄然とした微笑みを浮かべた。
しかし、彼女はこの秘密を栄養にして、
何か大人の影を帯びたかのようだった(@w荒

「結局、言わなかったんだって?(@w荒
「うん・・・」
「いつかご両親が秘密を話したとき、どうするんだい(@w荒
「・・・えっ、うそっ!!!とか言って、せいぜい驚いて悲しむ
 ふりをするわ。それが私にとって唯一できることだと思う」
秘密を持つ重さと苦しさの反面、秘密を保つ者としての優越と満足感を
享受する道を選んだわけだ(@w荒
「そうか・・・それがいいだろうね(@w荒
 某有名固定は、紙切れを出した。
「何だかわかるかい(@w荒
 少女は紙切れを取った。
「こ・・・航空券?」
「ああ、そうだ。沖縄行きのね(@w荒
「これは・・・何なの?」

「ヲレはね、君に言ってなかったことがあるんだ(@w荒
「・・・何?」
 少女は某有名固定を見た。
「英語の場合と違って、日本語は複数形に関して極めてルーズなんだが、
 そう思わないかね(@w荒
「え?」
「はっきり言おう。君は一人で生まれてきたわけではない(@w荒
「うそ!双子のきょうだいがいるの?」
「違うな(@w荒
「え?」
「3つ子なんだよ、君は(@wぷ

「君の・・・姉だか妹だかどちらかわからないが、ともかくきょうだいは
 北海道と沖縄にいる(@w荒
「遠いね・・・」
「そうだ(@w荒
 だから、明日は朝一番の飛行機で2人で沖縄に行こう。
 幸い、住んでいる場所はわかっているんだ。
 来週に北海道に行けばいい(@w荒

少女の閉ざされてしまった過去が、勢いよく開き始めた。
「うん!!」
少女は、笑いながら泣き、泣きながら笑った。
某有名固定は少女の唇を自分の唇で覆った(@w荒


-------------------完-------------------------

これはフィクションです(@w荒



posted by 東京kitty at 08:05| 東京 ☁| Comment(5) | とある事件(@w荒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月15日

NEVADA(@w荒 第4話 羽ばたく、死

第4話 羽ばたく、死

第1章 ソウル

統一朝鮮の首都ソウルは、
釜山への核攻撃で騒然とした空気に包まれた。
地球連邦は統一朝鮮に対して、ソーカ支援の停止、
佐世保から強奪された新型機動兵器の返還等を要求したが、
統一朝鮮政府はこれを突っぱね、
逆に釜山壊滅についての謝罪と賠償を要求した。
ここにおいて地球連邦軍沖縄基地、バイカル湖基地から
大規模な侵攻部隊が送られることとなった。

ソウルの沖に遊弋する第4遊撃艦隊と第11艦隊。
戦艦オオクボもその中にいた。
「アオイが見つかったって?!!」
艦橋にエリカが上がって来た。
「ああ」
ブッシュはスクリーンに画像を映させた。
「今届いた、情報部からの情報だ。ソウルのUSS(都市監視システム=Urban Supervision System)に侵入して君の友達の顔の3次元画像をキーに検索したら、見つかったよ」
それはソウルの東大門(トンデムン)の脇を走る道路に設置されたカメラから撮られた画像だった。アオイはエリカと別れたときの服装のまま、トラックの助手席に座っていた。
「恐らく、このトラックに積まれているのがCoolだろう。画像を追跡したところ、トラックはマスドライブシステムの方に向かっている」
ブッシュは言った。
「じゃあ、あたし出撃するよ!!」
「だめだ」
小泉艦長が冷たく言った。
「なんで!!」
エリカは食ってかかった。
「…ソウルにも核を撃つからさ」
ブッシュが言った。
「えっ…」
エリカは釜山で見たあの原子の火を思い出した。
「いつ、核を撃つの?」
「少尉、それは最高軍事機密だ」
小泉艦長が窘めた(たしなめた)が、ブッシュは右手を挙げて小泉の発言を押し止めた。
「あと1時間後さ」
「なら行くよ!!作戦を終わらせるには十分よ!!Cool、壊しちゃっていいんでしょ?」
「核を撃てばそれで終わりだ。わざわざNEVADAを出すこともない」
小泉艦長が苦々しげに言った。だが、それを聞いてエリカは切れた。
「あのね、ソウルのマスドライブシステムでCoolに宇宙に出られるのが怖いからわざわざここまで追ってきたんでしょ? 1時間もあれば打ち上げは余裕じゃん!ばっかみたい」
「マスドライブシステムはソウル郊外にある。核の直撃はないよ」
「だったら尚更でしょ。あたし、出撃するから」
「そんなことをお前の好きにできると思っているのか!!」
小泉艦長が激しい口調で言った。
だが、そこでまたもやブッシュが右手を挙げて小泉艦長の発言を押し止めた。
「わかった…だが、護衛はつけられない。データは持って帰ってくれたまえ。」
「うん」
エリカは頷いた。
「チョンの軍隊なんてあたし一人で十分よ」

NEVADAはシューティング・カタパルトに接着していた。エリカは各スイッチを押して最終点検をしていた。
「エリカ」
モニターのウィンドウが開いて、ブッシュが顔を表わした。
「なに」
「予め言っておくが、マスドライブシステムは壊しちゃダメだよ」
「わかった」
前方の発進許可ランプが青く点った。
「NEVADA、エリカいくよっ!!」
NEVADAは再び青い空の中の点になった。


第2章 準同型写像

島々を切り裂くようにして飛んだNEVADAは、ソウルの都心部に到達した。
「お遊びもしてみたいんだけど、時間に限りがあるんだから無理かあ」
思う存分殺戮遊戯を楽しむ時間が無いことにエリカは舌打ちをしたが、
「さっき見た東大門(トンデムン)くらい壊しとく?」
と思った。意思解釈システムはソウル市街地図から東大門にロックオンし、背中のポッドから発射されたミサイルが朝鮮の王朝時代からのシンボルを粉々にする様を戦術ウィンドウから見たエリカはちらりと微笑んだ。
「さて、アオイ…待ってなよ…」
そう思った瞬間だった。
「ロックオンされてる??」
レーザーによるミサイルの照準がNEVADAに向かっていることをエリカは認識した
「真下??」
エリカは直下のビル街の画像ウィンドウを見た。
統一朝鮮の主力機動兵器であるグエムルがランチャーから対空ミサイルを発射した。
「ちきしょう、直前までエンジン切ってたのね!!」
道理でレーダーに映らないはずだ。
NEVADAはミサイルを避け切れず、ビル街に墜落した。
無論、NEVADAの装甲ではこれくらいは何のダメージもない。
「ちっきっしょおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
エリカはビームサーベルを肩のバーニアランドセルから引き抜いて、キムチに向かっていった。
「邪魔なんだよこのキムチ野郎!!!!」
一閃、グエムルは真っ二つになって大破した。
「ふん」
エリカは腹立ち紛れに周りのビルにビームライフルを乱射し、辺りは破壊と叫喚の渦となった。何百人もの朝鮮人たちが直撃を受け、ビルの下敷きとなり、吹き飛ばされて死んだ。
殺戮と死からできあがった自分の「芸術作品」を尻目にエリカが飛び立とうとしたその時だった。

真っ二つにされたグエムルの右腕の脇に人影を認めた。

照準・拡大。
エリカの意識言語がその存在の明晰化を希求してNEVADAはそれに応える。
そこにあったのは、エリカと同じくらいの年齢の2人の少女がうずくまっている姿だった。
2人の少女は恐怖に満ちた表情で黒い機動兵器を見上げていた。
だが。
片方の少女が、決然と立ち上がって両手を広げた。
顔には恐怖と勇気と怒りの混合物が浮かび、NEVADAの戦術ウィンドウには少女の表情が大映しにされた。何か韓国語で叫んでいる。
何て言ってるの?
エリカがそう思うと、戦術ウィンドウに日本語の翻訳文が流れた。
「…たしたちの国を滅茶苦茶にしやがって!! お父様とお母様を殺しやがって!! でも私のともだちだけには手を出させない!!」
エリカは状況を瞬時に理解した。
そこには、彼女が佐世保で失ったものがあった。
愛、友情。どう呼んでもよい、世界への信頼と連帯の手がかり。自分の命を賭けても守ることができる、何か。
友達を庇ってNEVADAに立ちふさがる少女。
その背後に広がる彼女の想いが、エリカが佐世保で刻印された喪失感をひどく刺激した。
「ちょ・・」
 エリカは憎悪と怒りで顔を歪めた。
「チョンの分際で…」
この少女は、世界を信じている。父母を失いながらも、ともだちという最後のよりどころを持っている。それを守るために、命をも顧みずエリカの前に立ちふさがっている。
エリカの心の中に残虐と憎悪が一瞬で充満した。
だが、どうしても引き金を引けない。
彼女が封印した過去の世界からの呼び返しに、エリカはまだ気付いていなかった。
戦術ウィンドウに、少女の発言と共に新しい翻訳文が流れる。
「ソニン、逃げて!!私はいいから!!早く!!」
立ちふさがる少女はうずくまる少女に声を掛けた。
うずくまっていた少女は泣きながら立ち上がり、後方へ走り出した。
そのとき、心の中に行き場を失って押し合い圧し合いしていた残虐と憎悪がその表現の機会を把捉し、エリカの眼は輝いた。
「チャーンス!!」
NEVADAのバルカン砲が数百発放たれ、逃げ出した少女はまるでダンスを踊るかのようにして、その肉体を弾丸に切り刻まれた。
「ぎゃははははは!!!!!!!!!!!ざまぁあ!!チョンが死んでるよ!!」
エリカは大声で笑った。
「ソニン!!!」
両手を上げて立ちふさがっていた少女は、庇っていた少女のもはや原型を止めない死骸の方に大声を上げて走り寄った。
「ソニーン!!!」
泣きながらその死骸の破片を抱きしめる。

NEVADAは、すかさずその少女を手で握り、顔のカメラの前に運んでいった。
「な、何をするの!!! 離せ!!!!」
「一番信じていたものを失った気分はどうよ? はん、あんたが守っていたともだちはあんたを置いて逃げてったじゃん!!」
相手に全く通じてないのを知りながらも、エリカはNEVADAの手の中でカメラを通して自分を睨みつける少女に叫んだ。
「もういい、あんた邪魔だから死にな!!!!」
ぷち、という音がした。骨と内臓が潰れていく。NEVADAの手のひらの中にいた少女は絶命した。エリカはその音と、自分の手にフィードバックされた少女の死の感覚を心行くまで味わった。
はずだった。
まだ何かが足りない。少女が手を広げて立ちふさがった映像の衝撃が、まだエリカの精神を侵蝕していた。
それをふりはらうかのように、眼、鼻、口、耳から血やら骨やら内臓やらが飛び出た少女の死骸を、エリカは汚いものようにビルの側面に投げつけた。ぴちゃりっ、という音がして、ビルの壁に新しい芸術が少女の血と肉と骨で刻印された。エリカは、右手を顔にこすりつけた。その動きはフィードバックされ、血だらけのNEVADAの右手が、やはりその顔部に血を擦り付けた。
「さて…お化粧もしたし」
 エリカは心の動揺を血と死で形成された新しい残虐な芸術形式で整調したはずだった。だが、心のどこかにある綻び(ほころび)を通して封印した世界からのすきま風が漏れてくるのをエリカは感じていた。エリカは、次の行動の中に自分自身を溶かし込み流し込むことでそれを忘れようとした。
NEVADAは上昇した。ソウル宇宙空港へ。アオイとの最後のデートをするために。


第3章 光る闇を背に

天まで届くかに見える、宇宙船の巨大な加速射出カタパルトが見えてきた。
「あれね…」
マスドライブシステム。あのどこかに、Coolとアオイがいる。
すると、モニターに敵機動兵器のグエムルが10機ばかり映った。
どうしても通さない心算(つもり)のようだ。
「ち」
エリカは10機を意識し、意思解釈システムが直ちに連動して背中のポッドからミサイルが発射された。2機撃墜。
「くっ、8機も取り逃がした!!!」
 さきほどの衝撃がまだエリカの心には蟠って(わだかまって)いた。
ともだちを助けるために立ちふさがった少女。そして泣きながら逃げ出した少女。
あれ…あたしとアオイだ!!
こころのどこかで次第に大きな声で叫ぶ過去の世界との心の共振を、エリカは止めることができない。エリカとアオイの過去を写像したかのような情景によって、エリカの凝り固まった氷のような憎悪と残忍さは水蒸気をあげながら所々溶けつつあるかのようだった。
そんなことを思っているから。
グエムルの接近に対処が遅れた。
「しまった!!」
ビームライフルから放たれたビームの雨が横殴りに降ってくる。回転、離脱、照準、発射、離脱。8機のうち、1機が燃料に引火した紫色の火をあげながら宇宙空港の付属施設に落下した。
「やばい…」
このままではやられる。エリカの残忍と憎悪の冷たい炎が消えかかっていた。
「アオイ…。」
エリカの心理的情景の中で、さきほどのかばっていた少女は自分に、そしてかばわれていた少女はアオイに変わっていた。
このままでは、追い込まれる・・・。アオイのところに行く前に。
「どっちにしても…あんたにあわないと何も始まらないし、何も終わらないんだよ!!!」
そう思うと、エリカの体に再びアドレナリンが分泌されはじめた。
「てめぇえら邪魔なんだよ!!!!!!!!!!」
 並列オートロックオン、ポッドからミサイル射出、ビームライフル連続発射。
あっという間に5機が撃墜された。
「ばーか!!!」

マスドライブシステムの発射待機ランプで、アオイは上官に食ってかかっていた。
「中佐殿!!私も行かせてください!!」
「だめだ」
「どうしてですか!!」
「Coolをここまで運ぶためにどれほどの犠牲が払われたと思っているんだ。お前はここにいて発射を待っていろ。またグエムルが10機ばかり上がって行く」
「そんな…NEVADAにグエムルが何機かかって行っても勝てっこありません。性能が全く違うんですよ? NEVADAに何とか対抗できるのは姉妹機のCoolだけです!!それにマスドライブシステムを破壊されたら、宇宙(そら)には上がれないんです!!そうしたら、そちらの方が元も子もないじゃないですか!!」
それを聞くと、中佐の顔がこわばった。
「そんなことはさせない!!守備隊全員を玉砕させてでもお前とCoolは宇宙(そら)に送る!!」
「そんな!!私そんなにまでして宇宙(そら)になんて行きたくありません!!」
「甘ったれるな!!」
中佐がアオイの頬を張った。
「おとうさん…」
「CoolとNEVADAには、富士山で発見された超古代文明の技術が使われている…何が出てくるかわからない、恐ろしいものなんだ。そんなものを地球連邦に独占させておくわけにはいかないんだ!!」
「えっ…」
「さあ、行け。行くんだ!!」
中佐は、兵士たちに目配せした。兵士たちは、アオイを連れてシャトルの方へ向かった。
「おとうさん!!おとうさあん!!!!」
引きずられるようにして部屋を出たアオイの声が、どこまでも中佐の耳朶に焼きついていた。
「さて、私も行くか」
中佐は、格納庫に立つ黄色と黒で塗装されたモビルスーツ、ティグレ(虎)を見た。

「18機目!!!」
グエムルの腹のコックピットにビームサーベルを貫通させて、エリカは叫んだ。
背後の敵を感じる。
「おせえんだよ!!!!!!!!」
2本目のビームサーベルを肩のバーニアランドセルから抜いて、袈裟懸けに切り下す。
「19!!!」
アラームが鳴る前に、脳内で敵の動きをトレースしていたエリカは緑色の流線型のシャトルの後ろにいるキムチを見つけた。
「死ねよ雑魚!!!」
肩のショルダーマグナムを連射して、シャトルごとグエムルを破壊した。
「20…!! もうグエムルは食い飽きたよ!!!」

そのとき、戦艦オオクボから連絡が入った。
「少尉、情報部からの情報だ。空港内システムに侵入して検索したところ、Coolは第4発射待機ランプの方に向かった」
戦術ウィンドウに空港の地図が出て、エリカの現在の位置とCoolの場所が明らかになった。
「わかった!!」
「それと、ソウルへの核攻撃まであと5分だ! 」
「りょーかい!!」
NEVADAを上昇させようとした瞬間。
「なに?」
近づいてくる3機の機体。
「グエムルじゃない?ソーカの機体??」
ザフ・バーサーカー2機は照会がついた。だが残る1機は?
「新型?」
光学センサーに映ったその機体を見て、エリカは笑った。
「なんだよそれはよ!!黄色と黒かよ!!阪神タイガースかよ!!お前は!!!!!!」
ショルダーマグナムを連射した。
次の瞬間、そのモビルスーツは紅蓮の炎に包まれているはずだった。
だが。
「避けた(よけた)ぁ?!!」
さっきの腑抜けた自分ではもはやないはずだった。だが、確かにこの新型は避けた。
「パイロットの腕?機体の性能??」
ハンガーの後ろに回避行動を起こしたNEVADAを追って、2機のザフ・バーサーカーが迫ってきた。
「くっ!!」
ハンガーを貫いてビームライフルを撃つ。1機に命中したがもう1機は巧みに回避した。
「ボスがボスならパシリもパシリなりにやってくれるね!!」
ビームサーベルを八艘に構え、エリカはザフ・バーサーカーに下から切りつけた。ビームサーベルはザフ・バーサーカーのビームライフルごとその腕とコックピットを切り裂いた。
「やったね!!」 
だが、その喜びはほんの束の間のものにしかすぎなかった。そのすぐ後ろから、ティグレが迫ってきたのだ。
「くっ、味方がやられるのを計算に入れて!!」
エリカは目に怒りを滲ませた。このパイロット、やる!!
ティグレは、ビームサーベルを最大出力にしてNEVADAに切りかかってきた。右、左、上、下。エリカは余りに鋭い敵の切先に防戦一方となった。
「ちっきしょーーー!!!!!!!!」
剣技については訓練と蓄積がものを言う。いかにNEVADAの基本性能がティグレを上回っているからといって、パイロットが有する格闘技能の差は歴然だった。
「あっ!!!」
ティグレの鋭い剣技によって、ついにNEVADAのビームライフルが飛ばされた。だが、エリカはこれしきのことでくじける少女ではなかった。
「まだまだああああああ!!!!!!!!!!」
もう一つのビームサーベルを素早く抜いて向かっていく。
「どけえ!!!お前なんかに時間を食ってるヒマはないんだよ!!アオイの!!アオイのところに行くんだ!!!!!」
意思解釈システムは自動的に周波数帯を検索し、エリカの肉声はティグレのコックピットに届いた。
「アオイを!!娘をやらせはせん!!」
その声を聞いてエリカは獰猛なものが心の中に湧いてくるのを感じた。
「ふざけんなオヤジぃいい!!!!!!!!!」
 だが、ティグレのビーム・サーベルはエリカの隙を突いてNEVADAのコックピットに直撃を加えようとした。そしてエリカのビームサーベルもまっすぐティグレのコックピットに向かっていった。
その時と前後して。
ソウル沖に遊弋する地球連邦軍艦隊から、ソウルに戦略核が打ち込まれた。
「!!」
篭る(こもる)ような低い大きな爆発音が響いてくる。真昼の中にもう一つ真昼が生まれたかのように、NEVADAの周りにも閃光が煌いた。立ち上る巨大なキノコ雲が、大勢の朝鮮人たちの命を養分にして、相争うNEVADAとティグレの背後で花開いた。
ソウルの即死者数180万人。ソウルだけでなく、同時に平壌、太田、慶州、大邱等の統一朝鮮諸都市にも核が投下され、600万人が即死した。この時の全面的核攻撃で、統一朝鮮は石器時代に戻ったと言われている。
「また核を使ったのか!!悪魔どもめ!!」
中佐は叫んだ。
中佐は、ティグレのビームサーベルでNEVADAのコックピットを貫こうとした。
だが。
「う、動かない???電磁干渉か!!!」
 核爆発後の電磁干渉により、ティグレの電子部品は機能が低下した。
「く、くそっ!!」
中佐は、目の前のモニターでNEVADAを見た。
「NEVADAは動けるのか!!核戦争下を想定した機体なのか!!!」
「ごちゃごちゃうるせぇえええええええ!!!!!!!!!!!」
NEVADAはティグレのビームサーベルをかわした。NEVADAのビームサーベルはそのままティグレのコックピットを貫き、エリカは貫かれたティグレをビームサーベルごと残して急速離脱した。
ティグレが爆発していく姿を見下ろしながら、そのときエリカは初めて自分が何をしたのか気がついた。
「アオイのオヤジを…殺しちまったのか…」

その光景は、発射寸前のシャトルからアオイも見ていた。
「おとうさん!!おとおさあああん!!!!!」
ティグレの爆発を見て、アオイは気が狂わんばかりに叫んだ。
「エリカ…許さない…許さない!!!!!!!」
涙に顔を濡らしながらアオイは叫んだ。
「あんたを殺すわ!!!!!!!!」
シャトルが発進を始めた。
加速する船体の中で、アオイは泣き続けた。


エリカは、静かにビームライフルの照準を合わせた。
「アオイ…」
アオイの父親を殺してしまったという事実を認識したエリカの心は、再び激しく揺れていた。
心のどこかに、ぽっかりと穴が開いたような感じだった。
撃った。
ビームはシャトルの脇を抜け、虚空に消えた。
もう一撃。
外れた。
エリカの瞳に、知らないうちに涙が溢れ、照準ウィンドウの四角い赤い稜線が認識できない。
最後の一撃が外れて、アオイとCoolを載せたシャトルは、宇宙(そら)へ旅立った。
空の一点に収束していくシャトルに向いながら、NEVADAは、射撃姿勢を取ったまま夏の夕暮れを背景に、ソウル宇宙港施設の廃墟の中に立ち尽くした。


どこかで、蝉が鳴いていた。

 
戦艦オオクボに帰投後、エリカは艦橋に呼び出された。
小泉艦長が冷たい口調で言った。
「敵機動兵器、24機撃破。素晴らしい戦果だ。だが…」
そう言って小泉艦長はメガドライブ・カタパルトを加速するシャトルへのNEVADAの射撃についての記録画像をモニターに流した。
「君への命令は…Coolの破壊又は奪取だったはずだ。少尉自らが志願して出撃したはずだったが、なぜ失敗したのか。なぜここまで射撃を外したか」
その言葉を聞いて、エリカはピクリと動いた。
アオイとの過去の思い出と、アオイの父親を殺した記憶が蘇って来て、エリカの自我の統一性を激しく揺さぶった。エリカは大きく唾を飲み込んでから気を取り直し、なんとか言葉を紡ぎ(つむぎ)出した。
「しょ…小官は…出撃前にマスドライブシステムの破壊を禁じられて…おり…それによってシャトルへの射撃が…失敗したものです…」
いつもと違うエリカの態度に、ブッシュも、小泉も、そして艦橋のクルーも瞠目した。
「も、申し訳ありませんでした」
ブッシュは、それを聞いてふん、と軽く笑った。
「ほんとう、かね?」
ブッシュの、真相を見透かしているかのような言葉に再びエリカは身を硬くした。
「は・・い。」
「…じゃあ、いいよ」
ブッシュは静かに言った。
「し、失礼します!!」
エリカは敬礼して艦橋を去った。
「まて、まだ話が!!!!」
そういう小泉艦長を、ブッシュが右手を挙げて止めた。

「まあ、いいでしょう。宇宙(そら)に上がってからこの分しっかり埋め合わせしてもらえば」
そう言って、ブッシュはエリカが去った艦橋の自動ドアをじっと見ていた。

エリカは、婦人士官区画にある自分のベッドに戻ると、あたり構わず泣き始めた。

戦艦オオクボと第4遊撃艦隊は、ソウル宇宙港のマスドライブシステムを使って、Cool追撃のために宇宙に向かった。
小さくなっていく日本列島と、焦土と化しそれが上空からも明らかな朝鮮半島の景色も見ず、エリカはベッドの中で涙に塗れた布団に包まって(くるまって)いた。
 

 
 


 
 
posted by 東京kitty at 19:49| 東京 ☔| Comment(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年06月18日

NEVADA(@w荒 第3話 少女狩り

第3話  少女狩り
第1章  釜山襲撃

戦艦オオクボの艦橋。
「あー、どうやらCoolを回収した潜水母艦は
 朝鮮半島に逃げたみたいだねえ」
ブッシュは衛星からの画像を見て言った。
対馬の辺りで地球連邦軍の駆逐艦に対潜魚雷を打ち込まれた
ソーカの潜水母艦オリハルコンは釜山に向かっているようだ。
「これが駆逐艦による攻撃時の映像です」
オペレータが画像をモニターに回す。
「これはかなり被弾しているな。完全な航行は無理ですね」
小泉艦長は言った。
「うん。ではぼくたちも釜山に向かうということだね」
ブッシュはキャプテンシートの小泉の方に振向いて言った。

「しかし・・・」
小泉艦長は顔を曇らせた。
「統一朝鮮はれっきとした連邦の独立国家です。
確かにソーカへの武力制裁に関しては
連邦議会で棄権しましたが・・・」
それを聞いてブッシュはニヤリと笑いながら言った。
「艦長、艦長、艦長。衛星画像を見ただろ?
 統一朝鮮はソーカの潜水母艦に対して
何ら攻撃すらしていない。
しかも、このままいけばあの潜水母艦は釜山に向かうんだ。
僕たちが軍事行動をしても彼らは何も言えないよ。
そして、歯向かったならば彼らも敵ということさ」
「は・・・」
ブッシュは朝鮮半島の画像を見ながら考えた。
ここで戦火を広げて軍需を刺激するには、
もう一花火欲しいところだ・・・
よおし、釜山で一騒動起こしてやろうじゃないか・・・。
国防産業会議理事としてブッシュは軍需産業を振興させるために
戦争の拡大を欲していた。
 このまま行ったら戦火は尻すぼみ。
 折角彼らにCoolとNevadaのことを
こっそり教えて強奪させてやったんだ。
 別にどっちも持っていってもらってよかったんだが。
 カネはもう連邦から支払ってもらっているから、
 懐は痛まない。

 ソーカ擁護国家を一つ戦火に巻き込むのがいいだろう。
 ここ10年間でやっと戦争らしい戦争が起きたのだ。
 せいぜい引っ張って儲けさせてもらう。

ブッシュは唇の端で薄く笑った。
結局第4遊撃艦隊が戦艦オオクボに付くことになり、
戦艦4、駆逐艦6隻で釜山を攻略することになった。
「NEVADA、ジス・バイパー14、ジス・ストレッサー27。
これだけあれば十分だね」
 ブッシュは頷いた。
「で、NEVADAのパイロットの様子は?」
「はい、シミュレータで訓練をしています。結果はかなり良好です。
 サイコフレーム機体であるNEVADAのパイロットとしては逸材ですね」
「おまけに戦闘意欲も高い・・・」
 ブッシュは満足そうに笑った。
「いや、いい戦闘データが取れそうだよ」
「潜水母艦が釜山のドックに入りました」
「よし、機動兵器部隊出撃」
 小泉艦長は命令した。
NEVADAはシューティング・カタパルトに
足のジョイントを接着させた。
「エリカ」
モニターにブッシュの顔が写った。
「なに」
「思う存分やってきたまえ。釜山なんて全部壊しちゃって
構わないから」
「そのつもりよ」
シューティング・カタパルトが作動し、NEVADAは青い空に
溶けていった。

釜山を目前に、
NEVADAを始めとする連邦の機動兵器部隊の前に、
統一朝鮮の機動兵器部隊が現れた。
「数は5ってところか」
エリカはモニターを見た。
シミュレータによって、NEVADAの武器を始めとする
機能の全ては頭に入れた。
まだ生理は続いている。
だが、至極気分はいい。
自分の思い通りになる、圧倒的な力を手にした
エリカはもはや昨日までのエリカではなくなっていた。

分隊長機から命令が下る。
「グエムル5機だ。構わず蹴散らせ」
「りょーかい!!」
NEVADAはいきなり突出した。
「ウリドゥルヌンプサンスピテスムニダ!!」
(我々は釜山守備隊だ!!)
韓国語で相手の機動兵器、通称グエムル(「怪物」の韓国語読み)の警告が入ってきた。
だが。
「うっぜーんだよチョン!チョン語なんて知るかよっ!!」
エリカはバズーカを撃ち、いきなり隊長機を撃墜した。
「ばーか!!」
NEVADAを先頭に各機は釜山に侵攻した。
ブッシュはワシントンに電話を掛けていた。
「ああ、ぼくだよ。どうやら統一朝鮮は連邦軍の軍事行動を阻害した
みたいだねえ。連邦議会の方、うまく根回ししてくれないかなあ?
できれば今日中に統一朝鮮軍事制裁決議を出してもらいたい。
ハチソン議員に中国への根回しはもう頼んであるからさ」

ブッシュはテレビ電話の回線を切ってから
キャプテンシートの小泉を振り返った。
「これでよし・・・と。
 これで沖縄とバイカル湖から大部隊を動かせるよ」
小泉は頷きつつもオペレータに聞いた。
「侵攻部隊の状態はどうか」
「は、現在NEVADAを始め各機が市内に侵攻、
 ドックに向かって進撃しています」
「うん、そうか」
 ブッシュは満足そうに頷き、コーヒーを飲んだ。

「くっ!!」
眼前に砂浜が広がってくる。海水浴場だろうか。
エリカは急降下のGに耐えながら、背後を取った
グエムルを振り切ろうと必死だった。
「あーっ、うぜえ!!!」
エリカの意識が背中のポッドに及ぶと、
ミサイルが一斉に発射され、追撃してきたグエムルは散華した。
NEVADAは地表に着地した。
砂が大量に舞って、海水浴客が「アイゴー!!」などと
喚きながら逃げていく。
エリカは、頭部のバルカン砲でそのうちの何十人かを
虐殺した。
水着を来た朝鮮人たちの
肉が引きちぎれ、血が散乱し、
海水浴場は屠殺場になった
海水浴場を後にする前、エリカは東の方に尊大に立つ
ホテルをビームライフルで射撃した。
ホテルが崩れ落ちていく様を見下しつつ、
エリカは大笑いしてNEVADAを上昇させた。
NEVADAは市街地に入った。
「あーん、何あれ」
エリカは表情に悪魔を宿らせて道路をモニターから見つめた。
「違法駐車でしょ?」
エリカはビームライフルを斉射して道路に一列に並んでいる
駐車車両を尽く破壊した。一昨日母親と買い物に行ったとき、佐世保のデパート前で黄色い輪っか形の駐禁表示が路駐していた車につけられていたことを思い出し、エリカはなぜか
ひどく滑稽に感じた。こっちの方が、ずっと手間が掛からなくていい。
「ははははは!!!」
エリカが哄笑していると分隊長機から連絡が入った。
「少尉!!目的地に急げ!!」
それを聞くとエリカは舌打ちして
「りょーかい」と応答し、ジャンプを始めた。
「あと2回ジャンプすればドックが見える位置に来たよ。
 みんなは?」
「敵の迎撃機動兵器が更に3機増えた。そちらに回せる
増援はせいぜい2機だろう」
「しよーがねーなあ」
エリカは眉をひそめた。
そのときオオクボから連絡が入った。
「少尉、艦隊から釜山中心街へ長距離艦砲射撃を30秒間行う。
 当たるなよ」
「ちょ、ちょっとお!!」
上空に飛べば敵のインターセプターの
いい目標になるかもしれない。
だが、ここで味方の艦砲射撃にやられるよりはいい。
「飛べ!!」
エリカの思考を直接反映したNEVADAはバーニアを最大に
噴かして上昇した。
その下を、オオクボを始めとした艦隊からの射撃が通っていき、
釜山中心市街は砲火に晒された。
次々と破壊され、倒れていくオフィスビル、マンション、橋、道路。
その中にうごめき死んでいく数万の朝鮮人たち。
エリカは、その莫大な量の命の喪失を前に、
歓喜と興奮に打ち震えていた。体の芯が裂けるように熱かった。

「すげえ!!!」
興奮の余り、黒い経血がスーツの股間に滲んだ。

その時。
「もう・・・もうやめて!!!」
敵を感じた
エリカは曲線をイメージして回避運動を行い、
ビームライフルの火線から逃れた。
「アオイ!!」
Coolがドックの潜水母艦から出てきたのだ。
「アオイ!!」
「エリカ?!」
「あんた、階級は何よ!!」
エリカが叫んだ。
NEVADAがバズーカを放つ。
「こんなときに・・・・!!」
Coolは回避し、ビームライフルを撃った。
NEVADAは市街地に紛れ込んだ。
「軍曹よ!!それがどうかしたの?!!」
「あははははは!!あたしの方が上ね!!
あたしは少尉さまよ、この下っ端軍曹!!」
「えっ!」
オフィスビルの残骸の陰から、NEVADAはCoolに向けて3発
ビームライフルを撃つ。

「上を取られた!!」
エリカは歯軋りし、ビルの間から路の間を飛んだ。
爆風で大勢の朝鮮人たちが飛ばされ、
ビルにぶち当たって肉片となった。
太陽の中に、アオイのCoolが見えた。
「やったね!!」
途中から背面で飛んでいたエリカはビームライフルを
連発でCoolに撃ちこんだ。
「し、しまったっ!!」
アオイはNEVADAからの射撃で動きを封じられて一旦エリカの動きを視界から
失った。
「どこ?」
モニターが警報を鳴らしながら表示を出す。
「上っ??」
「もらったああああああああ!!!!
 アオイいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

だが。
突然がくん、という音がしたかと思うと、
NEVADAの意思解釈システムは再び
レスポンスが極めて遅くなった。
「くっそぉおおおおおお!!!またかよこのポンコツっ!!!」

アオイはNEVADAの様子がおかしいことに
気付いた。
アオイはビームライフルを構えた。
「・・・」
アオイの脳裏に、エリカに殺されたマサコの
遺体と、エリカとの楽しい思い出が半分半分で
浮かんできた。
その躊躇が、彼女の隙を生んだ。
再びモニターに警戒音を伴って赤い物体の接近が
表示され、ビームライフルと思われる熱源が放たれて
いるのを確認した。
「!!」
ジス・バイパーとジス・ストレッサーが1機ずつ
応援に来たのだ。


「くっ!!!」
アオイは敵の射撃を回避し、
市の中心部から脱出しようとした。
「ま、まてええええ!!!」
NEVADAの出力の逓減を肌で感じながら、
エリカの叫びは虚空に消えた。
「一旦帰投しろ」
ジス・バイパーの先任の少尉が言った。
「まだやれる!!まだやれるって!!!
 アオイを殺るんだ!!!」
エリカはものに憑かれたかのように叫び続けた。

2章 自由の女神に生気無し
NEVADAはようやく戦艦オオクボに辿り着いた。
ハッチを開けて黒いパイロットスーツに身をつつんだエリカは怒りながらコックピットを出て来た。
「なんなのこのポンコツ!!」
整備兵に食って掛かる。
「また意思解釈システムに故障があったのですか」
「そうよ!!!」
 その若い整備兵は、エリカが出たコックピットを覗いて、匂いを嗅いでから、すこしもじもじして言った。
「…少尉殿は生理でありますか」
 それを聞いてエリカの怒りと恥ずかしさは頂点に達した。
「それがどうしたのよ!!」
「もしかしたら、
意思解釈システムの齟齬はそれと関係があるのかもしれません」
「えっ…!」
 一瞬ひるんだエリカだったが、再び怒気を顔にあらわして言った。
「とにかくよく見ておいてよね!!私のNEVADA!!」
 そう言って、エリカはリフトで降りて言った。
「あーっ、キモっ! デリカシーない奴ってさいてー」

艦橋でブッシュはデータを見ていきなり笑い始めた。
「はっははははは、何と3日目だったとは!」
艦橋内の女性兵士たちはその声を聞いて心の中から沸き起こってくる嫌悪感を抑えつけることができなかった。
「しかし、Coolも心理操縦システムを採用していますが…」
 技術士官が口篭もった。
「それが何か?相手のパイロットとかいうエリカの友達が生理期間が違っていたら影響も違うだけでしょう」
 ブッシュは訝しげに言った。
「これは実験結果から明らかなのですが、仲のよい友達やルームメイトの場合は生理周期も同期化されるようです。脇から分泌される物質が生理期間を同期化させることがわかっています。事実、今回戦死した最初のパイロット候補の少女たちは、みなルームメイトで生理期間が同じでした。また、サイコフレーム稼動に関しても彼女たちの生理期間における影響はありませんでした」
「ほう」
ブッシュが興味深げにつぶやいた。
「じゃあ、何が問題だということなのかな?」
「おそらく、彼女の余りのキラーエリートとしての優秀性にマシンがついていっていないのではないかと…とにかく彼女が出す数値は異常です。それと…」
技術士官はモニターに画像を出した。
これはNEVADAが海水浴場に降りて海水浴客をいきなり虐殺したときの画像です。
「おや…これはすごい」
更に、NEVADAは釜山中心街で「違法駐車強制排除」と称して大量の車両とその周りにいた人々を殺害しています。作戦遂行のために民間人を殺すことはとにかく、作戦行動外でも殺戮を楽しんでいるのが記録画像からわかります。しかも、これは彼女のほとんど初陣です。こんな兵士は見たことがありません。」
「確かに国際法上は問題があるかもしれないねえ。だが、そんなものはどうにでもなるのは過去に照らせば明らかだし、NEVADAのパイロットとしては極めて適格性があるという証拠にしかならないと思うよ」
 ブッシュは事も無げに言った。
「ただ、彼女の殺人衝動の余りの強さにNEVADAがついていけない可能性があるというのは問題だ。でも、これはNEVADAに改良の余地があるということで、開発・運用データ取得ということからすれば喜ばしい結果が出たとも言えるのではないかな?」
そう、つまりまた予算を引っ張る口実ができたというわけだ。
ブッシュはニヤリと笑った。
小泉艦長がオペレータに作戦の遂行状況を尋ねた。
「敵の守備隊はほぼ全滅させました。潜水母艦を強襲しましたが、Coolは既に逃げたようです。」
「Coolの足取りは?」
「軍事衛星で追わせていますが、わかりません」
「空路ではなく陸路で移動しているということか…」
小泉艦長は舌打ちした。

「貨物トラックにパーツごと分解して輸送されたら、もうわかりませんねえ」
ブッシュは眼前に広がる朝鮮半島の高速道路網を見て言った。
「ソベク山脈に沿ってマスドライブシステムがあるソウルまで運ぶか、それとも島が多い全羅南道に入ってまた別の潜水母艦でソウルの近くまで輸送するか…」
ブッシュは頬に手をやった後、黙って自室に退いた。
PCを起動させ、秘密回線を開く。
「ぼくだ。今どうなっている?」
「連邦議会で統一朝鮮武力制裁決議が出されるところです。今議長が投票結果を手にしました。」
ウィンドウが開いて、ニューヨークの地球連邦議事堂での議決の様子を報道するニュース番組がライブ中継されている。
「…ではかねての手はず通り」
「わかりました」
相手との通信ウィンドウは閉じ、ニュースのウィンドウだけが画面に残った。
「武力制裁決議が可決されました…統一朝鮮、チェチェン、イラン、イラク、アラビアイスラム連邦等が憤然として席を立ちます」
アナウンサーが緊迫した声で伝える。
「ありゃ。フランスまで制裁に反対したのか…」
ブッシュは皮肉そうに顔を歪めた。
「ご先祖以来、あんたたちとは相性が悪いねえ…」
そうブッシュが言ったとき、突然爆発と閃光が画面を覆った。
ブッシュはそれをみて薄く笑う。

エリカが艦橋に上がってくる。
「状況はどうなっているんだ!!」
小泉艦長が叫ぶ。
「わかりません、ニューヨークの地球連邦議事堂ビルに小型核爆弾テロがあった模様です。」
オペレータが叫ぶ。
ブッシュが上がってきた。
「艦長、こういうときはニュースを見た方が早いよ。インターネットからCNNを出してくれ」
CNNの画像がモニターに表示された。
「現在、小型核爆弾テロがあったのは、地球連邦議事堂、ニューヨーク証券取引所、マジソン・スクエアガーデン、エンパイヤステートビル、それと…」
キャスターの顔が歪んだ。
「たまたまクルーがショッキングな画像を撮影しました。ご覧ください…」
ニューヨーク港の入り口にあたるリバティ(自由)島に立つ自由の女神は、ニューヨークのみならずアメリカの象徴として存在してきた。ヨーロッパからの移民たちは、アメリカに来る際に、自由の国の象徴として最初にそれを仰ぎ見たものだ。
だが。
青白い閃光と爆発の後、キノコ雲が立った。
自由の女神は、台座もろとも粉々になり、もはやそこには存在していなかった。
ブッシュは微かに笑った。
そう、ぼくはあんたも気に入らなかったのさ。自由なんて結局幻想なのに。自由というのはぼくたち支配階級が愚民どもを支配管理するために嗅がせる麻薬のようなものだ。そんな幻想の象徴にすぎない癖に偉そうにそそり立ち、時にはぼくたちを見下ろすあんたがね。
先祖代々ブッシュ家が通うことになっているエール大学に通っていたときの夏休み、ブッシュはニューヨークに恋人と遊びに行ったことがあった。恋人が別れを切り出したのは、リバティ島の自由の女神のすぐ下だった。
あの思い出と一緒に自由の女神もおさらばさ。
エリカはブッシュの暗い笑いを見逃さなかった。
「この人、あたしの同類だ」
心のどこかで稲妻のように言葉が閃いた。
世界への憎しみと破壊本能を材料に自分を構成している者としての同じ匂い。

しかし、その言葉と共に生じた感情は果てしのない嫌悪だった。
自分の持っている醜さを他人に見せられたという同族嫌悪である。
「艦長」
「は」
「小型核爆弾は、街を破壊できる力はない。だが、ニューヨークが核攻撃されたことは厳然とした事実だよ。これで、こっちも統一朝鮮相手に核を使えるね。」
「しかし、まだ統一朝鮮やソーカがやったと決まったわけでは」
オペレータがそう言うと、ブッシュは声を荒げた。
「何を言ってるんだ!!!軍事制裁決議が可決され、統一朝鮮の議員が去った時に核爆発が起きたんだぞ!! あいつらがやった意趣返し以外に何が考えられるというんだ!!」
エリカは、何の客観的根拠もあったわけでもなかったが、この男がこの事件の犯人なのだと直感した。この必死さ。何かを隠そうとしている必死さ。本当の犯人が他人に罪をなすりつけようとするときの独特の口調、雰囲気、表情。
「うざったてー」
エリカは小声でつぶやいた。

第3章 原子の聖火
「3番管巡航ミサイルに戦術核弾頭装填。目標、釜山市中心街」
「照準釜山市中央市街、市役所に固定。装填完了。発射よろし」
オペレータが報告する。
 小泉艦長は命令を伝えた。
「てええーーーーっ!!」
戦術核ミサイルはオオクボ後部のポッドから発射された。ミサイルは高速で目標に向かって飛行し、やがて着弾と同時に閃光が夕暮れの空を焦がした。時計が逆戻りして真昼のように明るくなったかと思うと、海を挟んで眼前の釜山にキノコ雲が立ち上った。
「市街中心部に着弾しました。推計即死者数40万人」
エリカは、その原子の花火を瞠目して見つめていた。
「きれい…」
あそこで、40万人の朝鮮人どもの命が散ったんだ。
「すごい…」
 
エリカの中で、歓喜と悲しみと恐怖と残忍さと高揚感が互いを喰らい合い、表現し難い感情の合成物が生まれた。エリカは自分の心の中の光る闇の中に朝鮮人たちがわけのわからない言葉で喚きながら苦しむ姿を数多く想像し、興奮状態にあった。
すげえ。戦争すげえぇ!!
エリカは、ブッシュを見た。
ブッシュの表情には、彼女と同様の光る闇があった。
心地よい悪のパワーに身を震わせる彼の姿に、エリカは前に日曜礼拝の教会の説教で聞いた聖書の話を思い出した。黙示録にいう悪魔の数字666が
自分と彼の額には刻印されているような気がした。
ふん。
こんな素晴らしい眺めを見せてくれる限りは、あんたについていくよ。
でも…。
あんたの狡猾があたしの残忍を裏切るようなことが万が一あったときは…
あんたがあたしの光る闇の中でのたうちまわるだけのことさ。
エリカは一瞬暗い光を瞳に瞬かせてから、再び前方の釜山の滅亡シーンを見つめた。
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NEVADA(@w荒 第2話 青い空、白い雲、紅い血

第2話 青い空、白い雲、紅い血
第1章 追跡

エリカはNEVADAのコックピットに入った。
彼女は機動兵器の講習を受けたわけではない。
機械の知識があるわけでもない。
ただ、この黒いNEVADAが目に入ったから。
そして、アオイがこの隣にあった機体を動かしたので
自分にもできるかもしれないと
思い込んで乗り込んだだけだった。

だが。

「アオイ、許さない!!逃がさない!!」
そうエリカが思うと、何とNEVADAは動き始めた。

「えっ・・・。私何もいじってないのに。」
彼女の頭にあるアイデアが閃いた。
「もしかすると・・・」
もしかするとこのロボットは、パイロットの思った通りに
動くのかもしれない。

「飛べ」
エリカの鋭い思念を反映して、
NEVADAはバーニアをふかし、
戦艦オオクボを飛び去った。
「アオイの乗ったロボットは??」
そう思った後、彼女は思い直した。
「このロボットの隣にいたロボットの方に
飛べ」
そう思った瞬間、NEVADAは急に推進方向を
変え、エリカは急なGに死にそうな思いがした。
戦艦オオクボを襲ったザフ・バーサーカーに乗り込んでいた
金軍曹はオオクボからもう一機の機動兵器が
出てくるのを確認した。
「ちぃ、追ってくるのか?」
ビームライフルを構えて実装された火器管制プログラムに
目標座標データを渡す。

「何?」
何という運動性能だろう。
NEVADAはロックされる前に
あっという間に彼の視界から消え去った。

「邪魔よ!!死ね!!!」
エリカが空気を引き裂くような声で叫んだ。
「ぐあああ!!!」
金軍曹は恐怖の断末魔を挙げて業火の中で
苦しみ悶えて死んだ。
ザフ・バーサーカーはNEVADAの
ビームライフルの光に貫かれ、
金軍曹の棺桶になった。

青空と白い雲の中で、
燃料やらエンジンやらの爆発で
ザフ・バーサーカーは花のように
散った。

「ばーか、死ねクズ」
エリカはせせら笑ってCoolを追った。

「簡単じゃん、これ」
ザフ・バーサーカーを撃破し、
エリカはNEVADAの操縦を直感的に把握した。
「飛べ!一番速く!!」
青い空と白い雲、そして青い海がエリカの眼前で次々と
展開し消え去っていく。
風景を次々と発生させていく、
眼前の極小の一点だけが、エリカのそこにある世界になった。
さっきから下着が経血でべとべとで気持ちが悪い。
エリカは純粋な憎悪に自分を化身させることでそれを忘れようと
した。
「!」
見えた。さっきのロボット!
「あぁぁおおおぃぃいいいいい!!!!!!」

照準、ロック、発射、回避
一連の動きをエリカは何の訓練もなしに
やってのけた。
眼前のモニタに広がる世界は果てしなく回転したが、
エリカはまるで目が回ることはなかった。
衝撃緩衝システムにより逆方向へのコクピット全体の
回転が生じ、NEVADAの体勢に関係なく
パイロットが回転によって影響を受けることはない。
だが、縦横上下前後のGに関してはアブソーバが
完全というわけではなかった。
それでもエリカは堪えた。
「アオイ、聞いてるの!!」
このころになると、エリカの動作意思は
操縦システムの意思解釈システムと密接にリンクし、
すぐさま通信周波数帯の検索が始まった。
「・・・エリカ!!」
Coolの中で、アオイは愕然としてエリカの声を聞いた。
「何であたしを裏切ったの」
エリカは押し殺した声で聞いた。
「…エリカ。私と一緒に来て」
突然のアオイの要望に、エリカは「は?」と聞き返した。
「私はもともとソーカの人間なの。身分を隠して学校に来ただけなの。」
「そんなことで許してもらえると思ってるの?私に本当のことを言わず、黙って、しかもあんたの仲間はあたしを、あたしを殺そうとしたんだよ?」
エリカは叫んだ。
「それに、戦艦を出るとき、一瞬私に銃を向けたよね、あんた!あたしに!!このあたしにさ!!そんな奴らのところに行けっていうの?バカ言わないでよ!!」
その時。
ザフ・フォルツァに搭乗した朴梅夫少尉は、前方でNEVADAとCoolがやりあっているのを確認し、突っ込んできた。
「軍曹、何をやっているんだ!!」
「邪魔だっつーんだよ!!!」
エリカは殺意を滲ませて叫んだ。
NEVADAの頭部のバルカン砲が開き、
ザフ・フォルツァを射撃した。
「くっ…!!」
「おせえんだよ!!!」
エリカはビームライフルを構えて連射した。
ザフ・フォルツァは紙切れのように装甲がこそげ落ちた。
「軍曹、行け!!回収ポイントに向かうんだ!!!」
ザフ・フォルツァは僚機同様青い空と白い雲を背景に散華した。
  「は…はい!!」
アオイは加速してその場を立ち去った。
  「待ちな!!!」
エリカがCoolを追おうとしたその瞬間。
  「!」
なんだ?動かない。
エリカの意思と操縦システムの意思解釈システムのすり合わせが
うまくいかない。
  「どうして?」
   エリカは周りを見た。
  「くっ!!!」
彼女が見たコックピットの金属製のフレームに、
「三菱製」の文字があった。
  「このボロ機体がああ!!!!!」

第2章 蛇の系譜

ジス・バイパーによって回収されたNEVADAは
戦艦オオクボに帰投した。
艦橋のモニターでそれをみていた艦長席の若い軍人と、
同じ程度に若い背広を来た民間人。
「ねえ、小泉艦長」
「は?」
「艦長さんが戦死した以上、先任将校の君が艦長なのは
当然じゃないか?」
「・・・ブッシュさん」
「そう他人行儀にならなくてもいいよ。小泉大尉。僕と君は祖先の代から
ずっとうまくやってきたじゃないか。僕は国防産業会議理事。
君は新鋭戦艦オオクボ艦長。これからもうまくやっていこうよ」
「は」
「だからそう堅くならなくてもいいさ」
「は」
「それにしても驚いたな」
「ええ」
「初めて乗った心理操縦システムでいきなり90パーセントの
 シンクロ率出されたら、数億ドレンもかけて受精卵から生成した
生体CPUなんてバカバカしくなっちゃうねえ」
「・・・」
「あの子さ」
「は?」
「このままNEVADAのパイロットにしちゃおうか? Coolと戦わせて実戦データを取ろうよ」

女性士官がエリカを尋問している。
「では友達を追ってNEVADAに乗り込んだというの?」
「…」
エリカは果てしなく暗い目をして頷いた。
「あなたのやったことは、連邦軍の軍事機密に許可なく触れたことで、
極めて重い罪にあたるのよ!!」
「…敵を2機倒したもん」
声のトーンに、少しいらだちが混ざった。
女性士官は絶句した。
「あんたたちを守ったの、あたしなんだよ。態度でかくない、あんた。
顔洗ったら?」
突然エリカの顔に修羅が憑依した。
「まあ、そのへんでいいでしょう」
ドアが開いて、ブッシュ委員と小泉艦長が入ってきた。
小泉艦長が合図すると、
女性士官は敬礼して退出した。

「さて・・・」
ブッシュはじっとエリカを見た。
「さっきから室内のモニターで一部始終見せてもらったよ。
 友達のあとを追いたいんだって?」
「・・・そう。でももう友達じゃないよ。
 あたしを、裏切ったんだ。敵だよ。」
 エリカは目に炎を燃え立たせた。
「いいだろう。君には、あの機体・・・NEVADAの
パイロットをやってもらう」
「ほんと?」
 それを聞くと、エリカの目に意外さと歓喜が浮かんだ。
「但し・・・」
 ブッシュは指を一本立てた。
「君には軍の士官になってもらうし、こちらの指示には
 全部従ってもらう。いいね?」
 エリカは、ブッシュの発言を慎重に聞いていたが、
やがて静かにうなずいた。
「よし、では君は今日から…少尉さんだ。いいね、艦長」
小泉は頷いてエリカに言った。
「地球連邦軍軍規第43条の2第5項の規定に基づき、交戦中の艦長特権としての野戦任官権限により君を地球連邦軍少尉並びに新型機動兵器NEVADAの専属操縦士に任命する」
小泉はそう言った後、固まったように動かない彼女を
いぶかしげに見てから言った。
「敬礼したまえ」
 エリカは、無作法に右手を額に当てた。

第3章 別れ
「で、ご家族とはお別れしなくて本当にいいの?」
 女性士官が尋ねた。
「はい。そう言っておいてください」
エリカはぶっきらぼうに頷いた。
誰があんな小うるさい連中。
新しい世界に入っていけるんだから、もうあいつらはいらない。邪魔。
「でも…」
女性士官の言葉を聞いてエリカは切れた。
「ちっ、うるせーよババア。いいっていったらいいんだよ!
あたしはもう少尉なのよ。あんた軍曹じゃない。上官に向かって生意気よ!!」
それを聞いて女性士官は絶句し、ガンルームから出ていった。
艦内放送が響く。
「これより本艦は、奪取された新型機動兵器を追って出動する。」
続いて、エンジンの音と共に艦体が動きはじめるのをエリカは感じた。
エリカは、窓から外を見た。既に時間的には夕方だったが、
初夏の日差しはまだ明るい。
「あっ…」
彼女は高台にある、自分たちの小学校を認めた。そしてあの坂も。
「アオイ…」
ほんの9時間前は、彼女とその友達はただの小学生だった。
今や2人とも軍人、それも敵同士の軍人になってしまった。
エリカは、目の前にある自分の過去の世界が
大きな音を立てて扉によって閉ざされるのを見たような気がした。
エリカは顔を歪め、静かに泣き始めた。
さっき変えたばかりの生理用品が、
また自分の経血で濡れていくのを彼女は感じた。
彼女の世界は時間と方向を失い、ただの無秩序な混合物となった。
戦艦オオクボは出航してからすぐ艦首を回頭し、
佐世保の風景はエリカの見ていた窓からはついに見えなくなった。
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NEVADA (@w荒 第1話 ともだち(@w荒

NEVADA
第1話 ともだち
第1章 坂の上の木馬

佐世保。朝8時(@w荒

初夏の陽光が容赦なく降ってくる。
「ざけんじゃねえ」
6年生のエリカは
小学校への坂を陰鬱な顔をして苦しそうに登っていった。
汗が顔中の穴から既に猛烈に噴出している。
道路の脇の葉の匂いが、やけに鼻につく。
ぺっ。
道の真中に唾を吐く。
面白くもねえ学校。
面白くもねえクラス。
下着が、気持ち悪い。

あーあ、かったりー
エリカは、坂の上から見下ろしているかのような
学校の時計台をうらめしそうに見つめた。
大体こんな坂の登り切ったところに学校なんて作るなっつーの。
朝は嫌いだ。夜が好き。
エリカは、朝に弱い。坂を歩く一歩一歩がやけにだるい。
ま、いっか。
アオイとくっちゃべられるだけで気も晴れるし。
あと少し。あと少しでクーラーの効いた教室だ。

その時。
彼女は潮の香りと共に感覚に運ばれてきた
エンジン音の低い大きな唸りを聞いた。

「うぜえな・・・・」
エリカは下を向いた。
「こちとら生理なんだよ」

だが、エンジンの音は大きくなっていくだけだった。
エリカが舌打ちしてもう一度顔を上げると、
アオイが佐世保港を見下ろしてずっと先の方に立っていた。
彼女は上を向いてエンジン音の源を見つめた。
アオイにつられてエリカもそれを見た。

まるで木馬のようだ。
エリカは空を飛ぶ戦艦を見て思った。
連邦軍の戦艦だろう。

「おはー」
エリカが歩を早めてアオイに近づくと、
彼女は振向いた。
だが、その表情は硬く引き締まっていて、
普段のアオイの顔ではなかった。
「朝っぱらからすげーの飛んでるね」
「…地球連邦軍戦艦オオクボ」
「は?」
エリカは訝しげにアオイを見つめた。
「いこ」
彼女はずんずんと歩きだした。
変だ。
いつもと違う。そう、いつもと違う。大人しいアオイが。
いつもわたしの話をふんふんと聞いているだけのアオイが。
いつもはわたしがあんたを引っ張っていくのに。
何だっていうの?
それにあのクラスの端っこに座ってる
やせっぽっちのメガネのだせー軍事ヲタクじゃあるまいし、
どうしてあんたが戦艦の名前なんて知ってるの?

アオイは転校生。
わたしだけがあの子の友達。そして多分あの子だけがわたしの友達。
クラスの中で浮いてハブられそうになったときもわたしが庇ってやったし。
わたしが何でもあんたに教えてやって、あんたはわたしについてきた。
なのにあんた、変だよ。
これじゃあんたがわたしをリードしてるみたいだ。

エリカは、アオイの背中を見て坂を登りつつも、
なぜかその背中を追い越せない空気に
押しつぶされそうだった。
このアオイの圧倒的な存在感は一体何なのだろう。
エリカは生理の鈍い痛みと共にアオイの背中に一瞬激しい憎悪を抱いた。

2章 歓迎会
「今日は佐世保港に地球連邦軍の戦艦が来港しました。
みなさんで歓迎会に出席します」
それを聞いたとき、クラスは白けた雰囲気に包まれた。
ただ一人、軍事ヲタクのメガネの康夫だけが万歳を叫んだ。
このやせっぽっちはいつも何かズレているんだ。
エリカは彼を軽蔑していた。

佐世保という町は、
確かに佐世保港にまつわる軍需によって支えられている。
この学校に通っている子供たちも、
軍人たちの落とすカネで生きているようなものだ。
だが、彼らは親たちから軍人の恐ろしさ、意地汚さ、醜さもまた
ずっと小さいときから耳にタコができるほど聞かされてきた。
エリカもそのうちの一人だ。
それでも、彼女は皆とは感想が違っていた。
その理由は今日の登校時のアオイの態度だった。
あの子、あの戦艦を見て目の色変えていた…
あの船の近くにいけば、何かわかるかもしれない。
アオイは、いつもと違って相変わらず近づき難い雰囲気を醸し出していた。
「アオイさん」
担任の女教師がアオイを呼んだ。
「はい」
「今日は、艦長さんにお花をあげていただきます。いいですね」
「はい」
アオイは静かに頷いた。
エリカはそんな彼女を薄く目を開けながら見ていた。
変だよ。あんた、なんか変。
エリカの心はその2つの文章を無限に反復していた。
それは生理の鈍い痛みを和らげるためのある種の呪文のような
働きをしていたといっていい。

佐世保軍港。
「でかいなあ…」
エリカは戦艦オオクボを見上げて思った。
確かに飛んでいるときもでかかった。
だが、近づいてみるとあらためてその大きさに驚く。
今起きている、地球連邦から独立を狙う宇宙コロニー国家ソーカと
地球連邦軍との全世界における小競り合いがいつエリカたちの
生活にも関わってくるかわからなかった。
だが、エリカはそんなことなど意識したこともなかったし、
彼女の生活は狭いクラスの中で閉じていた。
外界の世界のことなどどうでもよかった。
まるで姉妹のような
アオイとの世界だけが彼女の最後の砦だったのだ。
残りのクラスの連中?
ああ、どうでもいいやあんな連中。
だが、その砦に今朝ほころびが生じた。
エリカはそれを繕うためにそこにいた。

オオクボの脇の搬入路の近くに、様々な補給物資が積み上げられ、
コンベヤで艦内に飲み込まれていく。
彼女のクラスの子供たちは、オオクボの近くに設けられた
しょぼい「歓迎会」会場にやってきた。
「だっさ。いい男いないね」
「軍人とか言ってもねえ」
「おっさんばっかり」
クラスの馬鹿女どもがすでに陰口を聞きまくっている。
エリカは薄く笑いながらもその意見には同感だった。

どうでもいい大人の話。どうでもいい戦争のこと。
そんなつまんねー話が終わってようやくアオイが花束を渡す段取りになった。
だが…
「あれ?」
アオイが、いない。
皆があたりを見回したときだった。
「敵襲だあああああ!!!!!」
金属を引き裂くような声が辺りに響いた。

第3章 強奪と死
エリカは太陽の中に影を認めた。
その影は急に大きくなり人型となった。
頭部の一つ目がギラリと輝くのをエリカは確かに見た。
だが、それはすぐに視界から消え去り、
彼女の周りは轟音と爆風と火炎に
包まれた。
ザフ・バーサーカーとザフ・フォルツァの
ソーカの2機の人型機動兵器(モバイル・トルーパー, Mobile Trooper = MT)がオオクボを襲った。
エリカは爆風に吹き飛ばされ、机にしたたか背中を打った。
「いてて…」
轟音のせいか、耳があまりよく聞こえない。
周りは軍人や同級生たちの死体で一杯だった。
一瞬、エリカは何が起こったかわからなかった。
そして眼前に横たわる死体の群れの意味も。
だが、少し遠くの方にある担任の首が取れているのを見て
彼女も心の中に鋭く突き刺さる彼らの死の認識を否応なく獲得した。
どうでもいいこんな連中。
死んでせいせいしたよ。
エリカは荒々しい感情を奮い立たせた。
そうでもしない限り、泣き出しそうだったからだ。

「うっ…」
ああ。
あの軍事ヲタクのやせっぽっちメガネ、端っこの方で
しぶとく生きてる。
そんな。
そんなものはどうでもいい。
あの子はわたしの唯一の友達。わたしはあの子の唯一の友達。
あの子が来るまでは学校が終わるのだけが楽しみだった。
終業のチャイムをずっと待っていた。
「アオイ…は?」
エリカは周りを見回した。
煙の先。オオクボの艦内へ走っていく小さな影。
「アオイ!!!」
エリカは跡を追った。

アオイともう一人の少女マサコは、格納庫にもぐりこんだ。
敵襲による混乱、怒号、轟音、爆風は格納庫にも及んでいた。
彼女たちは、搭載されている
ピンク色と黒色に塗装された2機の人型機動兵器、
地球連邦軍の新型であるCoolとNEVADAを見て頷いた。

アオイは、この瞬間になぜか過去の思い出が映像になって
頭の中を駆け巡るのを抑えることができなかった。
ソーカのエリート少女スパイとして、
今隣にいるマサコと訓練を受けたあの辛い日々。
身分を隠し、この佐世保にこの作戦のためにもぐりこんできた
2年前。転校したときの冷たいクラスの態度。
そしてただ一人手を伸ばしてくれた友達。
エリカ。

だが、その彼女の一瞬の追想が油断を生んだ。
「誰だ貴様ら!!」
兵士が彼女たちに銃を向けた。
マサコは躊躇せずに銃を撃ち、兵士は倒れた。
「さあ、今のうちに!!!」
「うん!!」
アオイたちが両機の方に駆け寄ろうとしたその時。
「まって!!!!」
その声に、アオイは聞き覚えがあった。
「エリ…カ」
アオイの声と表情は凍りついた。
「あんた……一体こんなところで何をやってるの」
「エリ…カ」
アオイは固まって閉じた自分を意識した。
その時。マサコがずいっと前に出た。
「アオイ、先に行って」
「えっ」
「行って。私が上官のはずよ」
「…わかった」
アオイがピンク色のCoolの方に向かうと、マサコは銃をエリカの方に向けた。
エリカは事態を把握した。
「あんたら、スパイね」
「だったら、どうだっていうの」
マサコがそう言うか言わないか。
エリカはもっていたカッターナイフを投げつけた。
銃声が鳴った。
だが、マサコの手にカッターナイフが当たり、撃った弾は外れた。
「このぉおおおお!!!!」
エリカは渾身の蹴りをマサコの腹に叩き込んだ。
「ぐぇええええええええ!!!」
コックピットに入りOSを起動させたアオイは、モニターから
はらはらしながらこの様子を見ていた。
「マサコ!!!」
だが、マサコも負けてはいなかった。
二人は殴り合いながらくんずほぐれつしていたが、
やがて銃声が響いた。
「!!」
アオイは二人の様子をコックピットの中でじっと見守った。

マサコの凍りついたような瞳が銃を手にした
エリカを映している。
マサコの口から、つーっと血が流れた。
温かそうな、粘度が余りなさそうな、血。
マサコは一回大きく咳き込んで、大量の血を床に吐いて倒れた。

血。
ああ、今日わたしが朝トイレで垂らしてきたのと同じ血。
エリカは、格闘の際奪い取った銃を手に把りながら
マサコの口から流れる血を思ってなぜか今日の朝
白い陶器に流し水に溶けていった自分の経血を
思い出していた。
それは、彼女にとって慣れ親しんだ液体だった。
血って、怖くないんだ。
どけよ。
エリカは無造作にマサコの死体を自分の体からどけた。
「マサコ!!!!!!」
アオイはコックピットの中で絶叫した。

その時。
彼女がもってきた通信機が呼び出し音を鳴らした。
「は…はい…」
涙を流しながらアオイは応答した。
「作戦の遂行状況は?!」
「…マサコが…金少尉が…戦死…
 新型機動兵器一機を鹵獲(ろかく)…」
そこまで言ってアオイは嗚咽を始めた。
「軍曹!!時間がない。その一機を奪取して脱出するぞ!!」
「りょ…了解…」

ピンク色のCoolはスタビライザーから拘束具を引きちぎり、
自立歩行を開始した。
「エリカ…」
アオイはビームライフルを一瞬エリカに向けた。
だが、その近くにマサコの死体があることに気付き、
涙を流しながらバーニアをふかし、船から飛び去った。

「アオイ!!!!!!」
エリカはCoolのバーニアの爆風に耐えながらも、
その去っていく姿をじっと見ていた。
あんたがスパイだったなんて…
エリカは歯がみをした。
「裏切ったんだね、あたしを!!!」
複数形でなかったことに、彼女の情念の性格が何かがはっきりと
表示されていたといっていい。
「よくも!! よくもよくもよくも!!!
友達面してうちの学校に乗り込んできてくれたよ!!」

アオイが最初に転校してきた日。
それはエリカの初潮の日。
世界が始めてエリカに覆い被さって来た日。
エリカはあの日暗い顔をしていた。
そしてアオイもやはり暗い顔をしていた。
痛かったのだ。
たまたま同じ方向に帰って、
「あんたも?」「わたしも」と言い合って
思わず笑ったあの日。
ほんの少しだけ痛みが軽くなったあの笑い。
楽しい思い出。クラスはみんな敵だったけど、
あんただけはわたしの味方だった。
でも、あんたは裏切って去っていった。
残されて。
わたしだけここにいる。ここに。こんなところに。
兵士たちの屍骸。爆音。
そしてわたしと同じ年代のこどもの死体。

エリカは床を平手で叩いた。
「くっ…」
激しく動いたせいか、
脚にはもう血が流れている。
彼女は下着の下の気持ち悪さと、
彼女を裏切った世界と友人への憎しみを
原料にして自分を再構成した。
エリカの目からは涙がこぼれていたが、
やがてあるものを見つけ、眦(まなじり)を決して
立ち上がった。
彼女が走っていった先にあるもの。
それは残ったもう一体、漆黒に塗装された
新型機動兵器NEVADAだった。
posted by 東京kitty at 20:53| 東京 🌁| Comment(7) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年04月26日

暁の生徒会室-3


私は生徒会室に行き、栄歌高校の生徒会長たちの応接を終えたばかりの京子に柳川のことを話した。
彼女も目を輝かせ、嬉しそうに言った。
「本当? じゃあ柳川先輩がいらしたらご挨拶するわ。」
私は更に長谷部先輩が来るという話もした。
「えっ」
京子の目は大きく見開かれた。
「そう」
少し頬を赤くしている。こんな京子は初めて見た。つまり、京子が女であることを意識させる部分をだ。
「桂くんから聞いたの?」
「ええ」
それを聞くと、京子は少し俯いた。
「そう」
こんどの「そう」は少し寂しそうだった。

午後1時。
ミス河埜コンテストが講堂で始まろうとしている。会長の京子と会計委員長の慶子は、私たちが講堂に移動する前、生徒会室で明らかに嫌そうな顔をしていた。女性蔑視だと二人は何度も事前の執行委員会で発言したが、桂を除いた男性委員全員の強硬な開催意見と桜子やさゆりと言った女子役員の裏切りもあって、結局開催されることになったのだ。
ちなみに桂は中立だった。
私は開催には賛成意見を述べた。長年続いたものを、最後の学園祭に無くしても無意味ではないかというのが理由だ。
「結局荒巻くんも男ってことね」
そう言ったときの京子の目は果てしなく冷たかったが、水着コンテストを無しにするという私が出した妥協案で何とか京子は開催を承諾した。勢堂や下岡たちは明らかに不満そうな顔だったが、彼らに審査員の座を与えることで丸く収めることができた。
講堂には、既に予選を勝ち抜いた10人が立ち並び、見物の者も校内・校外を含め他のいずれの出し物よりも集まっていた。
審査員席には、委員長に文化委員長の桂、それになぜか体育委員長の勢堂と体育副委員長の下岡が満面の笑みを浮かべて座っている。更に桜子とさゆりが座り、私も末席を汚している。京子と慶子は生徒会室に残って指揮を執ることになった。本来ならば毎年生徒会長が審査委員長を務めるのだが。
この行事の前に、桜子とさゆりにミスコンは女性蔑視と思わないのかと聞いたことがある。二人はたまたま生徒会室で近くにあるマクドナルドで買ったハンバーガーを夕食に食べていたが、きょとんとした顔をして言った。
「全然。私、可愛い女の子好きだもの」
桜子は何を言っているんだという顔をして言った。
「そうそう。あのね荒巻くん、女の子のことを一番見ているのは、女の子なんだよ。」
さゆりも偉そうに頷きながら言った。
さゆりも結構可愛いのだが、流石にそのようなことは面と向かって言うことはできなかった。
番号札をつけた女子生徒が、次々と自己アピールをしていく。
「あ」
私は9番の番号札をつけた女子生徒を見て愕然とした。
「美沙」
「なんだ、知り合いか」
勢堂が私の方を向いていった。美沙が生徒会室にいたときには、勢堂は別の場所で指揮を執っていたので美沙に会ってないのだ。
「先輩、先輩、こいつあの子と昨日からいきなりあっちっちなんですぜ」
さゆりがいかにも汚らわしいという感じで勢堂に耳打ちしてチクリを入れた。それもわざわざ私によく聞こえる声でだ。
「美沙、ですって」
 更に、さゆりが私の方を向いて揶揄した。
「呼び捨てだわっ」
 桜子も笑いながら言った。
「隅に置けんなあ」
勢堂はわざとらしく首を振った。
私は冷静さを装い、
「先輩、審査に集中しましょう。副会長命令ですよ」
と冗談とも本気ともつかない口調で言った。
勢堂はにやりとして前を向き、審査に戻った。

自己アピールの後、歌を歌わせたり特技を披露させる。美沙は歌を歌った。
「あ……あの子歌上手いわ」
桜子が目を丸くして私の方を向いた。
確かに美沙の歌は傑出して上手かった。
声量といい、表現力といい、とても中学2年生には思えなかった。
講堂の2階から照らされた照明に映え、美沙は私が見ていた美沙とは別人になっていた。ステージを支配し、観客席を圧倒するカリスマに変わっていた。
ほんの3分程度の歌にも関わらず、全力で歌った美沙は心持顔を上気させ、セーラー服姿で頭を下げた。
会場からは期せずして拍手とアンコールが巻き起こった。

結局、美沙は準ミスに選ばれた。中2で準ミスに選ばれたのは、河埜学園の学園祭史上最年少だ。
美沙は文化委員長の桂から表彰を受け、壇上で飛び跳ねて喜んだ。だが、その後がいけなかった。
「荒巻せんぱーい! ありがとうございます!!」
そう言って彼女は私に手を大きく振り、ペコリと頭を下げた。
周囲の温度が一瞬下がり、私は他の委員たちの冷たい視線を背中に感じた。私は表面上は表情を動かさなかった。だが、心の中でバカヤローと叫びながら、頭の芯に熱さと冷たさを同時に感じていた。

コンテスト終了後、どよめきが続く中、私が書類を纏めて帰ろうとすると美沙が寄って来た。
「先輩、本当にありがとうございました!」
私は苦笑しながら言った。
「いや、君の歌が良かったのさ。とても上手かったよ。」
「ありがとうございます。」
「何かレッスンでも受けていたのかい?」
それを聞いて、美沙はやや俯いた。
「はぁ……」
「ああ、やはりそうなのか。」
「はい、声楽の方なんですけど。」
「クラブも声楽だっけ?」
「いえ、違います。家でその手のレッスンに行かされていたんです。」
「ふーん、芸術一家とかかい?」
「はい……でも本当は一緒に通っていたお姉ちゃんの方が上手かったんですよ。でもお姉ちゃんは……」
そこまで聞いたとき、さゆりが大声で言った。
「荒巻くん、柳川先輩たちが生徒会室に来てるって!」
そう言えばそうだった。挨拶をしなければならない。
「あ、ごめん小島。またな」
私はそう言って走りだした。
途中、さゆりと並んで生徒会室の方に急いでいるとき、ふと小さなぼそりとした声が聞こえた。
「裏切者」
私が声の主の方を向いて、
「何? どうしたの?」
と尋ねると、さゆりは
「別に」
と言って少し目を逸らした。

私たちは柳川夫妻を歓迎して送り出した後、再び各々の仕事に戻った。何にせよ、学校再建の可能性が出てきたことで皆新たなやる気が生まれてきているようだった。
午後5時になった。空はかなり暮れてきた。初日はこれで終りになる。外来の客が、次々と校門から去っていく。晩秋の風が、ひどく冷たい。私は、あらかじめ美沙やその他の中学生の委員たちに講堂の片付けをするように言っておいたが、それを監督するために、講堂近くの茂みまで来たときだった。
「おや。」
 一瞬、講堂から漏れた照明の光が照らし、桂が、背の高い若者と講堂の裏手に向かっていくのが見えた。
「あれは……」
そう、前生徒会長の長谷部だ。
私は、彼らの後を追った。
そのとき、
「あっ!」
という声が彼らの向かった先から聞こえて来た。
壁を曲がったところに見えた光景は、堂々と立つ背が高く逞しい長谷部、そしてその後ろに隠れる華奢な桂、さらに長谷部の前に思いつめた表情で立つ前文化委員長の上原栄子の姿だった。
「よくも……」
栄子の目には、去年私が焼却炉で見たあの狂気と怒気が宿っていた。
私は、栄子が両手に持っているナイフに気が付いた。
「先輩、やめてください。」
私は静かな声で上原に言った。
「あんたには関係ないでしょ!! でしゃばるんじゃないわよ!」
私は栄子の迫力に一瞬たじろいだが、言うべきことは言わねばならなかった。
「いえ、あります。私は現在生徒会の副会長です。そして上原先輩、あなたは前の文化委員長だったはずです。去年の学園祭は、あなたが指揮をして行われたのではないですか。それなのに、あなたは今年の文化祭を滅茶苦茶にするつもりなんですか?」
それを聞いて、栄子は微かに震えた。
「それだけではありません。現在、先輩たちの働きかけで、この学校は助かろうとしています。上原先輩、あなたの行いで、それがダメになってしまうかもしれません。殺傷事件が起きるような学校に、銀行はお金を貸しませんよ。」
私はできる限り冷静な声で言った。
その時だった。
「おねえちゃん!!」
美沙が、講堂の裏口から出てきた。
「どういうことだい?」
彼女の言葉をいぶかしみ、私は美沙に聞いた。
「……お姉ちゃんなんです。パパとママが前に離婚して、苗字は違うけど……」
栄子は、ナイフを落とし、泣き始めた。
長谷部は素早くナイフを取り上げた。
「おねえちゃん……」
美沙は、嗚咽する栄子の肩に手を置いた。

長谷部は、英気の満ちたきびきびした声を見せて言った。
「ありがとう。よく言ってくれた。」
私は一礼した。
「いえ、大したことではありません。」
長谷部は、一瞬押し黙ってから、栄子を見た。
「栄子。今日は俺がお前を送る。」
それを聞いて、栄子は目を見開いてから、小さく頷いた。
先ほどの狂気はすっかり消えていた。
長谷部は、桂を振り向いて言った。
「またな。今日は彼女を送っていく。」
「はい。」
 桂は、長谷部にうっとりした表情を見せながら頷いた。
私は改めて長谷部のカリスマ性に驚きを覚えた。
一瞬で誰もが威服してしまうのは、生まれつきの才能なのだろうか。この種の力は、京子にも、他のどの生徒会役員にもないものだった。
私は一礼して長谷部と栄子を見送った。
桂は頬を赤らめながら長谷部を見ている。
私は長谷部が来ると言ったときの京子の姿を思い出し、なぜか微かに嫉妬を覚えた。
事態としては、今回はこれで収まった。だが、長谷部の魅力と、長谷部の桂への好意がある限り、問題は先送りされただけだ。
私は、彼ら3人が積み上げて来た歴史の中で、ほんの端役を演じたに過ぎないのを自覚していた。人は万能ではない。
とりあえず、歴代日誌には書けないことがまた起きた、ということだ。
「上原先輩、受験勉強うまくいってないみたいなんだ。」
桂がぼそりと言った。
「えっ」
「長谷部さんが言ってた。だから、むしゃくしゃしただけなんだよ、きっと。ぼく上原先輩のこと、悪く思ってないよ。」
私は桂の横顔を見直した。
「長谷部先輩と上原先輩が一緒に帰りましたが、心配ではないのですか?」
我ながら余計なことを聞いたと思ったが、答えはあっさり返ってきた。
「ううん。だって信じてるもの、長谷部先輩のこと。」
桂はそう言って、普段の臆病そうな表情とはかけ離れた、自信に満ちた表情を浮かべた。私はその表情を見て、栄子が二人の間に割り込み長谷部の好意を勝ち取ることは永久に不可能だと確信した。

それにしても。
私も、口数が多くなったものだ。
ふと苦笑した。

「じゃ、ぼくまだ仕事があるから。」
そう言って桂はすたすたと歩き始めた。
ちらりと美沙を見て、
「ごゆっくり」
と私に言った。
 
最後の桂の不意打ちを喰らって私は少々面食らったが、美沙の少し落ち込んだ姿を見て声を掛けた。
「お姉さんだったのか、上原先輩。」
美沙は頷いた。
「うん。おねえちゃん、私より歌上手かったのに辞めちゃって……」
私は美沙の頭に手を載せた。
「私、おにいちゃんがいたの。先輩と同じ年の。」
「えっ。」
「おにいちゃんは、河埜でない別の学校に行っていたの。それがあるとき……おねえちゃんの見ている前で交通事故に遭って……死んじゃったの」
そう言って美沙は啜り泣きを始めた。
「おねえちゃん、それから歌わなくなったの。で、うちのパパとママの間もおかしくなって……」
美沙は涙を流し、嗚咽しながら言った。
なるほど、それが離婚のきっかけになったわけか。
私は、栄子が桂を最初弟のように可愛がっていたことを思い出した。桂は、栄子にとっては死んだ弟の代わりだったのかもしれない。ということは、私は美沙にとって死んだ兄の投影なのかもしれない。
私は美沙を見た。
「おにいさんは……私に似ていたのかい?」
それを聞いて、涙まみれの美沙は私を不思議そうに見上げた。
「……ううん、あんまり似てない。」
「そうか。」
私は再び俯き両手で目を抑えている美沙の頭を撫でた。
そうしているうちに、美沙はやや落ち着いてきた。
「パパとママ、やっぱり河埜の生徒会にいたんだよ。」
「えっ」
私は驚いた。
「パパが体育委員長で、ママが文化委員長。それで大学に行ってからも付き合っていたんだって。それが……」
美沙は悲しそうに目を閉じた。

栄子にとっては、長谷部と結ばれることは、一種の代償的行為だったのかもしれない。弟としての桂。そして、長谷部と自分が破局した父母の関係をやり直し成功させることで、心の傷を癒そうとしたのかもしれない。
だが結果は恐るべきものだった。
過去は栄子の眼の前で完全に断絶したのだ。

運命が、自分の思い通りに動くことなどあるはずはないのだが。
私はそれがわかってはいたものの、栄子のためにほんの少しだけ運命も微笑んでやればよかったのにという気持ちがした。

私は、美沙の頭を抱いてしばらく暗闇の中で座っていた。美沙が、突然気付いたように、目を瞑って唇を私の方に向けた。私は、黙って美沙の唇を自分の唇で覆った。

月が、冴えていた。

文化祭の2日目は、特に問題もなく無事終了した。後夜祭も終り、片付けが始まった。私たち役員は総出でジャージ姿になり、焼却炉でゴミを燃やしまくった。
片付けが全て終わったのは午前2時だった。
 私は、12号館のボード等の撤去に思ったより手間取り、部下たちと汗を拭きながらベンチに腰を下ろした。
すると、携帯電話にメールが来た。京子だ。どうやら、また何か問題が持ち上がったらしい。私は携帯電話をしまおうとした。
だが、何かが。
何かが私の心に引っかかった。
それは、前にも意識下に埋もれていたことだったが、何かはわからなかった。私は、京子のメールアドレスを見た。
私は、意識下に眠っていたものが何か、ようやくはっきりと理解した。
深夜。私たちは殆どが眠りについていた。勢堂も、桂も、井出も、桜子も、佐藤も、さゆりも、そして慶子さえも。
汚れたジャージ姿で疲れて泥のように眠っていた。
だが、私は起きていた。
興奮で眠ることができなかったのだ。
京子は、その細い体のどこにスタミナがあるのかと思えるほどだったが、生徒会室で事務の残りをしていた。

私は、生徒会室に入った。
「あら、荒巻くん。」
京子は驚いたように私を見た。
「寝ないの?」
「先輩こそ。」
京子は、コーヒーポットからコーヒーをカップに注いだ。
「荒巻くんも、飲む? さっき沸かしたばかりよ。」
「いえ、結構です。先輩、大丈夫ですかお体は。」
「私、結構スタミナあるのよ。マラソンはいつも一位。これくらいどうってことないわ。」
京子は、窓から校舎を見た。
「不思議ね、昨日まで文化祭やってたなんて。」
 京子は、カップを両手で持ちながらコーヒーの湯気で顔を覆った。
「そうですね。」
私は頷いた。
「学校ももしかしたら助かりそうだし、今年の学園祭は大成功ね。」
日頃自画自賛などしない京子だが、大役を終えてさすがに気が緩んでいるようにも見えた。
「会長。」
私は、携帯電話を出した。
「これ、先輩のメールアドレスですよね。」
「……そうよ。それがどうかしたの?」
私は、手帳を出した。
「これは、文化副委員長が河埜の生徒で援助交際をしている者がいるという話をしていたので、私がネットで独自に調べたその者のメールアドレスです。」
二つのメールアドレスは、同じだった。
京子の表情が、突然強張った。コーヒーカップが床に落ち、割れた。
カップの白い破片の下から黒い液体が茶色の床に広がっていった。

「何で、こんなことをしたんです?」
私は譴責ではなく疑問のつもりで述べたが、京子はそうとらなかった。
「なんでですって?」
一瞬京子に修羅が宿ったようだった。
私は、そのときの京子の顔と同じ顔を、初日に見たのを思い出した。それは、栄子の表情と同じだった。
「そんなことあなたに関係ないでしょ!!」
だが、栄子と違うのは、京子はそう言ったすぐ後、自分の発言の間違いに気付いて指で口を覆った点だった。
「関係……あるよね。荒巻くんは副会長だし。」
だが、疑問の答えは既にわかりやすくそこにあったし、私はそれを知っていた。だから譴責と解釈されても仕方なかったのかもしれない。
「長谷部先輩のことですね。」
その名前を聞くと、京子は一瞬震え。
その後、ゆっくりと頷いた。
「高1の終り、長谷部会長と桂くんのことを知ったとき、驚くよりも悔しかった。ずっと前から、何となく分っていたから。だけど、それが自分の意識では認められなくて……。私も入学したときから長谷部先輩を、とても、とてもとても好きだったの。それで長谷部会長に言おうとしたの……桂くんとのことをバラすわ、それが嫌なら次の副会長にしてくれって私言おうとしたの。そうすることで私自分の踏みにじられた、裏切られた気持ちをなんとかしようと思ったの。あのときの私、どうかしてた。」
京子は机に両手を付いた。
「でも、私がそう言う前に、あの人は言ったわ。私を副会長にするって。私の方が桂くんよりも次期会長には相応しいって。あの人は私が思った以上の、素晴らしい人なの。凄い人なの。私なんかがどうこうできる人じゃなかったのよ!」
私は、京子に次に会長になれと言われたときのことを思い出した。
歴史は、もともと反復されるためにあるのだろうか。

京子は顔を歪め、泣き声で言った。
「あの人は卒業するときに言ったわ。あの講堂で。あの声で。桂くんを頼むって。だから私、桂くんを今年文化委員長にしたわ。上原先輩が電話で怒鳴り込んできたけど、私突っ張った。」
私の目の前にいるのは、生徒会長ではなく、一人の女だった。

「でも副会長になってから、私とっても虚しかった。好きとも言えない。あの人のことを他の誰にも言えない。あの人を見て、黙って座っているだけ。そんな気持ちでずっと過ごしていたの。そんな気持ち、荒巻くんわかるかなあ? わからないよね」
京子は見たこともないような寂しそうな目つきをして私を見た。

「ネットに入って、1回だけ援助交際したわ。」
 
 京子は、自分を壊したかったのだろう。自分で自分を徹底的に汚し、否定することで、辛さから逃れたかったのだろう。
「でも、全然何の解決にもならなかった。私、ますます自分がダメになるのに気付いたの。だから1回で辞めたわ。」
 京子は暗い顔をして言った。
私は、京子に聞いた。
「その1回だけですね?」
「ええ。相手からのメールはもう着信拒否したわ。」
「2ちゃんねるに、会長と関係があったと思える人物が書き込みをしていました。」
京子は唾を飲み込んだ。
「それ、私だってわかるのかしら?」
「私が幾つか検索キーを使って調べ、会長が書き込みした掲示板を探しあててみただけです。そこは、書き込み者による削除もできたはずです。学校のPCからでは不味いので、お帰りになったらすぐに出会い掲示板での書き込みを削除してください。」
「わかったわ。」
京子は頷いた。
だが、そう言って京子は暗い顔をして俯いた。
「私、学校辞めようかな。」

「何をおっしゃるんですか!」
私は色を成して言った。
「先輩、あと3ヶ月で卒業じゃないですか。これくらいどうということはありません。お気を強くもってください。」
それを聞いて、京子は少し普段の自分を取り戻したようだった。
「わかったわ、荒巻くん。どうもありがとう。」
 京子は、涙を拭いて頷いた。
 
空が、白んで来た。月は、素早く流れる西の雲の中に隠れ、東の空の棚引く群雲を照らしながら、朝日が見えてきた。
「私、始発で家に帰るわ。それで、書き込みを削除してからすぐに戻ってくる。」
京子はジャージ姿のままで立ち上がった。
「着替えないんですか?」
「うん、このまま行くわ。」
京子は、手を差し出した。普段と違って、京都弁のアクセントが微妙に混じっているような気がした。
「本当にありがとう。そして、来年はあなたが引き継ぐのよ。」
朝焼けの中で、京子の細い手は白く映えていた。私は強く頷き、京子の手をしっかりと握った。


翌年の5月。
私は、生徒会室の会長席に座って書類を見ていた。

結論から言うと、学校は救われた。
11月以後、経済が好転し、株式市場は回復基調に向かった。柳川を始めとしたOBが学園の支援に向かい、銀行は理事の交代を条件に融資を認めた。
校長はそのまま任についたが、彼とその妻は理事から抜け、柳川をはじめ資金を出したOBたちが理事になった。つまり、経営陣は大幅に入れ替わった。
一旦は他の学校に行っていた生徒も、かなりの数が河埜に戻ってきた。桜子も、佐藤も帰ってきた。

京子は、推薦で慶応の経済学部に進んだ。桂は、中央の法学部に進んだ。勢堂は東海大に柔道の推薦で進み、井出は東工大に進んだ。桜子は成城大学の文学部に進んだ。
栄子は……早稲田の政経に進んだ。また東大に落ちたのだ。桂の話だと、まだしつこく長谷部にアプローチしているらしい。だが、桂への無言電話は文化祭の日以来ぱったり止んだようだ。
長谷部と桂の関係は、まだ続いている。

私は4月に生徒会長に選ばれ、副会長には同学年の佐藤を選んだ。普通は2年が副会長の職に就くのだが、敢えて実務に強い佐藤にもう1年依頼した。生徒委員長には牧田、文化委員長にはさゆり、書記長には藤原英太、体育委員長には下岡、会計委員長には坂田恵美を選任した。
そして……。

「会長、中学部の生徒委員の指名候補者リストをお持ちしました。」
取り澄ました顔で、美沙が書類を私の机の上に置いた。
美沙は、あれから生徒会によく顔を出すようになり、今年から役員の一人になっている。
「ああ。」
私はその書類に手を伸ばした。
すると、美沙は私の手の上に自分の小さい手を伸ばした。
「会長、日曜日、大丈夫ですよね?」
「ああ、多分。」
「うれしいっ! 楽しみにしてますから!」
受験勉強の合間だが、久しぶりにデートの約束をしていたのだ。

それを見ていたのか、生徒会室の外から
「歳よ。負けたのは歳だけなんだから」
というさゆりのぶつぶつ言う声が聞こえてくる。
「何言ってるんですか。」
という窘める(たしなめる)ような文化副委員長の春日美穂の声が、それに続いた。

私はその声に耳を背けながら、歴代日誌を手に取った。
去年の文化祭の2日目のページを開いた。

11/15日(晴れ)午前4時12分。
記録者:二条京子

学園祭は無事成功。学校も再建の道を歩むことが確定か。
すべてこの世は事もなし。

簡単な、極めて素っ気ない記述だ。
だが、その中にどれほどの出来事や思い出があったか、私はよく知っている。私が写真部を辞めたのは、記録による再現性というものの無意味さを思ってからのことだった。だが、京子の極めて簡単な記述によって、様々な思い出の糸が瞬間光芒の中で紡ぎ出され、私はそれが心の中で様々な速度と密度で巻かれ、浮き、踊っているのを感じた。
歴史は、文字の上にだけあるものではない。
永遠に秘密で終わることもある。
だが、歴史の一行は人の心の襞の様々な思い出の束を、常に呼び出す力を持っている。鍵のようなものだ。それは過去の呼び返しであったり、また過去の断絶であったり、未来への希望であったり絶望であったり現在への警告であったりする。
それでいいのだろう。
書かれたことと、人との対話の総体こそが、本当の歴史なのだ。

私は、歴代日誌の上に静かに今日の記録をつけた。

5/16(晴れ)午後4時32分
記録者:荒巻大輔

特記事項なし。平穏無事な一日だった。
 
 このような書き込みが、過去何千回行われ、そしてこれから何万回行われることだろう。

私はペンを置き、帰り仕度をした後、コーヒーを飲みながら夕方の校庭でサッカーに興じる生徒たちを眺めた。
だが、そうやって時熟の中で時を刻むことを許されたのは、あまり長い間ではなかった。
「せんぱぁい」
美沙がカバンを持って、入り口のところで待っている。
「帰りましょ。」
私は、美沙に無理やり引っ張られるようにして生徒会室を出た。美沙は突然機関銃のように喋り始めた。
「今度の日曜日だけど、ねえ、渋谷にすごく可愛いケーキ屋さんができたの。そこのケーキがね。タルトプディングなんだけど、もう凄く美味しいみたいなの!うちのクラスの子や、声楽部の子にも評判なんだよ。ねえ、109寄った後、そこで食べよ、ね? あ、それからプリクラ!今度新しい機種が出たんだよ。それから、それから……!」
私は辺りに誰もいないのを素早く確かめて、美沙のよく動く唇を自分の唇でそっとふさいだ。

細かくなってきた夕陽の光を浴びながら、美沙は陶然として目を瞑った。
私も目を瞑った。

時が、また、ゆっくりと流れていくのを感じながら。

        - 完 -
posted by 東京kitty at 08:42| 東京 ☁| Comment(1) | 暁の生徒会室 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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